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魔術学院マイナーデ  作者: 宣芳まゆり
招かれざる客人たち
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15-1

「どうしても,入学の許可はいただけないのですか?」

古い書物のにおいの濃い書斎で,白髪の老人は渋い顔をした.

それは今,目の前にいる,そしてこのイースト家の邸に居座っている二人の少年少女のせいである.

「アデル殿下,エイダ様,」

コウスイは卓から立ち上がり,もう何度も口にしたせりふを再び口にした.

「申し訳ございませんが,当学院では外国の方の入学を許可しておりません.」


黒髪,黒目.

たがいにまったく同じ容姿を持つ,十六歳の双子の西ハンザ王国の王子と王女である.

外見上のちがいといえば,髪の長さぐらいだろう.

エイダ王女は肩にかかるくらいの髪の長さだが,アデル王子の方は腰まで届く長髪をゆるく飾りひもで縛っている.

「ですから,特例としてわれわれを認めていただけないでしょうか?」

少年は,十六歳という幼い年齢に似合わない笑みを口もとに浮かべる.

「どのような形式でも結構です,」

王子アデル,子どもながらに西ハンザ王国国王の懐刀として有名な存在である.

「われわれは純粋に,学問を修めたいだけなのですから.」


甘い顔つきの王子の眼光は鋭い.

「アデル殿下,私にはそのような特例を認める権限はございません.」

この少年王子の年齢と顔にだまされる者は多いだろう.

「ならばしかるべきところへ,問い合わせていただけませんか?」

厚顔ふそん,油断のならない王子だ.

「国王陛下から認めることはできないとのご返答を,すでにいただいております.」

少年の笑みが,一層深くなる.

このやり取りも,すでに何度も経験している.


「学院長殿,国王陛下とはいったいどなたのことを指していらっしゃるのですか?」

少年からの挑発的な切り返しを,老人は静かに受け取る.

「即位されたばかりのイスファスカ国王陛下のことです.」

エイダ王女は,交渉に飽ききってあくびをかみ殺している.

こちらの王女の方は年齢相当のふるまいをするので,ある意味でコウスイを安心させる.

「そのような名の王子など,貴国には存在しないでしょう?」

身分制を重んじる西ハンザ王国では,イスカの王位継承どころか存在自体を認めていない.

イスカの成人の儀式も,堂々とボイコットしたほどだ.


「コウスイ殿,われわれは友好国の人間として,あなた方の過ちを是正したく思っております.」

これには老人も,さすがにカチンとくる.

彼の教え子が,あからさまに馬鹿にされたのだ.

「われわれは最良の選択をしたと自負しております.」

真っ向から失礼極まりない王子に対する.

「選択? 王とは選ばれるものではないでしょう?」

やゆするように笑う,その少年の背後でドアが開くのを老人は見た.

「王とは生まれながらのものです,尊い血筋の,」

「国民から望まれぬ王ほど,むなしいものはありません.」

言葉途中に話しかけられて,アデル王子はぎょっとして振り向いた.


金の髪,深緑の瞳の少年.

「わが国王陛下の意思を,伝えにまいりました.」

すっくと立つその姿は,優美さよりもせいかんさを感じさせる.

「いかなる身分の方であっても,入学は許可できません.」

薄水色の髪の,長身の青年が少年の背後に控えている.

「即刻,この学院から立ち去るようにお願いいたします.」


「失礼ですが,貴殿は?」

みずからの弁を中断されて,アデル王子は不機嫌さを隠さずに問うた.

「名乗るのが遅れて,申し訳ございません.」

深緑の瞳がまっすぐに見つめてくる,こちらの少年が隠さないのは敵意だ.

「私の名はライゼリート・イースト,マイナーデ学院の第八学年に所属しております.」

ライゼリートの名に,アデルは軽く息をのむ.

金の末王子ライゼリート,強大な魔力を持つ王子として他国に名を響かせている少年だ.

美形だとは聞いていたが,うわさ以上に華やかな容姿を持っている.


「あなたが,名高い金の末王子殿ですね.」

にっこりとアデルは笑みを作る.

二人の歳の差は数か月ほどしかない,隣国の王子同士,何かと比べられるのだ.

「いえ,今は王子ではありません.」

対するライムの方は,にこりともせずに訂正する.

「トーン・シグニアの名は,兄のために捨てました.」

自分は王子ではなく,王弟だと.


「ライゼリート王子,」

笑顔を張りつかせたままで,アデルは呼びかける.

その横では,エイダ王女がライゼリートの姿に見ほれていた.

「立ち去れとはあまりにも無慈悲な言いよう.確かにわが西ハンザ王国と貴国との間には,密な交流はございませんが,」

少年のりゅうちょうなしゃべり口は,すでに一人前の外交官のものだ.

「これを機に今後,懇意にしたいと,私どもは考えているのです.」

「ならば正式に使者を立てればよいでしょう,わが国王陛下に.」

ライムの方も負けてはいない,すでに兄のイスカから十分に策を授かってきたのだ.

「私では,正式な使者として不足だと?」

子ども扱いをされたと,アデルはまゆをぴくんと震わせる.

ライムには分からなかったが,コウスイには話を主題からそらすための演技だとすぐに分かった.


「ちがいます,あなたが交渉すべき相手はイスファスカ陛下だと申しているのです.」

気づかないままに,金の髪の少年は相手の誘いをそらす.

「……分かりました.」

これ以上の話し合いは無駄だと悟ったのか,黒髪の少年は見えないほこを収めた.

「あなた方の言う国王陛下に手紙を書きましょう,ただし,」

いやらしくひらめく特権階級の口もと,頭を下げられることに慣れている少年.

「……彼は文字を読めるのですか?」

ライムのまゆが跳ね上がる,「馬鹿にするな!」と口を開きかけたとたん,

「わが王国の自慢は,識字率の高さです.」

少年の祖父が,するりと口を挟む.


「国民はみな書物をたしなみます,貴国の小説もよく読まれていますよ.」

老人はにっこりとほほえんで,アデル王子の牙を受け流す.

「特に若い女性には恋愛小説が大人気でして,新しいものが出ると取り合いになるほどに,」

「手紙を出します,」

いまいましげに,少年は話を戻した.

「その間,屋敷への滞在は認めていただきたい.」

アデル王子ら一行は,コウスイの屋敷に滞在しているのだ.

「それはもちろんです,殿下.」

当然,コウスイは彼らを秘密裏に監視下に置いている.

屋敷内を自由に,はいかいさせるわけにはいかない.


アデル王子とエイダ王女が出てゆくと,少年と老人はどちらともなくため息を吐いた.

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