王妃様、恋愛小説にハマる
その夜_____
『おい、グリムヒルデ!何故我に質問しない?我に質問すればなんでも答えてやるというのに!』
「もう!うるさーーい!なによ!」
リュカが帰ってから、鏡がずーっと脳内に直接話しかけてくる。
『魔法と名がつく物で我が知らないことはないんだぞ!』
『偉大なる魔法の鏡である我よりあんな小僧に話を聞くのか?』
『魔法のアイテムに興味があるなら我に聞くがよい!ある程度の場所ならわかる』
『そうだ!魔女の血筋について知りたいのなら教えてやろう!魔法に関わることなら答えられる』
『ほら!質問しろ!鏡よ鏡って…』
寝る準備をして、もう寝るだけだって言うのに鏡がうるさくて眠れない。
「いい加減にしてちょうだい!」
鏡をしまっているウォークインクローゼットの扉を開けると鏡を揺さぶる。
「あなたが選んだ騎士を見てきたけど、ろくな奴らじゃなさそうだし!自分を守るための武器はいくらあってもいいわ。魔塔とのバイブ第2に私はもう眠いの!鏡であるあなたは人間のように睡眠を必要としないのだろうけど私は人間なのよ!」
『むっ、むぅ…すまぬ、わた、我が悪かった。謝る、謝るから!揺さぶるのはやめてくれ!割れそうで怖い!』
「あなたのことは忘れた訳じゃないし、このよくわからない味方も少ない世界で味方になってくれた。感謝してる…これからだってあなたに助けてもらうつもりよ。…今日はもう寝るわ、おやすみなさい」
さて寝ようとベットに入ると、もう鏡からの声はなかった。
今度こそ私は夢の中に旅立ったのだった。
私はその晩、夢を見た。
今の白雪姫より少し幼い白雪姫が母を亡くし泣いている。
塞ぎ込む白雪姫はふと何かに誘われるように、庭に出る。
引き寄せられるようにりんごの木に近づき、真っ黒なりんごをもぐと食べようとする。
何か嫌な予感がする…というかりんごが真っ黒って…食べたらお腹壊すでしょう!?
「ダメよ、待って!そのりんごを食べちゃダメ!」
見覚えのある天井…さっきのは夢だったらしい。
おとぎ話に出てくるような真っ黒なりんご、それを食べる白雪姫。
「夢か…よくわからない夢ね…」
いつの間にか寝汗をかいていたらしい、汗が冷える感覚に身震いする。
時計を見ると夜中の3時だった。
「変な時間に目が覚めちゃったわね…」
ネグリジェを違うものに着替えて布団に入ると、今度は変な夢も見ずに朝までぐっすりと寝た。
「おはようございます、王妃様!…あれ?昨日の晩に着ていたネグリジェじゃないですね?」
「あぁ、そうなのよ。ちょっと変な夢を見ちゃってね…寝汗をかいてしまって、気持ち悪かったから着替えたの」
「なるほど…それでは変な夢を見ないように寝付きが良くなるカモミールティーを今夜はお出ししますね!」
ジヴァはニコニコと微笑みながら、私の着るドレスを出し着させると、髪の毛を整えメイクを施す。
最近は仕事に慣れてきたようで流れるような手つきで仕事をこなすのだ。
メイドが2人しかいないブラックな職場ではあるが、メイドとしてジヴァとユイが優秀なため成り立っている。
「えぇ、ありがとう」
「王妃様、本日のご予定はどういたしましょう?」
ジヴァが身だしなみを整え終わったタイミングで丁度よく食事をカートに乗せ運んで来ると、予定を聞いてきた。
王妃としての仕事はとくに言われてないし、だからと言って部屋でポケ〜っとしてるのは味気ないし、どうしたものか…
本とか暇つぶし出来るものがあればいいけど…
そうだ!王宮なら図書室みたいな所とかあったりして?
「本が読みたいわ、王宮って本がたくさんある所ってないのかしら?」
「ありますよ、それではお食事が終わったらご案内致しますね」
「頼んだわ、ユイ」
白雪姫と王様の夜の大運動会を目撃してから、
白雪姫からの精神攻撃やメイドからの嫌がらせ(毒を盛る、針を仕込む、物を盗むetc…)に精神をすり減らしていたが、白雪姫は王様に命じられ謹慎中、私を明らかに冷遇していたメイド長は洗濯メイドに降格させられ、白雪姫付きのメイドも粛清されたことにより、悩みの種が解消されたのだ。
平和って素晴らしい!とニホンジンである私が泣いて喜んでいる。
ついでに今日の朝食は温かいふっかふかのパンにトロトロのオムレツ、フルーツのように甘いミニトマトにカリカリのベーコンにコーンスープだった。
2日くらい放置されたカチカチのパンを出されたり、冷え冷えのスープを出されてた頃を思い出しジーンとする。
そして心の中で強面のシェフにグッジョブ!と親指を立てる。
この白髪は目立つため、髪の毛をお団子に結ってもらいヘッドドレスベールを被りユイに先導してもらって図書室に行く。
この世界の文学とかどうなってるんだろ?
シェイクスピアとかあるんだろうか?
私は純愛物語に飢えてる、間違えても近親相姦ものや王宮のドロドロ愛憎劇なんてこの状況だけでお腹いっぱいだ。
現実逃避と言われたっていい!
平民と貴族の身分の恋愛モノとか、騎士とお姫様の恋愛モノとか身分差恋愛とか!!
ラノベ系とかも好きなんだけどこの世界にはないとわかっているから期待していない。
純愛成分を接種させてくれぇぇぇ!!(切実)
ユイについて回られたら本を探すのに集中出来ないからと、図書室についた私はユイに図書室の前で待っててというと本を探し始める。
図書室は圧倒的な広さであった。
どのくらい広いかというとニホンジンの記憶から引っ張り出すと、体育館5個分?くらい。
図書室を全て見てまわるのに3日以上はかかるかな?
ここから恋愛小説を探し出すの時間かかりそうね…まぁ、暇だし。
時間かかってもいいか!
*
図書司書らしき人はいたが、恋愛小説ってどこにありますか?って聞くの恥ずかしくて聞けず、自力で探し回る。
あれから何時間経ったのかわからない。
ヘロヘロになりながらも恋愛小説らしきコーナーを探し出せたのは、窓から茜色の夕陽が差し込む頃だった。
本を手に取り、パラパラと内容を見る。
騎士と男爵令嬢の恋愛モノ、男爵令嬢が憧れの騎士を追いかけて性別を偽り入団するというもの。
これ、前世のニホンジンの私が好んで見ていたなろう系っぽくない?
ひゃっはーーー!テンションあがるぅ!
何冊かペラペラと本を捲り、気に入った本を2冊手に取り貸し出し手続きを済ませると図書室を後にする。
「王妃様、本をお持ちします」
図書室で待っていたユイが私から本を取り上げる。
「自分で持てるわよ?」
「いけません、王妃様にスプーンやフォークより重いものを持たせるなど言語道断です」
ユイはそういうと自室まで私を先導してくれる。
ずっと図書室の前に立たせちゃって、なんだか申し訳ないわね…自室から図書室までの道のりは覚えたし、今度からは先に部屋に戻っててもらいましょう。
心の中でそう誓うとジヴァが淹れてくれたフルーツティーで喉を潤すのであった。
そして私は空き時間に持ってきた恋愛小説を読むと見事にハマった。
破天荒なヒロインに振り回されながらも危ない時には駆け付けるイケメンヒーロー。
性別を偽っているヒロインにときめいてしまい、自分は男色だったのか?いや違う!という心の中の葛藤が面白すぎる。
ヒロインも性別を偽って、男としてヒーローに接しているが男同士でキスはしないでしょう!?と戸惑い、もしかしてヒーローって男色?というすれ違いがまた…
面白すぎてあっという間に読み終わってしまったが、問題があった。
この本、前編だ…タイトルよく見てなかった…
うわぁぁ〜〜!!!気になるぅぅぅぅ!!
ヒロインの正体を知る幼なじみとの三角関係!
幼なじみとヒロインの距離が近くてもしかしてヒロインも男色なんじゃ?って勘違いが加速してるんだけど、どうなるんだぁ〜!!
借りてきたもう一冊も同じ作者の恋愛小説だった。
でも続きが気になりすぎて新しい小説を読む気にならない。
でもだからと言ってもう夜遅い時間だから図書室に行く訳には行かないし、また明日までお預けだぁ〜!
夕飯を食べ、シャワーを浴びて寝る支度を済ませるも本の続きが気になりベットの上でジタバタと暴れる。
「うわぁぁ〜!気になるぅぅ!」
枕に顔を埋め、うんうん唸っているとコンコンとノックする音が聞こえる。
「王妃様、ジヴァでございます。夜分遅くに申し訳ありません。朝に寝付きが悪いと仰っていたのでカモミールティーをお持ちしました」
「ありがとう、ジヴァ。入っていいわよ」
「失礼します」
ジヴァがカートを転がして入ってくる。
まさか覚えていてくれたなんて!と感動した。
ジヴァが淹れてくれたカモミールティーを飲んだ私は本の続きが気になり過ぎて寝れないと言っていたはずなのにあっさりと寝てしまった。
その夜は変な夢など見ず、翌朝すっきりと目覚めたのであった。




