男として
男side
少女の部屋を出ると、廊下は凍えるような寒さだった。
俺は優と一緒に下に降り、様子を見ることにした。
「最近お父様が忙しそうなのよね……。
なにをしているか聞くのも申し訳ないから……。」
優が不意にそう呟いた。
確かに優の言う通り、今日はまだ優の親父の姿を見てない。
「何か考えでもあるんだろ、遠慮しないで聞いてもいいと思うけどな。」
「そうかしら……。」
俺はまだ少し悩んだ様子の優をそのままにして、その場を後にした。
優side
彼の言う通り、私はなぜお父様が忙しそうにしているか知るために、お父様を探すことにした。
でも、お父様のいる場所の検討もつかないため、お父様の部屋と下の階を行き来する事しかできなかった。
何回往復したか数えるのをやめた頃、やっとお父様が階段を上ってきた。
「おお、優か。
どうしたんだ、こんなに寒いのに汗かいてるじゃないか。」
気づけば私は、この底冷えするような寒さにも関わらずに汗をかいていた。
私はそれを気にする様子もなく、お父様に質問を投げかける。
「お父様、どうしてそんなに忙しそうにしているの?
私に話せないことは言わなくてもいいけれど......ある程度は知りたいわ。」
私が真剣な顔でそういうと、明らかにお父様は狼狽えた様子だった。
しかしすぐに冷静さを取り戻し、私に説明をする。
「直接的に俺が何かしたわけではないが、それでも俺の会社が起こした問題だ。
小さなことからこの事態を解決させるために動いてるんだよ。」
「それが、命にかかわることでもかしら。」
そう聞くと、お父様は笑顔のまま、
「あぁ、それが男としてのけじめのつけ方だ。」
といった。
「そう......すこし寂しくなるけれど、私も何かできることがないか考えてみるわ。」
「やっぱり優は俺の子だな。
ありがとう、助かるよ。」
私はお父様に背を向けて階段を上った。
自分の部屋に着き、いつものようにベッドに横になる。
――私にできること、何があるのかしら。
考えるうち、私の意識は黒く沈んでいった......。
男side
「年貢の納め時か......」
長らく使ってきたデザートイーグルを整備しながら、俺は一人つぶやいた。
いたるところに傷が入り、年季の入ったその銃は俺に変わらない安心感を与えてくれていた。
しかしいよいよこいつが動かなくなりつつあるのも事実だった。
薬室で弾が詰まりやすくなり、戦闘でも不利になることが多い。
――こいつの寿命が、俺の寿命になっちまうぞ。
壁に掛けられた近頃はずっと使っていない刀を一瞥した。
使われていないためにその刀の輝きは失われず、その美しさを保っていた。
「お兄さ~んっ。」
ドアの外から、少女が俺を呼んでいた。
俺はドアを開き、少女を中に招き入れた。
「どうしたんだ、やっぱり寂しいのか? 」
銃の整備を終え、机に置いて俺は少女の目を見た。
寂しそうな、切ない視線を感じ、俺は目を逸らす。
「お兄さん、無理してる。
このままだと、またお兄さんがどこか遠くに行って、それで......」
最悪の想定をしているのだろう。
以前の出来事が相当トラウマになっている彼女にとって、一人でいることは物凄いストレスになっている可能性がある。
「こんな世界じゃ、どこにいたってずっと安全ってわけじゃねえよ。
まぁただ、俺がお前を守るって約束した以上俺は無理をしなきゃいけないのさ。」
俺は立ち上がった。
――いや、立ち上がろうとした。
少女が、俺の腕をつかんだ。
その力は弱く、振りほどけるほどだったが、俺にそれをする勇気はなく、その場で固まってしまう。
「お兄さん......どこにもいかないで......。
お兄さんが死にそうな姿、もう見たくないの! 」
彼女の、小さな心からの悲鳴だった。
俺は少女をベッドに倒し、小さな声で話し始める。
「悪いがな、俺とお前が生きていくためには犠牲になる覚悟がいるんだ。
だから、俺がここにいる限り、お前のことをずっと考えてやる。」
少女はそれに納得し、涙を流しながら小さく頷いた。
同時に、少女が顔を近づけてきて、ついに唇が重なる。
「ん......」
一瞬に思えた口づけを終えると、彼女の頬は赤くなっていた。
そして俺は、さっきの切ない視線の意味に気づく。
「なぁ、お前......。」
「お兄さん......今日は、お兄さんと一緒にいたい......」
俺は我慢できなくなり、少女の上に乗った。
うしろめたさと興奮を交えた心はついに、その一線を越えてしまった......
――本当に、守ってやらなきゃな。
それと同時に、少女との約束の重みも上がった。




