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酩酊



 優side


 



 目を開けると、LEDの明るさで思わず目を細めてしまった。



 「電気をつけたまま寝てしまったのね......私としたことが......」



 まだ少し眠気が残っていたけれど、重い体を無理やり起こし、私は廊下に出る。

一階に降りると、お父様がすでに起きていて、軽く体操をしていた。



 「お父様、おはよう。

 朝から元気なのね。」


 

 私も特にやることがなかったので、お父様の隣で同じように体操を始める。

お父様は「そうだな」というだけで、それ以上何か言うこともなく体操を続けていた。




 体操が終わると、お父様は私の手を取り、人気のない場所に移動した。

もしかしたら叱られると思い、目を閉じていた私だったけれど、お父様から発せられた言葉は叱責ではなかった。



 「優、嫌なことってのは簡単に忘れられるもんじゃない。

 優が抱えてる悩みってのは、大人でもそう簡単に解決できるほどのものじゃないんだ。

 


 だからっていうのもあれだが、俺から少しいけないことを教えてやる。

 本当は優に悪いことは教えたくなかったが、やむを得ないからな。」




 そういってお父様は小さなバッグから缶ビールを三本、私に差し出してきた。

その銀色の缶は、私にとってはるか遠くの存在に見え、どうしてもそれを受け取る手が伸ばせない。




 「お父様......ダメよ......

 私、お父様との約束をっ! 」



 「優、こんな俺の言うことをここまで聞いてくれて、俺は本当にうれしかったんだ。」



 私の言葉を遮ったお父様の口調はやさしかった。

一瞬、お父様の目を見ると、その瞳には涙がたまっていた。




 「優は、もう立派な大人の仲間入りだ。

 それはこの、優のお父さんである俺が認める。」



 その言葉が私の背中を押してくれたのか、私はお父様が差し出した三本の缶ビールを受け取り、ジャケットの内ポケットに仕舞う。

 



 「ありがとう、お父様。

 ゆっくり飲むわね。」



 お父様は小さく頷くと、おまけにと言わんばかりに私におつまみも渡してきた。

私はそれを受け取り、自分の部屋に戻る。


 



 自分の部屋の机に缶ビールを置くと、そこは私の知っている空間ではないように見えた。

銀の缶が三つ、そこに置いてあるだけなのに、どこか大人のような、感じたことのない雰囲気を感じ取る。



 「真奈美、あなたとも飲みたかったわよ。」



 昨日も見た写真をもう一度手に取り、私の目の前に置いた。


 缶のタブを立てる。

開け口から香る匂いは、お父様の匂いがした気がする。


 タブを再び寝かせ、一口、口に入れてみる。

口に広がったのは強い苦みで、思わず吐き出しそうになったけれど、飲み込んでみると、どこか美味しさを感じた。




 「苦い......でも、どうして......とても甘いの」




 そんなことを深く考える前に、私の頭の中は靄がかかったようになっていく。

思考がまとまらなくなり始めたけれど、私は真奈美とのツーショット写真を見ながら、小さな缶ビールを飲み干した。

 


 「真奈美、まなみ......見えるわ......真奈美が。」




 気づかぬ間に二本目も飲み干し、私は椅子から立ち上がった。

脚に力が入らず、体は大きくよろめくけれど、私はベッドに座っている真奈美に近づこうと歩く。



 

 真奈美は何も言わず笑顔で私を見ている。

何でもよかった、私は真奈美に一言でも話してほしかった。



 私が真奈美の手を取ろうとしたとき、真奈美は消えた。



 「ま......な......み......」



 私は力なく手を下ろし、その場に崩れた。

それと同時に、意識が消えていってしまった......。
























 目を覚ますと、電気をつけていなかったようで、部屋は暗かった。

部屋の電気をつけることもなく、私は立ち上がり廊下に出る。



 「とても...あたまが痛いわぁ......」



 まだ、自分でも何を言っているのか全く分からなかった。

ただ、激しい頭痛と吐き気が、お酒のせいだということを私に突き付けてくる。



水を求めて一階に降りようとしたところで、私は階段から転げ落ちてしまった。

全身に走る痛みをこらえながら立ち上がると、目の前に見覚えのある――




  いや――――





 ずっと会いたかったあの人が、包帯を巻かれた状態でそこにいた。

私は現実を受け入れられず、自分の頬を叩いてみる。




 「夢だと思うだろ? 

 俺も死んだかと思った。」




 自分の人生を楽観視しているような言い方......

私は彼が生きて帰ってきたのを目の前で確認してこらえていた涙が再びあふれる。



 声も抑えられずに、私はひたすらに泣きながら彼に思っていたことを打ち明ける。



 「私はっ、あなたが死んでしまったらどうしようって......とても怖かったの、目の前が暗くて......

 帰ってこなかったら......」




「馬鹿な事言ってんじゃねえ、帰ってきたじゃねえか。

 これ、お土産だ。」




 彼は私の頭に何か乗せてきた。

頭の上から取り、見てみた。




 「ウサギの......ぬいぐるみかしら......? 」



 「ああ、俺も死にかけだったし重いのはもう持てなかったからウサギ二つしか取れなかったけどな。」



 「うれしいわ......! 

 本当に、ありがとう......! 」



 私は彼に優しく抱きついた。

彼は少し痛そうな声を出した後、私のことを抱き返してくれた。





 「酒、飲んだんだな。

 大人の仲間入りだ、優。」



 「あなたも飲みたいんでしょう? 」



 

 小さく笑いながら私がそういうと、小さく頷いた後、小さな声で私にこう言った。




 「怪我が治ったらすぐ飲んでやる。」


 

 「まったく、あなたらしいわね。」




 ――あなたらしい。



 私は彼を理解したつもりでいたことに気づき、顔を真っ赤にする。

幸い彼に意味は分かっていなかったようで、首を傾げた。




 「わ、私は眠いから寝るわね......

 また、明日。」





 「あぁ、明日。」




 

 私はおぼつかない足取りながら走って階段を上り、自分の部屋の扉を開けてベッドへ一直線に飛び込んだ。

久しぶりに、私の頭の中が彼で溢れるのを感じて、枕に顔を埋めながら悶々としていた。



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