記憶
男side
俺が殺したあの女は、俺の初恋の人でもあった。
今となっては、最低で最悪の悪夢だが......
「母さん......」
俺は天井を見ながら、俺の母親のことを思う。
無論、いい思い出よりも先に俺が母親を失った、あの日のことだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「母さん......? 」
あの日、俺は何となく帰るのが遅くなった。
日付が変わるころ、シンと静まり返ったリビングを見て、どこか不自然さを感じた。
電気がついていないためよくわからないが、鼻を刺すような臭いと、他の誰かがいるような雰囲気を感じた。
そして電気をつけたとき、俺は目の前の光景に絶句した。
「おうクソガキ、ずいぶんと遅かったじゃねぇか。」
「そうそう、こいつ金持ってるのに私にくれないし、こいつもやっちゃおうよ。」
そこで待っていたのは、笑顔の母親でも、晩飯でもなく、悪魔だった。
母親は椅子に座っているが、首から血を流していて、見るからに生きている様子ではなかった。
その横にいたのは当時付き合っていた彼女と、謎の男だ。
男の手には血まみれのナイフが握られていて、俺はそれを凝視する。
「どういうことだ、俺の母さんを......」
言葉が出てこず、絞り切ったように声を出した。
男は鼻で笑った後に、話し始めた。
「お前がもっと早く帰ってくれば、この女も生きてたのにな。
金出せって言ったのに持ってないって、見せてきた通帳にもロクに入ってねぇし、この家もボロい。
言ってることもよくわかんねえしむかついたから、殺しといてやったよ。
殴るか? 俺にはナイフがあるんだぞ? 」
――何か、頭の中で切れた音がした。
俺は近くにあった花瓶をそいつの頭めがけて投げつけた。
そいつは腕で防ごうとしたものの、破片が腕に突き刺さり、出血と共に悲鳴を上げる。
その隙に俺はそいつの腕をひねり、ナイフを床に落とした。
床に落としたナイフをすかさず拾い、俺はそいつの腹に深々と刺す。
「なら、お前にも死んでもらわないとな。
あと、隣のクソ女も。」
ギロっと、俺は彼女の方を見る。
そいつは一歩引いたのち、そそくさと俺の家を後にした。
腹からナイフを抜くと、そいつは床に倒れた。
腹を抑えながら、今度は俺に暴言を吐き始める。
「人殺しになるぞ、くそったれ......!
一生後悔することになるし、ろくでなしになるぞ! 」
俺は刺した腹の部分を思いっきり蹴った。
するとそいつは血を吐き、せき込む。
間髪入れずに俺は頭を蹴飛ばし、ナイフで体を滅多刺しにした。
――脚を、腹を、腕を、首を、目を、肩を。――
ナイフの刃が折れ、血で真っ赤に染まった周囲を見て、俺は現実に戻った。
そいつの全身は血で染まり、ほとんど原型をとどめていなかった。
それでもまだ、俺の中の怒りは静まっていなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこからの記憶ははっきりと覚えていない。
俺がはっきりと覚えているのは、母親を失ったときのあの怒りと――
――人を殺した罪悪感だ。――
物思いにふけるのもほどほどに、俺はホールに戻った。
少女を探していると、声をかけられた。
「ちょっと、こっちよ! 」
振り返ると、少女と手をつないでいる優の姿があった。
俺は優に近づき、優に初めてニコッと笑ってみた。
「生きてたんだな、しぶとい女だ。」
「何それ、不器用なのね。」
俺がかけたへたくそな言葉に、優は吹き出していた。
俺は恥ずかしくなって下を向くが、ふと少女と目が合う。
「お兄さん、優お姉ちゃんと仲良くなれたね! 」
その時初めて、俺は優と俺の関係について意識し始めた。
友達というには年も知り合った期間も短い......
「まぁな、いいことだろ。」
少し考えたが全く分からなかったので、俺は考えるのをやめた。
――復讐は果たしたから、これからはできるだけ平穏に生きていこう。
あの日に燃えだした復讐の炎は、確かに静まり始めていた。




