17. 初めての転移
本日より2話ずつ更新します。よろしくお願いします。
せっかくだからアンディとレティも祝ってやってほしい、そうユアンに請われてレンリッヒ18歳の誕生日ディナーに同席することになったヴォード公爵夫妻。
皇太子の成人の特別な晩餐である。2名増えたところで慌てる皇城厨房ではない……と言いたいところだが皇城厨房メンバーズは大わらわだった。頑張れ。
「ハル、最近ソフィーの体調はどうなんだ?」
すっかりくつろぎモードのアンドリューがハルバートに尋ねる。ハルバートの妻ソフィーは若くして大病を患い、長い間静養していた。
「ありがとう。おかげで最近はずっと調子がいいんだ。長い時間、庭の散歩をすることもあるよ。今日もすごく来たがってたけど、さすがに長距離の馬車移動はまだ、ね」
「私もソフィーにはずいぶん長い間会ってないわ。ソフィーがこちらに来られないのならせめて私が会いに行きたいけど、皇后の立場ではなかなか自由に会いにも行けないもの」
皇后キャサリンの言葉にレティシアも同意する。
「私もソフィーに会いたいわ!最後に会ったのはいつかしら?」
「じゃあ俺が連れてこようか?」
その手があったか!
レンリッヒが授かった転移魔法の真の価値を改めてかみしめる一同だった。
「それは魅力的な提案だが……、最愛の我が妻ソフィーを転移魔法の実験台にするのか?」ハルバートの声が心なしか地を這っているようだ。
「そんなつもりはないよ。その前にちゃんと試してから迎えに行くよ」
どうやって試すつもりだ?一同の視線がレンリッヒに集まる。
その視線からそっと目線を外し、レンリッヒはサラフィナを見た。この魔法を付与された時から、最初の転移はサラと一緒に、そう考えていたレンリッヒだった。
「ちょっと待て、まさかサラを実験台にするつもりじゃないだろうな?」
アンドリューが焦って問い返すと、サラフィナはきらきらと目を光らせながら答えた。
「私はファイス神様とレンを信じます!」
いやそれって、好奇心に勝てないだけでは?と誰もが思ったが、仕方がない。
だって転移だ。元日本人の二人にとって夢のスキルだ。
「行こう、サラ!」
「うん!」
二人が手をつないだ瞬間、すっと二人の姿が消えた。「って、どこにーーー」サラフィナの言葉が空に消えていった。
それは本当に一瞬だった。
くらくらするという感覚もなく、次の瞬間周りの景色が変わっていた。
「ここ、どこ?」
にぎやかに人が行き交う大通り。磯の香りがする。港町だろうか?
「カンティラだよ!サラを連れてきたかったんだ!」
先に行き先言ってよね!ほほを膨らますサラフィナだったが、実際のところ興奮していた。
だって今の今まで皇城のサロンでお茶を飲んでいたのだ。それが馬車で5日はかかる東の港町に来ているのだから。
「午後のこの時間になると市場はもうほとんど閉まっちゃうけど、屋台はまだやってるはず。行こう!何かあったらすぐ戻れるよう、手は離さないでね!」
「もう!あ、でも私お金持ってきてない」
「大丈夫!少しなら俺、持ってるから」
しっかりと手をつないで走り出す二人。
魔法付与式の正装のままのレンリッヒと、ドレスのままのサラフィナである。
目立つことこの上ない。そして寒い!上着なしで来てしまった。
「ううっっ、失敗!次からはちゃんと準備して、町娘風の服装で来ましょう」
「そうだね、ごめん、寒いよね?でもせっかくだからちょっとだけ楽しもうよ」
そういって市場前の屋台まで来た二人。お目当ての磯焼きのお店に声をかけた。
「ウニ焼き二つとサザエ二つください」
「まいどー、って、えぇぇぇ!!!!」
顔を上げた店主が固まる。
きらびやかな正装の二人。しかも男性のほうは先日視察で来ていた皇太子……?
「は、800リルです」
顔をこわばらせながらなんとか答える店主。
これで、とレンリッヒが差し出したのは金貨(10万リル)。
「もっと細かいお金はございませんか?」
「ごめん、これしかないんだ」
少し持ってるお金って金貨だったんかい!とサラフィナは心の中でツッコんでいた。
「おつりがなければ要らないよ」
そんなわけにはいかないと隣の屋台の店主も協力し、かき集めたおつりを渡す。
「かえって迷惑かけちゃったみたいでごめん、次からは気を付ける」
しょんぼりしたレンリッヒだったが、熱々のウニ焼きとサザエであっさり復活していた。
「おいしい!」
「だろ?サラに食べさせたかったんだよね。でも寒いからもう帰ろうか」
ぶるっと体を震わせる二人。
わずか10分の滞在だったが、潮風を感じ、磯焼きを食べ、大満足で皇城に戻る二人だった。
「で~ん~か~」
皇城のサロンではヴォード公爵が仁王立ちして待っていたのだが。




