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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者: 森


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71/116

第70話 直せるものと、直せないもの


翌朝。


異世界リペア工房。


修が。


扉を開ける。


「……」


すでに。


三人。


並んでいた。


「おはようございます」


修が言う。


「おはよう!」


「待ってたよ!」


「修理お願い!」


リペが。


後ろから。


ひょこっと顔を出す。


「大人気です!」


「朝から元気だな」


「修理屋の朝は早いです!」


「お前さっきまで寝てただろ」


「起きたので朝です!」


「理屈が強いな」


最初。


老婦人。


小さな。


木製の椅子。


「孫が使ってるんだけどね」


脚。


一本。


少し。


ぐらついている。


【対象:子ども用木椅子】


【損傷率:9%】


【右前脚:接合部緩み】


「すぐ直ります」


修が言う。


「ただ」


「一つ確認していいですか?」


「何だい?」


修は。


座面。


見る。


真ん中。


小さな。


丸い傷。


いくつも。


「これは?」


老婦人が。


笑った。


「ああ」


「孫が」


「スプーンで叩くんだよ」


「ご飯が来るまで」


「太鼓みたいにね」


リペが。


目を輝かせる。


「楽器です!」


「椅子だよ」


「兼用です!」


「本人に聞いてからにしよう」


修は。


傷を。


そのまま残す。


脚。


接着。


補強。


最後。


少しだけ。


調整。


【損傷率:0%】


老婦人が。


椅子を受け取る。


「傷は」


「消さなかったんだね」


「はい」


「邪魔じゃないので」


「そうかい」


老婦人は。


座面を。


優しく撫でた。


「これは」


「残ってた方がいいね」


修が。


頷く。


「俺も」


「そう思います」


次。


若い男性。


持ってきたのは。


古い。


手鏡。


枠。


銀色。


鏡面。


大きく。


ひび。


「直せますか?」


修が。


手に取る。


【対象:手鏡】


【損傷率:44%】


【鏡面:重大破損】


【銀膜:劣化】


【枠:修理可能】


【鏡面:交換推奨】


「鏡は」


「交換になります」


男が。


少し。


困った顔。


「同じ鏡じゃ」


「なくなりますよね」


「はい」


修は。


正直に答える。


「枠は残せます」


「でも」


「鏡面そのものは」


「新しくするしかない」


男は。


黙る。


リペも。


珍しく。


黙っている。


「誰かの物ですか?」


修が尋ねる。


男は。


頷いた。


「母のです」


「去年」


「亡くなって」


「……」


「片付けてたら」


「出てきて」


「直して使おうと思ったんですけど」


修は。


手鏡を見る。


鏡面。


割れている。


今のままでは。


使えない。


でも。


交換すれば。


母親が。


長い間。


顔を映した。


その鏡面は。


なくなる。


「直したい理由」


修が尋ねる。


「使いたいからですか?」


男は。


少し考える。


「……分からないです」


「捨てたくないだけかもしれない」


修は。


頷いた。


「なら」


「今日は直さなくてもいいと思います」


「え?」


「枠は」


「今すぐ壊れません」


「鏡も」


「触らなければ」


「危なくないように」


「保護できます」


修は。


布と。


薄い板を。


用意。


割れた面へ。


仮の保護。


固定。


「これで」


「置いておけます」


男が。


驚く。


「修理しないんですか?」


「決められない時は」


「決めなくてもいいですよ」


「……」


「新しい鏡を入れたくなったら」


「また来てください」


「このまま残したくなったら」


「それでもいい」


「直せるからって」


「今直さないといけないわけじゃないので」


男は。


しばらく。


手鏡を見つめる。


そして。


小さく。


笑った。


「ありがとうございます」


「少し」


「考えます」


修は。


料金を。


取らなかった。


「今日は」


「保護しただけなので」


「でも」


「材料」


「端材です」


男は。


何度も。


頭を下げ。


帰っていった。


リペが。


扉を見る。


「ご主人様」


「ん?」


「直せるのに」


「直しませんでしたね」


「ああ」


「珍しいです」


修が。


机へ。


工具を戻す。


「昔だったら」


「すぐ交換してたかもな」


「今は違いますか?」


「少しだけ」


修は。


割れた手鏡を。


思い出す。


「直すことが」


「正解じゃない時も」


「あるから」


リペが。


頷く。


「氷時計」


「ああ」


「記憶樹」


「ああ」


「しゃもじ」


「それは関係ない」


リペは。


腰のしゃもじを。


守る。


「直すところありません!」


「損傷率二パーセントだっただろ」


「個性です!」


「便利な言葉覚えたな」


三人目。


少年。


ロイ。


「修!」


「おはよう」


「これ!」


差し出した。


木剣。


あの。


『勇者ロイ』


の剣。


修が。


一瞬。


焦る。


「また壊した?」


「違う!」


ロイが。


胸を張る。


「強くしたい!」


「……」


「バルガと」


「もっと遊ぶ!」


後ろ。


赤い角のヤギ。


ポチ。


メェ。


修が。


ロイを見る。


「遊ぶのに」


「剣を強くする必要ある?」


「ある!」


「なんで?」


「勇者だから!」


「そうか……」


子どもの理屈。


強い。


修が。


木剣を見る。


【対象:木剣】


【損傷率:2%】


【状態:良好】


【前回修理箇所:問題なし】


「壊れてないよ」


「強くできない?」


修は。


考える。


「できるけど」


「重くなる」


「大丈夫!」


「振ってみる?」


ロイが。


頷く。


修は。


工房の隅から。


少し重い。


木剣を。


渡す。


ロイ。


構える。


「うおお!」


振る。


ブン。


体ごと。


回る。


「うわっ!」


尻もち。


ポチ。


メェェ。


リペが。


拍手。


「豪快です!」


ロイが。


立ち上がる。


「……今の方がいい」


「だろ?」


修は。


元の木剣を返す。


「強い道具が」


「いい道具とは」


「限らない」


「使える道具が」


「一番いい」


ロイが。


木剣を見る。


「じゃあ」


「これでいい!」


「ああ」


「直すところは?」


「ない」


「……」


ロイが。


少し。


残念そう。


「修理屋に来たのに」


「修理しないで帰る」


「たまにはいいだろ」


リペが。


しゃもじを差し出す。


「これを壊しますか?」


「やめなさい」


「修理できます!」


「仕事を作るな」


午前中。


修理依頼。


八件。


完了。


一件。


保留。


一件。


何もしない。


三十一件だった依頼。


残り。


二十三件。


リペが。


紙へ。


大きく書く。


『あと二十三!』


その下。


『がんばれご主人様!』


「お前も働いて」


さらに。


リペ。


書き足す。


『がんばれ私!』


「文字で応援するな」


昼過ぎ。


時計台。


地下工房。


昨日。


五十一パーセントまで。


使えるようにした。


今日は。


作業台。


工具棚。


中央作業機構。


町長。


大工。


鍛冶屋。


ガイン。


今日も。


手伝い。


さらに。


ロイ。


「なんでいるの?」


「勇者も手伝う!」


町長が。


連れてきたらしい。


修が。


ロイを見る。


「危ないものは触らない」


「分かった!」


「重いものも持たない」


「分かった!」


「リペの真似しない」


「なんでですか!?」


リペが。


抗議。


「大事だから」


ロイが。


真剣に頷く。


「分かった!」


「納得された!」


まず。


工具棚。


錆びた。


工具。


百本以上。


全部。


使えるわけではない。


修が。


鑑定。


【対象:アルド工房工具群】


【総数:137】


【使用可能:84】


【修理可能:31】


【修理非推奨:22】


「全部」


「直さないのか?」


鍛冶屋が。


聞く。


修は。


一本。


細い。


古いヤスリを。


持つ。


【金属疲労:重大】


「これは」


「直しても危ないです」


「折れる?」


「はい」


「なら」


「使わない方がいいな」


「そうですね」


リペが。


一本。


錆びた。


小さな金槌を持つ。


「これは?」


修。


触れる。


【損傷率:63%】


【柄:腐食】


【頭部:使用可能】


「柄だけ」


「替えれば使える」


「直します!」


「うん」


リペ。


嬉しそう。


「私の金槌にします!」


「地下工房の物だから」


「みんなの」


「では」


「みんなの私用金槌!」


「矛盾してる」


一時間。


二時間。


使える物。


直す物。


残す物。


廃棄する物。


分けていく。


ロイが。


古い。


歯車を。


持ち上げる。


「これ!」


「かっこいい!」


修が。


見る。


【対象:試作歯車】


【損傷率:100%】


【素材疲労:限界】


【使用不可】


「これは」


「もう使えない」


ロイが。


少し。


残念そう。


「直せない?」


「直せない」


「修でも?」


「ああ」


ロイが。


壊れた歯車を見る。


「じゃあ」


「捨てる?」


修は。


答えようとして。


止まる。


歯車。


試作品。


アルドが。


作ったもの。


使えない。


でも。


形。


加工跡。


失敗した跡。


資料としては。


価値がある。


「いや」


修が言う。


「これは残そう」


「使えないのに?」


「使えないけど」


「見れば」


「どう作ろうとしたか」


「分かるから」


鍛冶屋が。


頷く。


「失敗作も」


「職人には勉強になる」


「そういうことです」


ロイが。


歯車を。


大事そうに。


棚へ置く。


「じゃあ」


「これも役に立つ!」


「使うだけが」


「役目じゃないからな」


作業。


さらに進む。


【アルド地下修理工房】


【使用可能率:51% → 68%】


次。


中央作業機構。


巨大な。


円形作業台。


中心。


何かを。


固定する装置。


周囲。


七つの。


小さな台。


【対象:遺産連結調整台】


【損傷率:29%】


【主軸:固着】


【補助歯車:三個破損】


【起動条件:使用可能率80%以上】


「これが」


修は。


完全設計図と。


見比べる。


「時計台を」


「最終調整するための」


「作業台みたいですね」


町長が。


覗く。


「七つの遺産を」


「ここへつなぐのか?」


「たぶん」


「遺産そのものじゃなくて」


「そこで得た情報とか」


「音とか」


「そういうものを」


リペが。


手を挙げる。


「音をどうやって置くんです?」


「俺も聞きたい」


「ご主人様も知らない!」


「知らないことくらいあるよ」


「たくさん?」


「そこ強調しなくていい」


主軸。


固い。


二百年。


動いていない。


油。


古い。


固着。


修。


鍛冶屋。


二人。


少しずつ。


分解。


ガインが。


大型部品を。


支える。


「重っ!」


「大丈夫ですか?」


「問題ない!」


リペが。


横で。


応援。


「がんばれガインさん!」


「お前も持て!」


「私は繊細な作業担当です!」


「掃除だろ!」


「今日は綺麗に掃きます!」


バサッ。


全員。


一瞬。


止まる。


埃。


ほとんど。


舞わない。


リペが。


胸を張る。


「成長しました!」


修が。


笑う。


「そこは本当に成長した」


夕方。


主軸。


ゴ……


少し。


動く。


「来た!」


鍛冶屋が。


声を上げる。


修。


さらに。


ゆっくり。


回す。


ゴ……


ゴゴ……


カチッ。


止まる。


【主軸固着:解除】


【遺産連結調整台】


【部分復旧】


【使用可能率:68% → 76%】


「あと四パーセント」


リペが。


指を。


四本立てる。


「もう少しです!」


修が。


地下を見る。


床。


換気。


照明。


棚。


作業台。


かなり。


工房らしくなった。


「明日で」


「八十いけそうだな」


町長が。


腰を伸ばす。


「なら」


「明日も来る」


大工。


「俺も」


鍛冶屋。


「こっちも」


ガイン。


「重い物があるなら呼べ」


修が。


少し。


申し訳なくなる。


「みんな」


「仕事あるのに」


町長が。


呆れた顔。


「何言ってる」


「時計台」


「誰のだと思ってる」


「……」


「お前のじゃない」


修が。


少し笑う。


「そうですね」


「町のだ」


「だから」


「町で直す」


第四の遺産。


フロストベル。


思い出す。


修理屋が。


全部。


直す必要はない。


むしろ。


皆で。


直せる方が。


強い。


「分かりました」


修が。


頭を下げる。


「明日も」


「お願いします」


帰り。


地下階段。


ロイが。


修の袖を引く。


「修」


「ん?」


「今日」


「壊れてても」


「直さない物」


「いっぱいあったね」


「ああ」


「直せないのも」


「あった」


「そうだな」


ロイが。


考える。


「修理屋って」


「全部直す人じゃないの?」


修は。


少し。


足を止める。


「俺も」


「昔は」


「そう思ってたかもな」


「違うの?」


「たぶん」


修は。


地下工房を。


振り返る。


「直すものを」


「ちゃんと選ぶ人でも」


「あるんだと思う」


ロイが。


首を傾げる。


「難しい」


「俺もまだ」


「よく分かってない」


「修なのに?」


「修でも」


「分からない」


リペが。


横から。


大きく頷く。


「ご主人様は」


「分からないことがいっぱいあります!」


「お前は黙ってて」


ロイが。


笑った。


夜。


工房。


修は。


完全設計図を。


もう一度。


広げる。


第六の遺産。


星渡りの天秤。


『重さを量らない。』


『修理屋が』


『選べなかったものを』


『量るために作った。』


今日。


何度も。


選んだ。


直す。


直さない。


交換する。


残す。


使う。


使わない。


捨てる。


残す。


答えは。


いつも。


一つではない。


リペが。


隣で。


菓子を。


二つ。


手に持っていた。


「ご主人様」


「どっち食べます?」


右。


蜂蜜菓子。


左。


木の実菓子。


「今?」


「選んでください!」


修が。


蜂蜜菓子へ。


手を伸ばす。


リペ。


避ける。


「こちらは私です!」


「じゃあ聞くな!」


木の実菓子へ。


手。


また。


避ける。


「こちらも私です!」


「選択肢なかった!」


リペが。


二つとも。


食べる。


「美味しいです!」


修が。


ため息。


「天秤にかけるまでもなかったな」


「はい!」


その時。


完全設計図。


淡く。


光る。


修が。


顔を上げる。


第六。


星渡りの天秤。


その下。


新しい文字。


『直せるものを』


『直すのは』


『難しくない。』


次。


『直せないものを』


『諦めるのも』


『難しくない。』


修が。


目を細める。


最後。


『最も難しいのは』


『二つとも救えない時』


『どちらを救うか』


『選ぶことだ。』


「……」


リペも。


黙った。


修は。


その文章を。


何度も読む。


二つとも。


救えない。


どちらか。


一つ。


選ぶ。


これまで。


修は。


工夫して。


何とか。


両方。


残す方法を。


探してきた。


人も。


物も。


思い出も。


でも。


もし。


本当に。


一つしか。


選べないなら。


さらに。


地図。


星渡りの天秤の。


目的地。


山の。


巨大な橋。


その横。


新たな。


地名。


【星渡り峡谷】


そして。


小さな。


一文。


『第六の遺産は』


『橋の中央にある。』


次。


『ただし』


修が。


眉をひそめる。


「またただし」


リペが。


緊張する。


『橋は』


『百年前から』


『壊れ続けている。』


「百年……」


さらに。


『直せば』


『片側の町が救われる。』


修の顔。


強張る。


次。


『直さなければ』


『反対側の町が救われる。』


「……」


リペが。


小さな声。


「どっちも」


「救えない?」


修は。


答えなかった。


星渡りの天秤。


重さを量らない。


それが。


量るもの。


少しだけ。


見えた気がした。


修理屋が。


直すか。


直さないか。


その選択で。


誰かが。


救われ。


誰かが。


困る。


そんな。


修理。


修は。


設計図を閉じる。


「まず」


「地下工房を」


「八十パーセントまで直そう」


リペが。


頷く。


「はい」


「それから」


修は。


星渡り峡谷の。


地図を見る。


「行って」


「自分の目で見る」


「はい」


「話だけじゃ」


「選べない」


「ご主人様」


「ん?」


リペが。


珍しく。


真面目な顔。


「選べますか?」


修は。


少し。


考えた。


そして。


正直に。


答えた。


「分からない」


でも。


行く。


分からないから。


見に行く。


話を聞く。


触れる。


考える。


それも。


修理屋の仕事だ。


翌日。


地下工房。


残り。


四パーセント。


そして。


その先。


第六の遺産。


星渡りの天秤。


これまでの旅とは。


少し違う。


直し方を。


問われる旅が。


静かに。


始まろうとしていた。

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