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14.おにぎり

帝国歴1780年12月17日。

この日、レンリッヒは18歳となる。


サラフィナはこの日、ブルーから白へのグラデーションが美しい、細身のドレスを着ていた。

手持ちのドレスの中で一番大人びたデザインのものだ。

なんだか今日はちょっと背伸びをしたい気分だった。


大聖堂の控室に通されると、そこには真っ白な正装に身を包んだレンリッヒが待っていた。

「サラ、来てくれてありがとう!うわぁ、今日はすっごくきれいだよ!」


ガコォオン!!嬉しそうに立ちあがったレンリッヒのみぞおちに、キャサリンのこぶしが入った。あれ?おっとりした皇后のイメージだったのだけど……?

「今日は、じゃなくて、今日も、でしょ!ホントにデリカシーがないんだから」


母さん、今のクリーンヒット過ぎ……、レンリッヒがうめいている。

ああ、とうとう「母さん」呼び定着ですか。

「先日はうちのバカ息子がごめんなさい。きっちり反省させるからこれからも見捨てないでやってくれないかしら」

キャサリン皇后のイメージがどんどん崩れ、大阪のおばちゃん化してる気がしてならない。


「今日は息子のためにわざわざすまない。感謝する」

そう挨拶する皇帝ユアンは、心なしか目をそらしている気がする。


「こちらこそ、このような大切な場に呼んでいただき、気が引き締まる思いです。そしてレン!誕生日、おめでとう!」

そう言って手に持っていたバスケットをレンリッヒに差し出した。


先日のささやかな意趣返しである。

皇太子への誕生日プレゼントがおにぎり。意趣返しとしてはやりすぎかなと思いもしたが、サラフィナとて意地があるのだ。


「プレゼント?あれ?これってもしかして……、おにぎりだ!!!」

意趣返しどころか感動に打ち震えているように見える。


「おにぎりの具は何?」

「鮭とツナマヨです」

「どっちも俺の好きなやつー!!キター!!」


サラフィナはそっと皇后に耳打ちした。

「これ、私からの仕返しだって伝わってます?」

「おにぎりというのが何かは分からないけど、無理ね……、完全に喜んじゃってるわ」


事の成り行きを黙って見守っていたハルバートとルイポルトは、とうとう我慢できずに笑い出した。

「カイザー大公殿下、ルイポルト殿下、ご無沙汰しております」


「久しぶりだね。すっかり美人さんになって。レンと仲良くしてくれているようでありがとう。私のことはハル叔父さんとでもよんでくれ」

「お!じゃあ俺のことはルイと呼んでよ。二人、なかなかいいコンビだね」

「ふふっっ、ありがとうございます。では私のことはサラとお呼びください」

「サラ、いいね!妹ができたみたいで嬉しいよ」


ちょっと待てー!!なんでルイ兄がサラを呼び捨てしてんのぉ?レンリッヒが慌てているがお構いなしである。

「おお、かわいい弟がやきもち焼いてるぞー」


一方、レンリッヒの脳内は大忙しだ。目の前には夢にまで見たおにぎり!その向こうではイケメン従兄のルイポルトがサラフィナにちょっかいを出している。そして自分はそのサラフィナに先日の事件以降、面と向かっては謝れていない。


頭の中で優先順位を組み立てた結果、出た言葉は……「これ食べていい?」


全員のため息が漏れ、壁際に控えていた侍従長とマークが崩れ落ちた。

「この、バカ息子が……」キャサリンの地を這うような声が聞こえたのは気のせいだろうか。


とはいえ、おにぎりはサラフィナにとっても自信作である。レンリッヒに食べてもらいたくて試行錯誤を重ねたのだ。

「まだ式まで時間があるようでしたら、ぜひ」

「サラはもう食べたの?」

「少しは味見をしたけど我慢したわ。せっかくなら最初はレンと一緒に食べたいなって」


サラフィナの健気な言葉にレンリッヒは思わず彼女を抱きしめた。

「可愛すぎでしょ、サラ!一緒に食べよう!」


うおっほん!ユアンのわざとらしい咳払いに、赤くなりながら慌てて二人は離れた。

「せっかくだから皆さんもいかがですか?見た目が真っ黒で抵抗あるかもしれませんが」


まずはレンリッヒが手を出し、我慢できずにかぶりつく。

「うー、これこれ、うまい!最高!」

サラフィナも一つ取り、口に運ぶ。

「うん、おいしい!食材見つけてきてくれてありがとう、レン」


二人の言葉につられ、皇帝皇后、大公親子、侍従長とマークも手に取ってみる。今日の魔法付与式に参加するのは限られたこのメンバーだけだ。


「ふむ、サンドイッチより物足りない気もするが、シンプルで飽きのこない味だな」

「あっさりしていて、こういう控室で食べるのにとても良いわね」

「いいな、どれも見たことのない食材だが、どこで採れるのだろうか」

「米は南の大陸で食べたことがあるけど、こんなシンプルな料理じゃなかったな。この薄くて黒い紙みたいなのも初めて食った。うまいな」


おおむね好評のようだ。ほっとして目を見合わせ、笑うレンリッヒとサラフィナだった。

もう仲直りは必要ないのではないだろうか。


そうこうしているうちに魔法付与式の時間となる。

みんな、歯に海苔がついてないよね?

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