第71話 旅立つ前に直すもの
翌朝。
時計台。
地下工房。
修は。
入口で。
腕を組んでいた。
「あと四パーセント」
リペも。
隣で。
同じように腕を組む。
「四パーセントです!」
「分かってる」
「今日で終わります!」
「たぶんな」
「終わらせます!」
「気合いで直るなら楽なんだけどな」
地下。
すでに。
町長。
大工。
鍛冶屋。
ガイン。
ロイ。
全員。
揃っている。
町長が言う。
「今日は」
「何をやればいい?」
修が。
工房全体を見る。
【アルド地下修理工房】
【損傷率:24%】
【使用可能率:76%】
【起動条件】
【使用可能率:80%以上】
残り。
四。
「優先は」
「中央作業機構」
修が言う。
「それから」
「工具台の固定」
「あと」
「床下の一部」
「了解」
大工。
すぐ動く。
鍛冶屋も。
工具を。
並べる。
ガイン。
重い部品。
持つ。
リペ。
箒。
持つ。
「私は掃除です!」
「今日は」
「舞わせないでね」
「任せてください!」
ロイが。
リペを見る。
「昨日より上手くなった?」
「もちろんです!」
バサッ。
少し。
埃。
舞う。
修が。
咳。
「成長途中だな」
「あと少しです!」
中央作業機構。
昨日。
主軸の固着は。
解いた。
残る。
補助歯車。
三つ。
うち。
二つ。
修理可能。
一つ。
交換必要。
鍛冶屋が。
壊れた歯車を見る。
「これ」
「同じ形」
「作れるぞ」
修が。
完全設計図を見る。
「お願いします」
「ただ」
「材質」
「少し特殊です」
「どんな?」
修が。
鑑定。
【素材:星鉄混合鋼】
鍛冶屋。
眉を上げる。
「星鉄?」
町長。
「高いのか?」
「高いというより」
「珍しい」
修が言う。
「でも」
「全部を同じ材質にする必要は」
「ないと思います」
鍛冶屋が。
修を見る。
「普通の鋼じゃ駄目か?」
「役割次第ですね」
設計図。
見る。
補助歯車。
負荷。
小さい。
精度。
必要。
耐久。
中程度。
「ここ」
「星鉄じゃなくても」
「動きます」
「ただし」
「摩耗は早くなる」
鍛冶屋。
笑う。
「なら」
「交換しやすく作ればいい」
修が。
少し止まる。
「それだ」
「え?」
「アルドの考え方」
第四の遺産。
氷時計。
壊れない物を。
作るのではない。
壊れた後を。
考える。
「無理に」
「二百年前と同じ物を」
「再現しなくていい」
「今」
「直せる材料で」
「次に交換できる形にする」
鍛冶屋が。
頷く。
「それなら」
「俺の仕事だ」
リペが。
横から。
「星鉄じゃなくて」
「村鉄です!」
「そんな名前じゃない」
「親しみがあります!」
「普通の鋼だよ」
鍛冶屋。
仮工房へ。
戻る。
代わりの歯車。
作成。
その間。
修は。
残り二つ。
補助歯車。
分解。
一つ。
軸穴。
摩耗。
金属片。
埋める。
削る。
合わせる。
もう一つ。
歯。
欠け。
二箇所。
ここも。
補修。
ロイが。
横で。
じっと見る。
「修」
「ん?」
「歯車って」
「一本欠けても」
「動く?」
「少しなら」
「動くこともある」
「じゃあ」
「直さなくてもいい?」
「そこが難しい」
修は。
歯車。
回す。
カチ。
カチ。
欠け部分。
通る。
ゴッ。
引っかかる。
「動くけど」
「他の歯に」
「無理がかかる」
「じゃあ」
「今は動いてても」
「あとで壊れる?」
「ああ」
ロイが。
真剣に。
頷く。
「傷みの音だ」
修が。
少し笑う。
「そう」
「よく覚えてたな」
ロイ。
胸を張る。
「勇者だから!」
「そこ関係ある?」
一方。
床。
大工。
板。
外す。
地下。
石。
一部。
沈下。
原因。
地下水。
ではなく。
古い。
木製支柱。
腐食。
「これ」
「全部替えるか?」
大工が聞く。
修が。
鑑定。
【支柱群】
【全十二本】
【重大劣化:二本】
【中度劣化:三本】
【軽度劣化:七本】
「全部は」
「要らないです」
「二本交換」
「三本補強」
「残りは」
「このまま」
大工。
頷く。
「昔なら」
「全部新しくした方が」
「早いと思ったがな」
修が。
笑う。
「俺も」
「前なら」
「そうしてたかも」
町長が。
横から。
「最近」
「お前」
「物を捨てなくなったな」
「昔から」
「そんなに捨ててませんよ」
「そうか?」
リペが。
すぐ言う。
「私の腕は」
「捨てられません!」
「捨てたことないだろ」
「毎回拾ってくれます!」
「当たり前だよ!」
昼前。
鍛冶屋。
戻る。
手。
真っ黒。
新しい歯車。
一つ。
「できた」
修が。
受け取る。
形。
寸法。
ほぼ同じ。
ただ。
一箇所。
意図的に。
外せる。
固定具。
追加。
「交換しやすくした」
「完璧です」
修が。
中央機構へ。
取り付ける。
カチ。
二つの。
修理歯車。
セット。
最後。
新しい。
補助歯車。
カチッ。
「回します」
全員。
少し。
離れる。
修。
主軸。
ゆっくり。
動かす。
ゴ……
ゴゴ……
カチ。
カチ。
カチ。
三つの。
補助歯車。
連動。
中央。
円形台。
少し。
回転。
【遺産連結調整台】
【部分復旧 → 稼働可能】
【使用可能率:76% → 79%】
「あと一!」
リペが。
叫ぶ。
「あと一パーセントです!」
町長。
笑う。
「一パーセントって」
「何だ?」
修も。
分からない。
工房。
見る。
床。
問題なし。
換気。
動く。
照明。
動く。
棚。
使える。
工具。
使える。
作業台。
動く。
「何が足りない……?」
リペが。
手を挙げる。
「しゃもじ!」
「違う」
「まだ試してません!」
「試さない」
修が。
地下工房を。
歩く。
鑑定。
棚。
正常。
床。
正常。
壁。
正常。
照明。
正常。
工具台。
正常。
入口。
正常。
「……」
ロイが。
一角を。
指差す。
「修」
「そこ」
「何?」
古い。
小さな。
椅子。
作業台の。
すぐ横。
背もたれ。
なし。
木製。
脚。
一本。
短い。
ガタ。
修が。
触れる。
【対象:作業椅子】
【損傷率:17%】
【製作者:不明】
【使用者:アルド】
「これか」
リペが。
覗く。
「椅子?」
町長も。
笑う。
「最後が椅子とはな」
修が。
少し。
考える。
巨大な。
時計台。
秘密の。
地下工房。
遺産連結機構。
完全設計図。
そんな。
大きな物。
ばかり。
見ていた。
足元の。
椅子。
気づかなかった。
「傷みの音」
修が。
小さく言う。
椅子。
押す。
ギィ。
ほんの。
小さな。
軋み。
「鳴ってる」
ロイが。
得意そう。
「俺が見つけた!」
「ああ」
「よく気づいたな」
「勇者だから!」
「今日は認める」
椅子。
分解。
脚。
接合部。
緩み。
木。
まだ。
使える。
修。
削らない。
必要最小限。
補強。
接着。
固定。
最後。
座る。
ギィ……
音。
消えた。
でも。
古い。
座面。
傷。
そのまま。
【損傷率:0%】
その瞬間。
地下工房。
ゴォン。
低い。
音。
壁。
照明。
一斉に。
少し。
明るくなる。
中央作業台。
完全起動。
【アルド地下修理工房】
【使用可能率:79% → 80%】
【起動条件達成】
リペが。
両手を上げる。
「やりました!」
ロイも。
跳ぶ。
「八十!」
町長。
「まさか」
「最後が椅子か」
修が。
椅子を見る。
「アルドも」
「ここに座ってたんでしょうね」
二百年前。
疲れて。
座り。
考え。
失敗し。
また。
工具を持つ。
大職人。
伝説。
そんな。
肩書き。
関係なく。
きっと。
ただの。
職人として。
ここで。
仕事をしていた。
その椅子。
中央。
遺産連結調整台。
カチッ。
七つの。
小さな台。
光る。
一。
二。
三。
四。
五。
五つ。
反応。
残り。
六。
七。
暗い。
完全設計図。
浮かぶ。
【第一遺産:接続情報確認】
【第二遺産:接続情報確認】
【第三遺産:接続情報確認】
【第四遺産:接続情報確認】
【第五遺産:接続情報確認】
【第六遺産:未確認】
【第七遺産:未確認】
続いて。
【時計台修復工程】
【第二段階完了】
修。
息を呑む。
【時計台修復率】
【64% → 68%】
「四パーセント」
リペ。
嬉しそう。
「いっぱい上がりました!」
「地下工房復旧分か」
そして。
新しい。
表示。
【第六遺産への接続条件を確認】
【星渡りの天秤】
【探索許可】
修が。
地図を見る。
王国南東。
星渡り峡谷。
ついに。
道が。
開いた。
その時。
中央作業台。
一箇所。
小さな。
引き出し。
カチ。
勝手に。
開く。
中。
手紙。
一枚。
表。
短い。
文字。
『次の修理屋へ』
修が。
静かに。
開く。
アルドの。
字。
『ここまで来たなら』
『君は』
『直すことより』
『直さないことの方が』
『難しいと』
『知っているはずだ。』
修。
読む。
『そして』
『二つのうち』
『片方しか』
『選べないことがあると』
『まだ』
『認めたくないはずだ。』
「……」
リペも。
黙る。
『私も』
『そうだった。』
修が。
手紙から。
顔を上げる。
「アルドも……」
続き。
『だから』
『第六の遺産を作った。』
『星渡りの天秤は』
『正解を教える道具ではない。』
『選べない者へ』
『答えを与える道具でもない。』
『ただ』
『何を選ぼうとしているのか』
『見せる道具だ。』
修が。
眉を寄せる。
さらに。
最後。
『天秤に』
『嘘は置けない。』
『気をつけろ。』
『自分に嘘をつく職人ほど』
『危険なものはない。』
地下。
静か。
町長が。
聞く。
「何て?」
修は。
手紙を。
折らない。
そのまま。
渡す。
町長。
読む。
そして。
少し。
表情。
険しくなる。
「簡単じゃなさそうだな」
「はい」
「行くのか?」
修は。
迷わず。
頷く。
「行きます」
「そうか」
町長は。
それ以上。
止めない。
ただ。
言う。
「なら」
「帰ってこい」
第三の遺産。
帰港の鐘。
思い出す。
ただいま。
おかえり。
修が。
笑う。
「はい」
午後。
異世界リペア工房。
出発。
準備。
食料。
工具。
野営道具。
地図。
アルド修理手帳。
五冊。
ノア修理記録。
時計台修復ノート。
修理素材。
包帯。
水。
そして。
リペ。
木製しゃもじ。
「……」
修。
見る。
「持ってくの?」
「もちろんです!」
「何に使う?」
「料理!」
「やっと正しい用途」
「第六の遺産!」
「戻った」
旅立ちは。
明朝。
そう。
決めた。
だが。
修には。
もう一つ。
やることがあった。
残り。
二十三件。
全部は。
無理。
でも。
急ぎ。
確認。
修が。
依頼札を。
一枚ずつ。
見る。
『車輪』
『明後日まで』
これは。
旅前。
『玩具』
『いつでも』
後。
『農具』
『収穫前に』
優先。
『花瓶』
『急がない』
後。
『時計』
『止まったままで大丈夫です』
修が。
少し笑う。
「大丈夫って」
「書いてある」
リペが。
覗く。
「優しいです」
「じゃあ」
「急ぎだけ」
「今日やる」
「はい!」
夕方まで。
四件。
修理。
荷車。
鎌。
水汲み桶。
扉の蝶番。
どれも。
遺産ではない。
世界を。
救わない。
でも。
誰かの。
明日を。
少し。
楽にする。
それでいい。
最後。
水汲み桶。
依頼主。
少女。
修が。
渡す。
「できたよ」
「ありがとう!」
少女が。
抱える。
「これで」
「明日から」
「また水汲める!」
「重いから」
「無理しないでね」
「うん!」
走って。
帰る。
リペが。
その背中を見る。
「これも」
「救ったことになりますか?」
修が。
少し考える。
「救ったってほどじゃ」
「ないと思う」
「でも」
「困ってたのは」
「減ったかな」
「それで十分?」
「ああ」
「たぶん」
夜。
工房。
荷物。
全部。
まとめる。
リペ。
床。
寝転がる。
「明日」
「旅です!」
「ああ」
「星渡り峡谷!」
「ああ」
「天秤!」
「ああ」
「橋!」
「ああ」
「ご主人様」
「何?」
リペが。
少し。
真面目な顔。
「本当に」
「片方しか」
「救えなかったら」
「どうします?」
修は。
すぐには。
答えない。
机。
完全設計図。
アルドの手紙。
『天秤に嘘は置けない。』
見る。
「分からない」
「やっぱり?」
「ああ」
「今」
「ここで決めたって」
「意味ないだろ」
「現地を見て」
「人の話を聞いて」
「橋を見て」
「それから考える」
リペが。
頷く。
「分からないまま」
「行くんですね」
「うん」
「怖くないですか?」
修は。
少し。
笑う。
「怖いよ」
「ご主人様でも?」
「俺だからだよ」
修理。
直せばいい時は。
簡単だ。
直し方を。
考えればいい。
でも。
直すことで。
誰かが困るなら。
直さないことで。
別の誰かが困るなら。
工具では。
足りない。
鑑定でも。
答えは出ない。
だから。
行く。
翌朝。
工房の扉。
閉める。
札。
かける。
『出張修理中』
その下。
リペが。
勝手に。
小さな札。
追加。
『第六の遺産へ行ってきます!』
修が。
見る。
「消して」
「なぜです!?」
「秘密にしてる意味!」
「では」
裏返す。
『ちょっと遠くへ行ってきます!』
修。
少し考える。
「……それなら」
「よし」
リペ。
勝ち誇る。
「交渉成立です!」
村の入口。
町長。
ガイン。
ロイ。
何人か。
見送り。
ロイ。
木剣。
上げる。
「修!」
「絶対帰ってこい!」
修。
笑う。
「勇者みたいな台詞だな」
「勇者だから!」
ポチ。
メェェ。
リペ。
手を振る。
「行ってきます!」
町長。
「行ってらっしゃい」
ガイン。
「無茶するなよ」
修。
頷く。
「行ってきます」
道。
南東。
まだ。
見えない。
星渡り峡谷。
百年間。
壊れ続ける。
橋。
直せば。
片方。
直さなければ。
反対側。
修は。
背負った。
工具箱の。
重さを。
少し。
強く感じた。
だが。
その隣。
リペ。
木製しゃもじを。
剣のように。
掲げる。
「星渡り峡谷!」
「出発です!」
修が。
笑う。
「ああ」
第六の遺産。
星渡りの天秤。
選べなかったものを。
量るための。
遺産。
その場所へ。
修たちは。
歩き始めた。




