終幕 感染した世界の終わり。
最終回です。
龍二side
死闘を繰り広げたあの冬から数か月が過ぎ、春になった。
凍えるような寒さは去り、同時に襲い来るゾンビどもも消えた。
「っ......まだ痛むな。」
俺の左腕も、あの死闘で無くなってしまった。
傷口は疼くが、それでも俺はとある部屋へ向かっている。
目的の部屋の前に着き、俺は深呼吸をする。
ゆっくりとドアを開けると、そこには憎い総理大臣がいた。
「ノックもなしに入ってくるとは、急用ですか......如月君。」
「あぁ、それはもう急用だよ。」
俺は今まで胸に秘めていた怒りをそいつにぶつけた。
「テメェはあぐらをかいてみてるだけでよかったな。
テメェが何もしないせいで救えたはずの命すら死んだよ。
俺は目の前で見た、なんなら俺の手で殺したやつだって数知れずだ。
その全部がテメェのせいだとは言わねぇ......だけどよ......。
助けられたはずのやつらが、このままじゃ成仏できねぇだろ。」
言い終わると、俺は唇をかんだ。
片手で銃を握っているが、俺はまだそれを憎いそいつに向けてはいなかった。
せめて、こいつの腹の中を聞くまでは......。
「無念だとは思っています。
ですが私も国を代表する身、下手な行動をすれば将来の日本に多大な影響が出ます。
この犠牲は、仕方なかったのです......。」
――仕方なかった。
その言葉に間違いはなかったが、俺はその言葉に憤りを感じ、銃口をそいつに向ける。
しかし、総理は抵抗するそぶりは一切見せなかった。
「なら、テメェの命で償うだけだな。」
反論するかと思った。
しかし――。
「えぇ、あなたの言う通りですよ、如月君。」
――俺は引き金を引いた。
放たれた弾丸は真っ直ぐそいつの頭を撃ち抜き、頭を抜かれた大臣は力なく机に突っ伏した。
「正しい選択じゃなかったとしても、こうでもしなきゃ腹の虫が収まらねぇ。」
俺は銃をホルスターにしまい、部屋を出た。
ドアの前に平澤が立っていて、俺の肩を叩く。
「お疲れ様だ、後は俺に任せろ。」
「頼んだぞ。」
死体の処理を平澤に任せ、俺は優の部屋に向かった――。
優side
加寿をこの手で殺してから私の心の中は空っぽになってしまった。
そんな空っぽの私の心を置いて、お父様のおかげで周囲の状況は良くなっていった。
「優、入るぞ。」
龍二がドアをノックせずに私の部屋に入ってきた。
ベッドに座って死んだ目をしている私には何も言わず、机の上にジュースを一本置いた。
「戦いは終わった。
俺たちが復讐するべきやつもいなくなったな。」
「……そうね。」
彼の顔を見向きもせず、私はつぶやく。
私の隣に座ると、頭を撫でてきた。
「なら、次は前の生活を取り戻すだけだな。」
「もう、誰も残っていないのに……?
私が――。」
「それでもだ。」
彼は私の言葉を遮って話し始めた。
「お前が好きだったやつ、全員死んだとしてもだ。
それでもそいつらの分まで幸せにならなきゃならねぇだろ。
こんなありきたりなことしか言えないけどな……。」
私の心の中に一筋の光が差し、感情を取り戻したように私は涙を流す。
嗚咽をすると彼が私の背中を撫でてくれた。
「まだ休んでろ。
俺はもう、人を殺さない。」
決意のこもった言葉を私に放ち、彼は私の部屋を後にした。
彼がいなくなっても、しばらく私は泣き続けた……。
大毅side
「なぁ。」
後ろから声をかけられ振り返ると、龍二君が片手に食べかけの菓子を持っていた。
私はあえて返答せず、ただ彼の目を見る。
「かっこいいじゃねえか。
責任とってちゃんと事態を収束させるってよ。」
「ありがとうな。
君たちの協力のおかげだ。
君に一つ、お願いをしたいのだが……いいかな? 」
「どんとこい。」
手に持った菓子を一口かじった彼に、俺は彼にしか頼めないお願いをした。
「俺の娘を……優をケアしてくれ。
心を、開かせてあげてくれ……。」
「お安い御用だ。
お願いするまでもねぇ。」
龍二くんは背中を向けて階段を登り始めた。
その背中は頼もしく、格好良かった。
「ならあんたは、最後まで責任を取れよ。
そうしたらあいつからしても最高のパパだ。」
彼は俺に菓子を投げ、そう言った。
「もちろんだ、龍二君。
任せてくれ。」
俺も体を玄関に向け、歩き始めた。
――俺の中では、まだ戦いは終わっていないから。
男side
かつて俺の命を救ってくれた刀と銃はあの戦いの日に死んだ。
しかし、死んでもなお、俺はこいつらの手入れをする。
――お疲れ様、俺のことを守ってくれてありがとうな。
銃を机に置き、俺は左を向いた。
かつてあった左腕も、今はなにもない。
俺は肩をさすり、椅子に座る。
深呼吸をするとドアが開き、少女が入ってきた。
「お兄さん……お疲れ様っ! 」
椅子に座っている俺の後ろから少女は抱きついてきた。
俺は少女の手の上に自分の手を重ね、感謝の言葉を告げる。
「これからはもう安全だ。
どこにも行かないから、安心しろ。」
「うんっ、お母さんもきっと喜んでるよね。」
空いたドアから、心地よい風が流れてくる。
目を閉じると、今まで感じたことのない感情がそこにあった。
――俺は……幸せだ。
「散歩でもするか、いい天気だしな。」
「うん、優お姉ちゃんも一緒ね! 」
俺は少女を手をつなぎ、部屋を出る。
出る間際、俺のデザートイーグルがキラリと光った――。
五年間書き続けた、「感染した世界で」シリーズはこれにて完結になります。
ここまで読んでくださった方、本当に感謝します。
これからも、執筆を続けていきます。
つたない文章ですが、ぜひお付き合いください!




