真実
男side
家の状態を少し良くした。
玄関はタンスで一時的に封鎖して、ゾンビどもが入ってこれないようにした。
崩壊したリビングは物が減り、すっきりしたような気がする。
「とりあえず、こんなもんか」
いきなり現れたわけのわからない奴に破壊されたドアを見ながら、俺は深呼吸をした。
これから少女に真実を伝えると思うと、俺の心は張り裂けてしまいそうだった。
少女をリビングに呼び、ソファの向かいに座らせた。
テーブルをはさんで向かい合い、俺は少女の目を見ながら口を開いた。
「単刀直入に言う。お前のお母さんは、死んだ。」
――死んだ。――
その言葉を聞いた少女の顔は、まるでそのことを前から知っていたような、冷静な顔だった。
俺はデザートイーグルをテーブルに置き、再び口を開いた。
「助けられなかった俺の責任だ。俺が憎ければ、ここで殺してもいい。」
ソファの背もたれにもたれかかり、少女の目を見る。
冷静だった少女の顔は少しづつ悲しみに変わり、目から涙を流しながら重い口を開いた。
「ばか。」
怒りが心底込められたような、しかし殺意は感じない言葉だった。
少女は続ける。
「ここでお兄さんを殺したら、私も死ななきゃいけなくなる......そうなら、お兄さんには生きて私に悪かったって伝えてほしい......」
「憎くないのか?」
俺のその一言に少女は首を横に振り、「まったく」と付け加えた。
「お兄さん、ずっと私を守ってくれる?
それでお母さん、満足すると思うから。」
俺は迷うことなく頷き、少女の頭を撫でた後、強く抱きしめた。
「お前を守るために、もっと強くならないとな。」
抱きしめながら、俺は小さくつぶやいた。
その言葉を聞いた少女が、俺のことを抱き返してくれた。
優side
真奈美は何を思って私をかばってくれたのかわからなかった。
息絶えた真奈美を見つめながら、私は現実を受け入れようとした。
しかし、できなかった。
――真奈美っ......――
こんなにも心は悲しく、怒りに燃えているのに、涙が一滴も出ない。
涙が出なくなったからだがさらに憎くて、私は意味もなく足踏みをした。
「優、悪いがもう行かないとまずい。」
お父様の言葉で私は我に返った。
後ろを振り返ると、感染者の群れが私たちに向かって走り出していた。
「行きましょう。」
私はもう動かない真奈美を担いで、その場を後にした。
しばらく走り続け、気づけば私たちは高架下にいた。
柱に真奈美をもたれかけさせて、私は息を整える。
お父様は周囲を警戒しながら、地面に座り込んだ。
「ごめんなさい......」
そういいながら、私は真奈美に銃を向けた。
お父様が驚いた顔で止めようとしたが、その意図を知り再び座り込んだ。
「あなたはあなたのまま、天国に行ってほしい。また会いましょう、いつかね」
私は目を瞑り、引き金を引いた。
瞼の裏に真奈美との幼いころから今までの思い出がよみがえり、立っていられなくなる。
思い出の最後に、彼女は私に向けて話してくれた。
「優、待ってるから。ゆっくりでいいから、会いに来てね。墓場で待ってるよ。」
その言葉を最後に、私の前から真奈美の思い出は消え去ってしまった。
目を開けて、「真実」と向き合う。
「覚悟はできたわ。行きましょう。」
片手に銃を持ったまま、私たちは歩き出した。
決して復讐ではない。
これは......
――救済、だから――




