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悪魔

優side


 私は自分が幻覚を見ているのかと思い、頬をつねってみる。

しかし、しっかりと伝わる痛みがそれを現実だということを私に思い知らせていた。


 「加寿......覚えてるの......?」


 私はあまりの感動に加寿に一歩ずつ近づく。

その返しは、あまりに残酷なものだった。


 「っ...ったぁ!!」


 私は気づいたら吹き飛ばされていて、建物の壁に思いっきりぶつかった。

激痛が伝わると同時に、私の脳内は混乱していた。


 ――あの加寿が、私を......?――


 どうしても信じられない私は、立ち上がってもう一度加寿とのコンタクトを試みる。

一歩、二歩と近づくと、加寿が臨戦態勢になった。


 「もう、加寿じゃないのね......あなたたち、先に行ってて。」


 私は真奈美とお父様を先に行かせて、加寿と私で一対一の戦闘を始めた。

加寿の間合いに入り、下から拳を振り上げた。

彼はその攻撃を片手で受け止め、私の腕をひねる。


 「きゃあっ!!」


 あまりの痛みと悲しみで悲鳴が出てしまうが、ひねられている途中で私は加寿の脚を蹴った。

私の蹴りが直撃した右脚のバランスを崩し、私の腕を離した。


 「加寿、思い出して!私よ、井上 優よ!」


 戦っている途中でも、どうにかして私たちと話していた記憶を思い出させるために私は声をかける。

しかしその言葉を聞いている様子はなく、加寿の蹴りを私はお腹で受けてしまった。


 再び遠くに吹き飛ばされるが、受け身を取って衝撃を吸収する。

しかし蹴られたお腹に強い痛みを感じ、私は立てなくなった。


 一歩ずつ、加寿の姿をした「悪魔」は私に近づいてくる。


 「あなたは、本物じゃないわ......」


いっそのこと睨もうと思い顔を上げようとすると、首をつかまれ持ち上げられた。

そのまま私は顔を上げて、加寿の顔を見た。


 ――無表情な、冷たい顔だった――


 彼は拳を握り、今にも私の顔をめがけて殴りかかろうとしている。

諦めて目を閉じた刹那、私は地面にたたきつけられて目を開けた。

その先には......


 「真奈美!どうして!」


 私の代わりに真奈美がつかまれていて、私と同じ状況になっていた。

助けようとするけど、おなかの痛みがそれを邪魔して立ち上がることもできない。


 真奈美は私に笑顔を見せて、泣いた。


 「だめ――」


 その言葉が届く前に、加寿は真奈美の頭を思いっきり殴る。

 一発――

 二発――

 三発――


 腕を力なく下ろし、地面にたたきつけられた真奈美「だったもの」を見て、私は涙が流れた。


 「加寿、どうして......どうしてなの」


 加寿に対して怒りが湧いたわけでもない。

怒りを上回る悲しみが、私の体を支配していた。


 痛みを我慢して、私は再び加寿の目の前に立つ。

拳を構えて戦おうとしたときに、加寿が大きくひるみどこかへ逃げていった。


 「......お父様」


 横を見るとお父様が銃を構えていて、その銃口からは煙が出ていた。

お父様は銃を下ろして、その場に崩れ落ちた。

 「遅かったか、真奈美......俺は止めたが......」


 私は真奈美のまだ開いている瞼を閉じて、私のジャケットを体にかけて手を合わせた。


 「加寿は、もう死んだのよ。あれは、悪魔だわ......」


 立ち上がり、私は覚悟を決めてこれからの目標を見据えた。


 ――悪魔を、殺す――

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