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15.レンリッヒの魔法

ステンドグラス越しに冬の柔らかな日差しが差し込む大聖堂内。


その瞬間が刻一刻と近づいている。

人生において一度きり、そして一つだけの魔法。

魔法の種類は多すぎて、ほとんどの場合希望通りの魔法が付与されることはない。皆、それぞれに喜んだりがっかりしたりしながら、与えられた魔法を最大限に活かすよう、少しずつ折り合いをつけていくのだ。


ほとんどの人がこの瞬間を緊張のピークで迎えるのだが、レンリッヒは通常運転だった。

「親父の魔法が嘘を見抜く力、だろ?俺もまあ間違いなく皇帝業務に関する魔法だよな」

毒の無効化とか~、薄っぺらい笑顔でも国民を魅了できるスキルとか~?

皇帝を「業務」と言い切り、人生を達観する17歳、間もなく18歳。


「殿下、お時間です。中央へ」

教会から唯一参加している大司教に促され、レンリッヒは中央の祭壇前で跪く。

実際には跪こうがおしゃべりしていようが魔法は付与されるが、要は気の持ちようである。


太陽が真上に昇り、12時の鐘が鳴るその瞬間。

レンリッヒの体が白い光に包まれた。


そして浮かび上がる文字。


付与魔法:転移魔法

過去に一度でも訪れたことのある場所への移動が可能、屋外のみ。回数無制限。

屋内への移動は自宅へのみ可能。

身体に触れている1名まで同行可。


…………………………………………。

なんじゃ、そりゃぁぁぁぁ!!!!


聞いたこともない魔法の出現に、その場を沈黙が支配する。



「素晴らしい魔法の付与、おめでとうございます、殿下。悪事にも利用できてしまうこの様な魔法は、心根の美しい人にのみに与えられます。どうか国のため、国民のためにこのお力をお使いいただきますようお祈り申し上げます」


いち早く立ち直り、祝辞を述べる大司教。

さすが、様々な魔法付与式に立ち会ってきただけある。イレギュラー対応にも慣れたものだ。


「いや、レンは悪事にこそ手は染めないと思うけど、自分の食欲のためだけにこの力を使う気がする……」

ルイポルトのつぶやきに「それな!」と思ってしまう一同。


衝撃のお告げを受けたレンリッヒの脳内はまたもや大忙しだ。

「いやいや待て待て、どういうこと?それって短い時間で、サラを連れてカンティラまで飛んで磯焼きを食べて戻ってくることができるってこと?ダーレムまで飛んでお米を買い、すぐ戻ってサラに渡せるってこと?チートすぎじゃん!」

予想通り、食欲一択である。サラフィナ絡みなのが救いではあるが。


「さすがにこの魔法は……、我が息子とはいえずるいぞ」

ユアンが、皇帝とは思えない器の小さい発言をする。

「親父もどこへでも連れて行くよ。任せろ」

ああ、親父呼びも完全定着である。

「あら?私は?」

「もちろん母さんも」

あれ?俺、逆に忙しくなるんじゃね?ひそかに不安を覚えたレンリッヒだった。


サラフィナはどこか落ち着かない気持ちでそのやり取りを聞いていた。

今、この瞬間からレンリッヒはいつでもどこでもいなくなってしまう。

急に遠い存在になってしまった気がしたのだ。

そんなサラフィナの気持ちに気づいたのか、レンリッヒはサラフィナの隣に立ち、そっと手を握った。まるでこれからどこへ行くのも二人一緒だと言わんばかりに。


奥に控えていた侍従長は、崩れ落ちるところをマークに支えられていた。

「あんまりです。これはもう、あんまりです」

「ま、これを与えられておとなしくしてたら、それはもう殿下じゃないっすからねー」


この日より、皇城勤めの使用人の苦難が始まる。ファイス神よ、責任を取ってもらおうじゃないか。

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