不審者の正体
「不審者…ですか?ここは王宮ですよ…見張りもいるはずですが…」
ガイゼルはまさか!と困惑した表情をしている。
「私以外の者は見えていない様子でした。不審者が被っていたフードがとれた瞬間、他のメイド達も気付いた様子だったので、フードに何か仕掛けがあると思うのですが」
「はーなーせー!クソッ!なんでバレたんだよ!誰にも見えないはずなのに!」
ユイにぐるぐる巻きにされ、ギャーギャーと騒いでる男に目を向けるとガイゼルが目を見開く。
「こ、こいつは…!」
「もしかしてガイゼル様のお知り合いですか?」
「あっ、いや……その、この方は半年前に騎士団に入りたいと突撃してきた、魔塔の主のお孫さんです」
まとう?マトウ?魔塔?魔塔ってファンタジー作品で出てくる?
魔法を研究してバンバン使う魔法のプロフェッショナル集団?
「ごめんなさい、魔塔って言うのは?」
「魔塔というのは魔法と言われる超常現象を研究し解明する変…ゴホン!物好き…の、その…」
すごいガイゼルがモゴモゴしてる…というか変人って言おうとしたよね?
言い直してるけど物好きも大して変わらないからね?
「そんな人がなんで王宮に?」
「それは本人に聞いてみないとなんとも…」
ここだと人目もあるということで騎士の控え室にこのフード男を連れていくことに。
興味を惹かれた私は、カイゼルについていく。
「リュカ殿、失礼致します」
ユイにぐるぐる巻きにされたフード男をガイゼルは軽々と担ぐと歩き出す。
「うわぁぁぁ!?ガイゼル様!?お、おろしてください!自分で歩きます!歩きますから!」
「逃げられたら困りますので…あまり暴れないでください、落としてしまいますので。」
「くぅっ…!」
ガイゼルの後ろについていることもあり、必然と俵担ぎをされている男と目が合う。
とりあえず、ニッコリと笑って手を振った。
「あの…靴です、履いてください。おみ足が汚れてしまいます」
そういえばこの男を捕まえるのに夢中で、走りにくいからって靴を脱いだんだった。
「ありがとう、ユイ」
ユイに靴を履かせてもらいガイゼルの後ろについて行く。
本当は靴くらい自分で履きたいけど、王妃が自分で靴を立って履いちゃいけないもんね…
まぁ、ヒールを脱いで走って不審者を追いかけちゃってる時点で王妃様らしくないだろうけど…緊急事態みたいなもんだったからノーカンで!
騎士の控え室につくと、フードの男は椅子に座らされる。
フード男はちょっと拗ねた顔をしている。
ガイゼルに席をすすめられ、フード男の対面になるような形で席に座る。
ガイゼルが口を開く。
「聞かせて頂けますか?何故、リュカ殿があんな所に?」
「………」
そっぽを向いて言わないぞアピールをする男。
「魔塔の主の孫であろうとも王宮への不法侵入は犯罪です。答えて頂けないのであれば尋問するしか…」
ガイゼルの「尋問」の言葉に顔色を変えて話し出す。
「ふ、不法侵入ではないぞ!ちゃんと許可はとってある!これが証拠だ!」
そういうと服で隠れていた、首に下げている許可証を見せる。
「では何故、怪しい格好を?そのフードはなんなのですか?王妃様から伺いましたが、明らかに身を隠す意図がありますよね?」
「はっ?王妃?あの性格が悪いって言う噂の?そんなのどこに……」
壊れたオモチャのように、男がギギギッと首を動かしこちらに視線をやる。
「へぇ〜…そういう噂が出回ってるのぉ。それはいいこと聞いたわ〜。初めまして、性格が悪いって噂の王妃よ?」
私は男にニッコリと笑いかけ、自己紹介してやった。
途端に男の顔が真っ青になる。
ガイゼルはあちゃ〜っとした素振りをする。
「安心してちょうだい?私、噂よりは性格は悪くないつもりよ?性格が悪かったら即刻あなたの首を切ってるでしょ?」
そういうと私は親指で首を切る仕草をする。
男の顔色は真っ青を通り越して紙のように真っ白になり、ガタガタと震え涙目だ。
「あっ、いや、あの…その、す、すみません…」
「謝らなくていいわ…それよりなんでこんなことをしたのか。このフードについて詳しく話しなさい」
男はオドオドしながらもポツリと語り出した。
「俺、どうしても騎士になりたくて…入団テストを受けて入ろうと。自主練の仕方とか参考にしたくて。それで騎士達がポロッと入団テストの内容を話さないかなって…思って…そうすれば対策とか出来るし。このフードはおじいちゃんのコレクションで姿隠しのフード。どういう原理かはわからないんだけど、これを被ると透明人間みたいになるんだ」
男の話が終わるとガイゼルは溜息を吐き、私はなるほどと納得した。
どうりで皆、反応しなかったわけだ………あれ?
じゃあなんで私にだけ見えたの?
「そのフードを被ると透明人間みたいになるということは姿が見えなくなるということよね?なんで私だけ見えたのかしら?」
「そ、それは……わかりません。だから声をかけられた時もびっくりして…」
鏡だったら何かわかるかな?魔法関連の話?だとは思うし。
「まさか、騎士になりたいと…そこまで本気だとは思っていませんでした。真面目に取り合わなかった自分も悪かったですし、リュカ殿には体力テストを受けて頂き、合格したら見習いからにはなりますが…騎士として入団させましょう」
「本当ですか!ガイゼル様!」
「えぇ…男に二言はありません」
ガイゼルとこの男の間で話は纏まったようだ。
ガイゼルが男を拘束してる縄を解こうとするがなかなか解けないようで、手こずっている。
「な、なんだ?えらく厳重に縛られてる…一体誰が…」
「私のメイドが縛りましたの、凄いでしょう?」
「え、えぇ…にしても、解けない…」
私はまだこの男に、魔法がかかった品がないか魔塔とはどんな所か聞きたいので部屋に招くことにした。
「私、あなたと話したいことがあるのだけど…この後時間とってもらえるかしら?」
私の言葉にさっきまでの嬉しそうな顔から途端に真っ青な顔になる。
天国から地獄に突き落とされたみたいな顔ね、失礼しちゃうわ。
「わ、わわわわかりました…」
ガイゼルは何か言いたそうな顔をしていたが、知らん顔して連れていく。
控え室から出るとユイが部屋の前に控えていた。
「ユイ、この男を私の部屋に連れていくわ」
「承知しました」
ユイは頭を下げるとフード姿の怪しい男、もといリュカをギロリと睨み、怪しい動きをしたらすぐにでもロープで縛ってやるとばかりに手にロープを巻き付ける。
その仕草にビクッと怯えたように肩を揺らし、大人しく私の後に続く。
まるで死刑を待つ死刑囚みたいだ。
そんなに怯えなくてもとって食ったりなんてしないのに…
自室につくと立たせたままという訳にもいかないのでソファに座らせる。
「そんなに固くならなくていいのよ?」
まぁ、そんなこと言っても緊張するでしょうけど……
「は、はいぃぃ……あ、あの、俺はなんで王妃様の部屋に呼ばれたのでしょう?」
「まぁ、そんな慌てないで?ジヴァ、この子にお茶を出してあげて」
「かしこまりました」
リュカは落ち着かずにキョロキョロと部屋を見ている。
「私ね、魔法のアイテムにとっても興味があるの。あなたは魔塔の主の孫と聞いたわ、色々話を聞かせてちょうだい」
「えぇ!?王妃様が魔法の道具に興味が?あっ…そうか魔女の血筋なんだもんな…」
「魔法のアイテムは他にどんなものがあるの?手に入れる方法は?魔塔ってどんな所?魔女の血筋って?何か特別なものなの?」
「ま、待って!そ、そんないっぺんに質問されても答えらんねーよ!…です」
敬語に慣れていないのかとってつけたように言い直す。
「あら、ごめんなさい。慌てているのは私の方だったわね。あら、ちょうど紅茶が入ったみたいね」
タイミング良くジヴァがお茶を運んできてくれる。
ダージリンの爽やかな匂いが部屋に広がる。
2番詰みの最高級品ね、ストレートで飲むのが1番美味しいのよね。
紅茶をひとくち口に含む。
鼻腔内にマスカット・フレーバーが広がる。
「ふふっ……美味しい。時間はたっぷりあるもの。そうだ!1週間に1回、聖杯の日の午後3時に遊びにいらっしゃい。堂々とそのフードは着けずに」
「えぇ!?そ、そんな…」
リュカは戸惑い、何を言おうか迷ってると傍に控えていたユイが口を開く。
「いけません王妃様。変なフードをかぶり王宮に忍び込むような奴です。明らかに怪しいです!」
「ユイ、大丈夫よ 。身元は割れてるし、万が一このリュカが変なことをしてもユイなら簡単に倒せるでしょう?」
ユイに茶目っ気たっぷりにウィンクをすると、ユイは黙り込む。
そしてユイはリュカを頭から足の爪先まで見た後、多分ユイはリュカなら制圧出来るだろうと踏んだのだろう。
頭をサッと下げて定位置に戻った。
もう護衛としてユイを置くのでいいのではないだろうかと思ったが、メイドもしながら護衛は大変だろうと諦める。
「ね?リュカ…と言ったわね?いいでしょう?聖杯の日が都合が悪いなら、聖月の日でも聖火の日でも聖水の日でもいいわよ」
「い、いえ…聖杯の日で大丈夫です…」
私の言葉にリュカは諦めたように言った。




