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心優しき騎士団長ガイゼル

会場は白雪姫の誕生日を祝うどころではなく、緊張が走り妙に静まり返っていた。

この耳が痛くなる沈黙の中、私は言う。


「なくなった宝石は非常に珍しい品物でこの国で持っているのは私しかいないようなとても貴重な宝石なんですよ。だから持っていたらすぐわかります」


私の言葉にまたざわめき出す貴族達。

その声を黙らせるかのように白雪姫が言葉を紡ぐ。


「そんな貴重な品を私に…ですか?」


「えぇ、あなたは私の大事な娘ですもの。当たり前でしょう?」


にっこりと白雪姫に微笑むと肩をポンポン叩く。

その姿を見た貴族達は今まで自分達が険悪だと思っていた親子仲は良好だったのではと、考えを改めた。

もちろん、私は実の父親とチョメチョメする娘と仲良くする気はちゃんちゃらなく、親子仲が良好だったことなど一度もないのだが、味方になってくれる人は多いに越したことはないという計算しての行動であった。


本人の心の中とは裏腹に和やかな空気が流れる中、門兵の声に身を固くする。


「王様のおいででございます」


予想してたより早いご登場だわ。

もっと白雪姫を徹底的に追い詰めて周りの貴族達の疑心を増幅させてる所に来てくれたのならやりやすかったのだけど……そう上手くはいかないわね。

王は忙しい方だからもっと遅く来ると思ってたが、仕事を切り上げて来たのかしら?

大事な一人娘の誕生日には駆けつけるのね。

王は私ではなく、きっと白雪姫の味方をするに決まっている。

さて、どうしようかしら?


「そんな1箇所に集まって何をしてるんだ?」


王は真っ直ぐ私達の所に来る。

私と白雪姫は椅子から立ち上がると、王に頭を下げる。


「お父様!来てくださったのね!嬉しい。ゆっくり出来るんですか?」


「白雪姫、誕生日おめでとう。今日のために仕事を少し前倒しで片付けたんだ。急な仕事が入らない限りゆっくり出来るだろう」


王と白雪姫の和やかな空気、仲良しな親子の間に私は入れない。

手に力が入り、ドレスの裾をギュッと掴む。

私はなんとも思わない、クイーン・グリムヒルデの意識がそうさせるのだろう。

頭の中にベットの上で交わる汚らわしい2人の光景が流れる。

反吐が出るわ!


「王妃も来ていたのだな、もう体調は大丈夫なのか?」


「はい、白雪姫が生まれためでたい日ですから。体調も休ませていただいたおかげで戻りました」


「そうか……何故黒いドレスを着ているんだ?王妃。」


「それは……今日は白雪姫が生まれためでたい日でもありますが、前王妃がご逝去された日でもありますので、白雪姫の誕生日パーティーに呼ばれる前に花を供えに行ったのです」


「そうか、私も白雪姫のところへ顔を出す前に寄ったのだが、あの綺麗な花を供えてくれたのは王妃だったか。ありがとう」


「いいえ、娘である白雪姫が今ここにいるのは前王妃様のおかげです。当然のことですわ」


白雪姫そっちのけで話していると王の横にいる白雪姫が私を睨んでいる姿が目に入る。

その姿はまるで般若のようだ。可愛い顔が台無しだ。

というか他の人に般若顔見られるけど!?

いや、角度的に見られないように俯いて王の影にいる!?

計算し尽くされているだと!?


王が白雪姫の方に向くと、白雪姫はいつもの可愛い顔に瞬時に戻る。


「白雪姫に誕生日プレゼントを用意したのだ、気に入ってくれると嬉しいのだが…」


「まぁ!お父様の用意してくれたプレゼントが気に入らないわけがありませんわ!ここで開けていいかしら?お父様」


「あぁ、いいぞ。あけてみなさい」


白雪姫がプレゼントの包装をビリビリにし、箱をガサガサと開ける。


うわぁ〜…ドン引き。丁寧に包装されてるのにそんな雑に開ける?

みんな何も思わないの?周りをチラッと伺うが、王様が白雪姫に何をあげたのかが気になってるみたいで、そこは誰も気にしてないみたい。

え〜、プレゼントの包装紙とか本のカバーとかにするために綺麗に剥がしてとっといたりとかしてた日本人の感覚がもったいないと訴えてくる。


ここにいるのは貴族か王族だものね……価値観合わないわ〜…


白雪姫が箱から取り出したのはクマのぬいぐるみだった

人のプレゼントにケチをつけるのはどうかと思うけど、年頃の娘の誕生日にクマのぬいぐるみはないんじゃ……?


このくらいの年代の子ならオシャレに興味があるでしょうし、ドレスとか靴とかアクセサリーとかもっとあるでしょうに……


幼い娘に贈るプレゼントであるならば正解なのでしょうけれど、(規約の為ピー音でお送りします)をしていた相手に贈るプレゼントではないように思える。


「わぁぁ!!!可愛いぬいぐるみ!目が宝石になってるのですね!手触りもフワフワでずっと触っていたいわ!一緒にお布団で寝ますね!ありがとう、お父様!」


まぁ、私がしゃしゃり出る所ではないし……

この父娘の関係性がより歪であるように感じた


「そういえば王妃は白雪姫にもうプレゼントを贈ったのか?どんな物を贈ったのか気になるのだが……」


王の登場により私の存在感が空気と化していたが、ナイスパスである。


私は眉を下げ、憂いがある顔を作ると頬に手を当てて首を傾げる。


「それが……プレゼントしようとしていた宝石がなくなってしまいまして……何者かに盗まれたようなのです」


私の言葉に王は目を見開く。


「なにっ!?それは誠か?何故それを早く言わぬのだ!して、誰が盗んだのか心当たりはあるのか!」


「そうですわねぇ……私の部屋の前には近衛兵は誰一人も立っておりませんもの。王宮の中にいる者全員が盗めたと思いますわ」


私の一言に王は王や貴族達は口をあんぐりと開け驚く。

そんな中、白雪姫とその取り巻きのメイドは顔を真っ青にする。


「なっ、なんと!守護するべき女王の部屋の前に近衛兵が一人もおらぬだと!?そんなことがあるのか!」


「王に嫁いできてから、この王宮で暮らしていますがそんなの1人もおりませんわよ?辺境伯では騎士が一人ついていましたが、白雪姫も周りのメイドもなにも言わなかったのでこれが王宮の常識だと思っていたのですが……」


王は口をパクパクとさせている。

周りの貴族達も私のあまりの発言に目を見開いている。


「そんなことってあるのかしら……?」

「何かおかしくないか?」

「女王に騎士や近衛兵がつかないなんてことがあるのだろうか?」


コソコソと貴族たちが話してる声が漏れ聞こえる。


「王宮の警備体制はどうなっておる!メイド長や騎士団長が管理していたはずだ!連れてこい!」


王が顔を真っ赤にして怒り、騎士やメイド達に命令する!


「は、はい!ただいまメイド長を呼んで参ります!」

「承知いたしました!すぐに団長を連れて参ります!」


メイドと騎士がバタバタと慌ただしく走って部屋を出て行く。

なんか全然誕生日の雰囲気じゃなくなってきたわねぇ……ふふふっ……


白雪姫は顔を真っ青にし、唇を強く噛んでいる。

白雪姫の専属メイドは爪をギリギリ噛み、ブツブツとなにかを呟いている。


段々大事になってくる自体に私は心の中にほくそ笑む。


しばらくするといつもは澄まし顔のロッテンマイヤーさんみたいな見た目のメイド長が来た。

走ってきたのか、すごい息が乱れている。


「はぁ…はぁ…お、またせ、はぁ…いたしました…はぁ…お呼びでしょうか、王様…はぁ…」


こんなメイド長は見た事がない。

グリムヒルデの記憶を振り返ってみるがこんなメイド長は見たことがない。

記憶の中のメイド長は前王妃の過激派という感じで、しょっちゅう前王妃と私を比べて嫌味を言ってくるような奴だった。

自分から手を下すことはしないが、メイド達の嫌がらせを止めることもせずに傍観し、「穀潰し」と影で嘲笑し国王の耳に入らないようにしていたことを知っている。


「メイド長、お前は王族が快適に暮らせる環境作りに尽力することが仕事であり、白雪姫と王妃が生活している王宮の管理を任せていたはずだが…」


「は、はい……」


「王妃が白雪姫に用意していた宝石が何者かに盗まれ、話を聞いてみれば近衛兵の配置や騎士の派遣さえされていないというではないか!」


王の言葉にバッとメイド長が私の顔を見る。

私はメイド長の視線にビクッと怯えた顔をし、王の背中に隠れる。

これが白雪姫のよくしてる、私いじめられてるんです怖いよムーブ。


「おぉ、王妃…そんなに怯えて…もしやこの王宮に来てからメイド長から嫌がらせをされていたのか?すまない、気づいてやれなくて…大丈夫だ、私がついておるから」


私の様子を見ていた王が私の肩をそっと抱き寄せる。


オエー!やめてくれー!白雪姫と(規約の為ピー音)したその手で私を触るなぁぁぁぁーーーー!!!!

いやぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!


心の中で絶叫するが優しく微笑む王様を振り払うことが出来ず、儚い笑みを意識して微笑み返す。

王様の後ろから、キッと私を睨みつける白雪姫と目が合う。

だから怖いって……いつもの猫かぶりはどうした!?


遅れて頬に怪我をした厳つい顔をした熊のような男が部屋に入ると胸に拳を当て一礼する。


「騎士団長ガイゼル、王様のご命令により馳せ参じました」


グリムヒルデは部屋に引きこもっていることが多かったので、騎士団長がどんな人かわからなかったのだが女王の任命式で見たような気がする。


「ガイゼルよ、騎士団長として忙しい身であるそなたを急に呼び出したことすまぬな」


「いいえ、王様のご命令とあればこのガイゼル。いつでもどこでも馳せ参じましょう」


その目からは王家の忠誠が垣間見える。

悪い人ではなさそうだが、王様の味方であっても私の味方であるとは限らない。


味方は1人でも多い方が良い。この人が私の味方になってくれる可能性があるか見極めなきゃ!


「してガイゼルよ、そなたを今日呼んだのは王宮の警備体制についてでだ。王妃が白雪姫の誕生日プレゼントを用意していた所、何者かに盗まれてしまったのだと」


王の言葉にガイゼルが目を見開く。


「なっ!そんなバカな!王族である王妃の私物が盗まれたですと!?王妃の部屋の警備をしている近衛兵は何をしていたんだ!恐れながら…私が鍛えた者が盗人の侵入を許すようなヘマをやらかすとは思えませぬ、詳しくお話をお聞かせいただけませんでしょうか?この不肖、騎士団長ガイゼルが責任を持って近衛兵を罰し、犯人を捕まえてみせましょう!」


う〜ん、この言葉から胡散臭さは感じない。

私はドレスの腕の袖から小さい手鏡をこっそり出すと頭の中で鏡に念じる。


鏡よ鏡、この騎士団長ガイゼルについての人柄を教えてくれるかしら?


『ふっ…やっと我の出番か、騎士団長ガイゼルは一言で言うなら英雄であるな。空を飛ぶ魔物討伐にて槍や石を駆使して身一つで撃退、討伐をするという功績を残し騎士団長に成り上がった者だな。訓練などはスパルタで自分に厳しい性格であるが、強きをくじき弱きを助けるような騎士の鏡だ』


おぉ……鏡からのまさかの絶賛ですよ

じゃあ、私のいじめには直接的な関係はなさそうね


「ガイゼルよ、罰するべき近衛兵はおらぬ。何故なら…王妃の部屋に近衛兵など存在しないらしいからな」


王の一言に騎士団長のガイゼルは愕然とする。


というか、なんか後から来た癖に王様の独壇場みたいになってない?

いつまで私の肩を抱き寄せてんの?


「王様…私の口から騎士団長に話してもよろしいでしょうか?私のことですし……自らの口で言いたいですわ」


「う、うむ…王妃がそう言うなら……」


私は微笑むとさりげなく王から離れ、騎士団長の前に立つ。

近くで見ると騎士団長デッカ……グリムヒルデも身長は低くないのだが見上げる形になる。

首痛くなりそうだな……


私の様子を察したのか、ガイゼルは片膝をついて私の言葉を待つ。

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