第7話 リペ、弟子になる
朝。
「ご主人様!」
「おはよう。」
「重大発表があります!」
修はコーヒーを飲みながら顔を上げた。
「また壊れた?」
「違います!」
「今日は壊れてから発表します!」
「前提がおかしい。」
リペは胸を張る。
「私は昨日、考えました。」
「おぉ。」
「ご主人様ばかり働いています。」
「まあ、そうだな。」
「だから!」
「私も修理を覚えます!」
修は飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。
「え?」
「弟子になります!」
「いやいや。」
「修理って簡単じゃないぞ。」
リペは真剣な顔になる。
「ご主人様。」
「私は、ご主人様のお役に立ちたいです。」
修は少しだけ笑った。
「……分かった。」
「じゃあ今日から弟子だ。」
リペの目がキラキラと輝く。
「師匠!」
「ご主人様じゃなくなった。」
「どっちでもいいです!」
「適当だな。」
その日の依頼は、小さな木箱だった。
蝶番が外れ、蓋が閉まらなくなっている。
修は工具を並べる。
「よく見て。」
「修理は魔法じゃない。」
「まず、壊れた原因を探す。」
リペは真剣にメモを取る。
「ふむふむ。」
「ここが曲がってるだろ?」
「はい!」
「だから、ここを――」
カンッ。
コンッ。
コトッ。
「修理。」
木箱は元通りになった。
「なるほど!」
リペは感動している。
「では!」
「やってみます!」
修は嫌な予感がした。
「待て。」
「まずは簡単な物から――」
リペは工具箱へ突撃した。
「この工具箱を修理します!」
「壊れてないぞ!」
カンカンカン!
ガンガンガン!
「ちょっ!」
バキィッ!!
工具箱は見事に真っ二つになった。
「…………。」
「…………。」
リペは汗を流す。
「壊れました!」
「知ってる!」
修は思わず頭を抱えた。
「どうして壊れてない物を壊すんだよ!」
リペはしょんぼりする。
「修理する物が無かったので……。」
「作るな!」
その様子を見ていたガインが腹を抱えて笑った。
「はっはっは!」
「弟子にはまだ早いな!」
リペは悔しそうに拳を握る。
「次は成功します!」
修は壊れた工具箱を持ち上げる。
「じゃあ。」
「今壊したんだから。」
「今度は自分で直してみよう。」
リペは目を丸くする。
「私が?」
「うん。」
「失敗した人が、一番覚える。」
リペは壊れた工具箱を見つめる。
ゆっくりと両手で持つ。
「……ごめんなさい。」
その瞬間だった。
リペの手が淡く光る。
修は驚く。
「え?」
【リペ】
【修理補助 Lv1 を習得しました】
「うそだろ……。」
リペは壊れた工具箱へ手を当てる。
完全には直らない。
でも。
蝶番だけは元に戻っていた。
「直った!」
リペは飛び跳ねて喜ぶ。
「すごいじゃないか。」
修は頭を優しく撫でた。
「ちゃんと成長してる。」
リペは嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます!」
その瞬間。
嬉しさのあまりジャンプしすぎて天井へ激突。
ゴンッ!!
頭だけがスポッと外れた。
「師匠ー!」
「だから最後まで気を抜くな!」
ガインは腹を抱えて笑い転げる。
「この工房は、本当に退屈しねぇ!」
修も笑いながらリペの頭を拾う。
「修理。」
カチッ。
リペは敬礼した。
「本日の修理成功率!」
「五〇%です!」
「壊した数も五〇%増えてるけどな。」
工房には今日も、笑い声が絶えなかった。
その日から町では、こんな噂が流れ始める。
「あの工房には、壊れる弟子がいるらしい。」
「いや。」
「弟子が壊れる工房らしい。」




