援護 下
男side
久しぶりに俺の目に映る優は、どこか寂しそうだった。
いや、最初から寂しかったのかもしれない。
しかし、前にあった強がりな優はいなくなった気がする。
――またひとつ、強くなったのかもな。 ――
いろんなことを考えながら優を見ていると、彼女に肩を叩かれた。
「ほら、押されているわよ。 頑張ってここで食い止めないと偉い人たちに文句が言えないわよ。」
「わかってるよ......! 」
銃のリロードが終わり、俺は再び激化している戦場に戻った。
後ろから優が付いてきて、加勢に入ってくれた。
「このままじゃキリがないわよ! 」
「わかってる! 」
銃弾が減りつつあるため、俺は少しづつ焦り始めた。
部隊が後ろに下がりながらゾンビどもを倒しているが、一向に鎮圧する気配はない。
「制圧準備完了しました! 部隊退散! 」
後ろから声が聞こえ、振り返った俺は言葉を失った。
気づかぬうちに何台もの戦車が待機していて、その後ろには俺たちよりも重装備な隊員がロケットランチャーを構えていた。
「優、行くぞ! 」
俺は優の手を取り、その場を後にした――
つもりだった。
「私は行けないわ、この見た目でも感染者だもの。 」
一瞬、強がりが見えた気がした。
俺と初めて会った時の優が垣間見えて、俺は固まる。
優が、俺の背中を押してくれた。
その瞬間、俺は現実に戻る。
「待ってて、私もここに加勢するだけよ。 」
「わかった。あとでな。 」
そういって俺は優に背を向け、国会議事堂の中に入っていく。
入る寸前、俺は優を見るために振り返ったが、優の姿はすでに見えなかった――。
「お兄さん! 」
国会議事堂の中に入って最初に俺に駆け寄ってきたのは少女だった。
俺は少女を受け止め、周囲の状況を確認する。
平澤は自分の持っている銃の弾の数を確認していて、ほかの隊員は緊張が切れたのかその場に座り込んでいる。
俺はそんなだらけた部隊を見て軽くため息をついた。
「お兄さん、どうしたの? 」
俺の調子が少し悪いのも、少女にはお見通しだったみたいだ。
何でもないという代わりに俺は笑顔で少女の頭を撫でる。
「この場所を守ってくれて、感謝いたします。 」
通路の奥から、よく見る顔が出てきた。
そう、総理大臣だ。
俺は持っていたアサルトライフルを背中のホルダーに仕舞い、姿勢を正す。
それにつられて座り込んでいた隊員も他立ち上がり姿勢を正し始めた。
しかし、その姿勢は総理大臣の次の言葉で崩れることになる。
「国民を一人でも多く救うことができて、誠に光栄です。 」
気づけば俺は、太ももにあるホルダーからデザートイーグルを取り出し、総理に向けていた。
構えたまま、俺は口を開く。
「何が救えた、だ。 この場所で座り込んで指示を出すだけの分際で......!! 」
もちろん、引き金には手をかけていない。
しかし、俺は自分の感情を抑えることができず、圧倒的に立場が上の人間に悪態をついてしまった。
総理は手を上げることもせず、ただ俺の目を見ていた。
俺は変わらず、そいつをにらみ続ける。
「今更政府の対策がとかいうつもりはねぇ。 俺は、てめぇに文句を言うために自衛隊に戻ってきたんだ!! 」
やがて平澤が俺のことを止めてきた。
「そこまでにしておけ、こんなことしてる場合じゃない。
銃を下ろして、冷静になってくれ、その子も怖がってるぞ。 」
ふと我に返り、俺は少女の方を見た。
――今にも泣きそうな、悲しい目を俺に向けていた。――
ようやく俺は頭を冷やすことができ、構えていた銃をホルダーに仕舞う。
「いつだって、お前のことだけは守ってやるから。 」
ありきたりな言葉を俺は少女にかけた。
ありきたりだが、少女には救われた一言になったと思う。
「踏みとどまってくれてよかったです。
会議をしますので、自衛隊の方々は私についてきて下さい。」
俺は少女の手をつないだまま、総理のあとに続いた。
優side
「キリがないわ、私は奥に行く! 」
先ほどよりも圧倒的に強い戦力で感染者に立ち向かっているけれど、どうしてもその数に押されつつあった。
手前の感染者は自衛隊の人たちに任せて、私は奥にいる感染者の相手をすることにした。
「はぁっ!! っ!! 」
大きく飛んで感染者の群れに突っ込んだ私は、目の前にいた一人に蹴りを食らわせて頭を吹き飛ばした。
続けて右にいる感染者の顎を下から殴り、地面に倒す。
後ろにいた感染者につかまれそうになり、私は這いつくばった。
しかしその体制は私にとって不利に働いてしまい、大量の感染者が私にのしかかってくる。
「重いっ......」
感染者が何人も重なってきて圧死仕掛けたとき、私は近くに落ちていた木の板を手に取った
それを噛みつこうとしてきている目の前の感染者に噛ませ、力任せに押し込んでいく。
だんだんと動けるようになってきた私は起き上がり、頭をつぶされて絶命している感染者の体をつかみ、その群れに投げ飛ばした。
その衝撃で何人かは吹き飛び、そのうちの三人ほどが頭を打ち動かなくなった。
「らちが明かないっ......っ! 」
状況確認のために後ろを向いた、その瞬間、私のお腹に激痛が走った。
――何かが私のお腹にぶつかってきたような、鈍い痛みだった――
途切れそうになる意識をすんでのところで戻し、前を見るとかつての好きな人が、変わり果てた姿でそこにいた。
「か......ず......」
こぼれそうになる涙をのみ、私は再び臨戦体制に入る。
私の周りにいたはずの感染者は、加寿が身に着けているミニガンで一掃されてしまった。
彼の右手にはミニガンがあり、もう片手にはハンマーを持っていた。
全身は非常に丈夫そうな鎧で守られているため、普通の攻撃は入らない。
―― 天啓が、来た! ――
頭の中でこの状況を打開する方法を思いついた私は、すぐに塀の後ろに隠れた。
その刹那、加寿がミニガンを構え、標準も定めずに掃射を始めた。
体や頭、腕などを撃たれた感染者は地面に倒れ、しばらく動かなくなるもの、二度と動ないようになったものなどもいた
加寿がミニガンの発射を止めたタイミングで、私は塀から飛び出し、彼の頭めがけて思いっきり殴り付ける。
もちろん、頑丈な鎧がそれで壊れるわけもなく、私の腕力をもってしても少しのへこみになる程度だった。
しかし、私はこの鎧を壊そうとしたわけではない。
私が頭を殴り付けたすぐ後に、彼の肩を戦車の弾が貫通した。
その攻撃でひるんだ隙に、次はミサイルが飛んできた。
彼は片手で受け止めようとするが間に合わず、その爆発をもろに食らうことになった。
一瞬、煙で目の前が見えなくなる......
「けほっ......こほっ......逃げたのね」
煙が収まり目が開けられるようになった頃には、加寿はどこかへ逃げていた。




