保護
男side
家の中でいつでも外に出られるように準備を進めていると、少女が俺に話しかけてきた。
「お兄さん、次はどこに行くの? 」
母の死から早くも立ち直った、立派な顔を見て俺はすこし感動しながら、行き先を告げる。
「俺の友達がいる、自衛隊の基地に行くんだ。」
「助けてもらえるかな......」
少女のその問いに俺は何も返さず、ただ彼女の頭を撫でた。
俺たちは外に出て、駐車場に止めている車にキーを差し込む。
車に乗り込み、俺はナビを設定しようとしたが......
「電波もGPSも使えないのか、どうするか......」
「お兄さん、こうじゃない? 」
そういって少女が設定を少しいじると、基地までのルートがあっさりと表示された。
俺はアクセルを踏み、駐車場を後にする。
「すごいな、ナビを使うのは得意なんだな。」
「お母さんが教えてくれたの、あっ......」
お母さんという単語を口にした少女はうつむき、何も言わなくなった。
辺りに乗り捨てられている車を避けながら、俺は少女に声をかける。
「お母さんは確かにもう会えないかもしれない、それでもな、お前の心の中には生きてるんだ。なんていうかありきたりだけどな」
「心の中に、お母さん......」
少女はいろいろと考えた様子だったが、やがて静かに泣き始めた。
乗り捨てられた車が減ってきたのを見て、俺はアクセルを踏む力を強めた。
基地についた俺たちは、衝撃を受けることになった。
基地の前には自衛隊がたっていて、その一人が俺の車の窓をノックしてきた。
俺は運転席側の窓を開け、そいつと話をはじめる。
「国家は法律を破棄したんじゃないのか?」
その言葉にそいつは笑い、窓枠に手を置いた。
「ありゃメディアの嘘だ、嘘。 記者会見見たか?」
俺が首を横に振ると、「そうだろうな」 と返してきた。
「そりゃそうだ、記者会見なんかしてないからな。 政治家は国会議事堂で立てこもってる。」
あまりに衝撃だった俺は、その場で固まってしまった。
――あれが、嘘だと?――
いろいろと考えているとそいつは俺の肩を叩いた。
「とりあえず感染チェックがある、入り口までその子と来てくれ。」
「あ、あぁ......」
俺たちは車をその場に置いたまま、入り口まで歩く。
入り口にいる自衛隊が二つの注射器を取り出した。
「やだ、注射やだ......」
少女が俺の後ろに下がり、服の裾をつかんできた。
俺は彼女の頭を撫でて、やさしく話しかけた。
「あんな小さい針、化け物より怖くないだろ、ほんの少しチクっとするだけだ。」
「う、うん......」
しばらく俺の後ろに立っていた少女だったが、俺が変わらぬ表情で採血をしているのを見て、彼女も目を閉じて腕を差し出した。
「頑張ってね。 」
「うん。 っ......」
少女の華奢な腕に注射の針が刺さると、彼女は強く唇を噛んだ。
しかしすぐに硬かった表情はほぐれ、やがて注射の針が腕から外れると安堵の表情を俺に向けた。
「そんなに痛くなかった!! 」
嬉しそうに俺のもとに戻ってきた少女を見て、俺もつられて笑顔になる。
採血をした自衛官は、俺たちの血を見て親指を立てた。
「どちらも陰性です、通していいかと。 」
そういうと入り口の門が開き、俺たちは再び車に戻るように促された。
車に乗り込み、アクセルをゆっくり踏んで加速させる。
「ここが駐車場だ、あまり外に出ることはないと思うが、もし外出したいときは言ってくれ。」
車を指定の駐車場に止めて、俺はここまで案内してくれた自衛官に一つ質問をした。
「ここに、平澤ってやつはいるか?」
「!! 」
俺が友人の名前を出すと、そいつはまじまじと俺のことを見てきた。
「まさか、あんたは元自衛官の......」
俺は自分の名前を言われないために静止させる。
すると話すのをやめてそいつは無線機で友人を呼び出した。
「久しぶりだな、元気してたか? 」
「そこそこだ、生きててよかった。」
しばらく待って俺の前に来たのは、かつてこの基地でともに鍛えた平澤だ。
最後にあった時よりもがっしりとしたその体系を見て、俺は安心感を覚えた。
少女について軽く説明した後、俺は自分のねがいを言った。
「こんな緊急事態だ、もう一回自衛官に戻れたりしないのか? 」
「......調子のいいやつだなっ 」
平澤はその言葉を聞いて、冗談のように軽く言ったのちに俺の肩をつついた。
しかしすぐに真剣な顔に戻った。
「前の時より楽じゃないぞ、急に駆り出されたり、殺したりも――」
「望むところだ。」
現実を伝えようとしている彼の言葉を遮り、俺は平澤の目を見る。
その目を見た彼は、少し後ろに下がったが、俺には関係ない。
「わかった、それについては上官と相談しておこう。とりあえず今日は休んだ方がいい。」
その言葉に俺は頷き、少女と共に平澤についていった。
途中、平澤の無線機から声が聞こえた。
『こちら、チームコバルト。 国会議事堂前にて、感染者による暴動が発生、至急応援求む。』
その無線を聞いた平澤が足を止め、俺たちの方を振り向いて一言言った。
「悪い、休むのはまた後でになりそうだ。」




