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それが、覚悟





 大毅side



 外に出ると、待っていたといわんばかりに化け物になった加寿が正面に立っていた。

それと同時にその後ろから大量の感染者が押し寄せてきている。



 「......。」



 初めて感染爆発を目の当たりにしたとき、俺は足がすくみ、全身が震えていた。

自分の会社がしてしまった問題の責任で押しつぶされそうになったこともあった。


 

 だが、今は違う――。

銃を握る俺の手は強く握られており、俺の瞳は加寿をまっすぐ見据えている。




 「準備はいいな、行くぞ。」



 男が一歩前に出た。

愛銃の大型拳銃を手に、仁王立ちをしている。



 「俺のデザートイーグルのマガジンは中に入ってるこいつだけ。

何とかしてやるぜ。」



 「ああ、大丈夫だ。」




 ついに感染者が目の前に来て、俺たちは臨戦態勢になった。



 「ここを守り抜くのよ! 」



 俺は、両手で銃を構え、引き金を引いた。

銃から放たれた弾丸は目の前の感染者の頭を撃ち抜き、その動きを完全に止めさせた。



 その銃声を皮切りに、全員が感染者に突撃した――。





 男side




 無言で俺はデザートイーグルの引き金を引く。



 ――一発。


 弾丸は頭に直撃する。




 ――二発。


 ぶれた照準により弾丸はゾンビの肩に当たる。


 ――三発。


 噛みつこうとしてきたゾンビの首をつかみ、その額に弾丸を叩きこむ。



 「危ないところだったぜ。」



 俺は残弾わずかのデザートイーグルをホルスターに仕舞い、背中の刀を取り出す。

横から来た二体のゾンビの首を横薙ぎで切り落とした。



 「下がるぞ! 」



 俺は後ろに下がり、体勢を立て直す。

目の前に迫ったゾンビが俺を噛む寸前、倒れた。

横を見ると大毅がそいつを撃ち抜いてくれていた。



 「恩に着るぜ! 」



 「礼は後だ、見ろ! 」



 わかってるといわんばかりに俺は右から迫ってきたゾンビの脚を横薙ぎで切り落とす。

這いつくばっている状態のそいつらの頭を踏みつぶし、振り返りざまに後ろのゾンビの頭を落とした。



 「はぁっ! 」


 不意に目の前のゾンビが吹き飛び、代わりに優がそこに立っていた。



 「あと少しよ、頑張って! 」



 「頑張ることもねえさ! 」



 俺は空いた目の前に走り込み、優の肩に片足をかけた。

俺がしようとしたことに気付いたのか優は力を入れ、俺が飛び上がりやすいようにしてくれる。



 「くらえ、馬鹿ども!! 」



 俺はゾンビの集団の中心を狙って手榴弾を投げた。

即爆型のその手榴弾はその集団を木っ端みじんにして、数を確実に減らした。



 そのまま地面に着地し、上振りで残りのやつらの顔面を削ぐ。

それだけでも奴らは倒れ、動かなくなった。



 「まだまだ行くぜぇっ!! 」



 俺は刀に付いた血を振り払い、再び突進した――。





 優side





 目の前に来た感染者の頭に正拳突きをして倒した。

お父様と彼が次々と倒してくれるおかげで、さっきの大群の数は見違えるほど減っていた。



 後ろから掴みかかってきた感染者を背負い投げし、そのまま踏みつぶすと、残りの感染者の数も数えるほどになっていた。



 「残りは任せろっ!! 」


 

 彼が姿勢を低くしたまま、手に持った刀を振るう。

その刀は確実に奴らの首を狙っていて、その攻撃を食らったやつらがどんどんと地面に倒れ伏せていく。



 彼が私の横に立った時、ついに大群で押し寄せてきていた感染者はいなくなっていた。



 「あとは......加寿だけね。」



 「そうだな。」



 

 彼が刀を仕舞い、ホルスターから愛銃を取り出す。



 「そういえば俺の名前、言ってなかったよな。」



 敵を前にして、彼は呑気に――


 ――いや。


 「俺の名前は――――。」



 ――如月龍二。



 私たちに向けて、そして目の前にいる加寿に自己紹介するように言った。




 「小学校、中学校のあだ名は鬼だ。

今となっちゃ俺の名前の意味だって分かるさ、だからこそ......。」



 ――自分の名前が嫌いだと言った。



 加寿は身動き一つせず、無表情のまま聞いている。



 「お前が鬼だってんなら......本物の鬼がどっちか比べようじゃねえか! 」



 龍二が動き出すのと、加寿が回り込むように走り出したのは同時だった。



 「優、大毅! 

手を出すなよっ! 」



 動きに圧倒されて、私は彼の言葉に頷くことしかできなかった。

ただ、見守るだけ――。




 















 龍二side





 できれば二度と自分の名前を口に出したくなかった。

如月という名の意味、それを知ってからは特に――。



 「っ! 」



 俺は加寿のスピードを殺すために銃をそいつの脚めがけて撃つ。

その弾は足の甲に当たり、奴は一瞬ひるむ。


 俺はその怯んでいる隙に奴に迫り、下から拳を叩きこむ。

その拳は防御で防がれるが、奴の片腕が折れる感覚が同時に伝わってくる。



 「っ......殺す。」




 初めて、加寿が口を開いた。

鈍いながらに痛みを感じているのか、さっきよりも速度は落ちているが、確実に俺を殺そうと全力で俺に拳を振ってくる。



 「それしか脳みそに入ってないだろうなぁっ! 

じゃなきゃ真奈美を殺さねぇよっ!! 」



 怒りのままに、腹にストレートを叩きこむ。

奴は避けるそぶりも見せず、その拳を受け、吹き飛ばされる。



 殴られても、やつは立ち上がらなかった。

死んだわけじゃない、何かに気付いたような――。




 「俺が......殺した......。」



 「今更遅すぎんだろうが!! 」


 俺は加寿を持ち上げ、近くの柱にたたきつける。

奴は血を吐き、同時に俺の腹に膝蹴りをしてきた。



 避ける余裕もなくその攻撃を受けると、腹部に鋭い痛みが走った。




 「刺さった......クソっ......! 」



 後ろにあった鋭い破片に、俺の腹が突き刺さってしまった。

気力で俺はそいつを引き抜いたが、すかさず加寿が俺の片腕めがけて鉈を振ってきた。




 一瞬、ほんの一瞬だった。



 ほとばしる鮮血と、宙に舞う俺の片腕が見えた。




 「がはっ......! 」




 俺は奴から距離を取り、片手で銃を構える。

視界が霞み、痛みから照準が大きくぶれているが、俺は突進してくるそいつの太ももめがけて引き金を引いた。

弾丸に気付いていなかった加寿が転倒し、その隙に俺が膝蹴りを食らわせる。




 「っ!! ......。」



 渾身の一撃は加寿の顎を砕き、ほぼ喋れないようにした。

それと同時に俺の視界はチラつき、立っていられなくなる。



 


 顔を上げると、優と大毅が加寿に掴みかかっているのが見えた。

声はほとんど聞こえず、泥に沈んだように俺の意識は溶けていった――。





























 優side



 


 龍二の片腕が、宙を舞った――。

動けるうちに放った膝蹴りは加寿に大ダメージを与え、彼は大きく狼狽える。




 「今だ!

優、ついてこい! 」


 

 私は走り出したお父様についていき、お父様は狼狽えている加寿に掴みかかる。

お父様がなにか注射を撃とうとしたところで、お父様が加寿に投げ飛ばされ、注射器が私の目の前に転がってきた。



 見覚えのある、特徴的な注射だった。




 「ごほっ......優! 

それを......打て、加寿にっ!! 」



 血を吐きながら、お父様が私に指示した。

加寿は足を引きずり、口から血を流しながら私に近づいてきていた。




 「仇うちは嫌いだけれど、真奈美と龍二の分も食らいなさい。」




 心は怒りに燃えているのに、私の動きは冷静だった。

大きく振りかぶった彼の攻撃を屈んで回避し、その首に注射を打つ。




 効果はすぐに現れた。

加寿は膝を崩し、ついに苦しそうに倒れた。



 そんな彼の様子を傍らに、私は龍二のもとに走る。

なくなった左腕からの出血がひどく、彼の顔は蒼白になっていた。


私は彼を背負い、国会議事堂の中に運んだ。




 「急いで、彼死んでしまうわ。」




 自分の中で、感情が消えたような感覚。

すべてが作業に思えてしまう。




 再び外に出ると、雪ではなく雨が降っていた。




 「まな.....み」



 注射の影響を受けた加寿が、涙を流しながら空を眺めている。




 「きっとそれは治療薬よ、ウィルスに侵されたあなたの体は、しばらくするとっ......。」




 加寿が私の腕を掴んだ。

反撃しようと腕を振りかぶると、彼は化け物の顔ではなかった。



 「最後に、とんでもねぇことをしちまって......謝っても許されねえか......。」



 私の腕を掴む彼の力はだんだんと弱くなっていく。

無意識に、その手が離れないように強く握り返していた。




 「あれは、あなたじゃないわ......。

気にしないでっ、加寿.......。」





 「俺の代わりにお前を好いてくれる奴......大けがさせてごめんな......

生きてたら、そいつを大事にっ......かはっ......」



 真っ黒な血を吐き、加寿はせき込んだ。



 私の左目から、涙が一筋流れた。





 「優、俺はお前を......。」





 愛してたぞ――――。





 彼は力なく腕を下ろし、喋らなくなった。

さっきの涙を皮切りに私は声を上げて泣いた。


 

 応援に駆け付けた部隊が来ても、私は加寿を離さず、ただただ泣き続けた。

その涙はただ悲しいだけの涙ではなく――




 彼の答えを聞けた、その喜び。


 彼が抱えていた罪悪感に気付いた悲しみ。


 彼の気持ちに気付いても、それにこたえられなくなった寂しさ――。



 複雑に絡まり、ほどけないほどの意味がこもった、涙だった。

次回、「感染した世界で」シリーズは最終回になります。

長らく愛読いただいた方、最後までお付き合いください!


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