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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第66話 未来へ渡す人


【記憶を未来へ渡す者を】


【一人選んでください】


修は。


表示を見つめた。


「一人……」


リペが。


すぐに手を挙げる。


「はい!」


「早い」


「私です!」


「内容も分かってないだろ」


「未来へ運びます!」


「どうやって?」


リペが。


考える。


「走って!」


「未来は方角じゃない」


「では」


「全力で待ちます!」


「それは誰でもできる」


記憶樹の前。


ハルネ村の人たちも。


表示そのものは見えないが。


修の反応で。


何かが起きていることは。


分かっていた。


宿屋の主人が尋ねる。


「どうした?」


修は説明する。


「第五の遺産が」


「次の条件を出しました」


「条件?」


「この記憶を」


「未来へ渡す人を」


「一人選べって」


ざわ。


村人たちが。


顔を見合わせる。


「未来へ?」


「どういう意味だ?」


「誰かが持って帰るのか?」


修も。


分からない。


「たぶん」


「ただ持ち帰るだけじゃないと思います」


エルドが。


記憶樹を見る。


「昔は」


「そんな仕組みはなかった」


「知らなかっただけかもしれません」


修は。


新しく作られた。


銀色の記憶音板を見る。


『音の森』


『新しい一日』


今日の音。


これを。


未来へ渡す。


「誰を選ぶ?」


宿屋の主人が言う。


修は。


少し考えた。


そして。


首を横に振る。


「俺が選んでいいのかな」


「え?」


「だって」


「この記憶」


「俺一人のものじゃないですから」


今日。


ここにいた人。


全員の音。


全員の笑い。


全員の一日。


それを。


修が勝手に。


誰かへ託す。


少し違う気がした。


すると。


リペが。


また手を挙げる。


「では!」


「じゃんけんです!」


「大事なことを運で決めるな」


「公平です!」


「公平だけど」


「たぶん違う」


村人たちから。


笑い声。


その時。


昨日。


エルドへ。


笛を吹いてと頼んだ少女が。


前へ出た。


年は。


九つくらい。


肩までの茶色い髪。


「ねえ」


修がしゃがむ。


「どうした?」


少女は。


記憶音板を見る。


「未来へ渡すって」


「明日の人に」


「聞かせるってこと?」


「……たぶん」


「じゃあ」


少女は言った。


「私」


「明日も来たい」


修が。


目を瞬く。


「ここへ?」


「うん」


「今日だけじゃなくて」


「また」


「森の音を聞きたい」


エルドが。


少女を見る。


「お前」


「名前は?」


「ミナ」


「ミナか」


「うん」


エルドは。


少し考えてから聞く。


「今日聞いた音を」


「覚えていられるか?」


ミナは。


首を傾げる。


「全部は無理」


あっさり。


エルドが。


少し笑う。


「正直だな」


「でも」


ミナは続ける。


「忘れたら」


「また来ればいいでしょ?」


「……」


「それに」


「次に来た時は」


「違う音がするかもしれないし」


修が。


ミナを見る。


違う音。


昔と同じではなく。


今日とも同じではない。


次に来た日の。


新しい音。


エルドも。


その言葉を聞いていた。


長い間。


昔の音を。


残しすぎた村。


その反対に。


全部を。


消そうとした老人。


でも。


この子は。


どちらでもない。


覚える。


忘れる。


また来る。


そして。


新しいものを聞く。


それでいいと。


自然に思っている。


記憶樹。


ポォン。


一本。


枝が鳴った。


修が触れる。


【候補者反応を検知】


「……」


表示。


【記憶継承候補】


【ミナ】


【適合率:91%】


リペが。


修の顔を覗く。


「どうです?」


「すごく高い」


「私より?」


修は。


試しに。


リペを見る。


【記憶継承候補】


【リペ】


【適合率:38%】


「……」


「何です?」


「言わないでおく」


「気になります!」


「未来へ待つ担当で」


「そんな!」


修は。


ミナへ尋ねる。


「ミナ」


「はい」


「もしかすると」


「ちょっと大事なことを」


「お願いすることになる」


「何?」


「この森のことを」


「覚えていてほしい」


ミナは。


少し考える。


「ずっと?」


修は。


答えようとして。


止まった。


ずっと。


覚えていろ。


それでは。


また。


記憶に縛ることになる。


だから。


言い直した。


「忘れてもいい」


「え?」


「忘れても」


「いつか思い出した時に」


「また来てくれればいい」


「それで」


「ここで何か聞いたら」


「誰かに話してほしい」


「どんな森だったか」


「今日」


「誰がいたか」


「それだけ」


ミナが。


エルドを見る。


「おじいちゃんの笛も?」


エルドが。


顔をしかめる。


「下手だったろ」


「きれいだったよ」


「……そうか」


ミナは。


修へ向き直る。


「じゃあ」


「やる」


「いいの?」


「うん」


「私」


「また来たいから」


その瞬間。


記憶樹。


ゴォン……。


低い音。


表示。


【継承候補者の意思を確認】


【条件成立】


【記憶を未来へ渡す者】


【ミナ】


【登録しますか?】


修は。


すぐには。


押さなかった。


ミナへ。


もう一度聞く。


「本当にいい?」


「うん」


「嫌になったら?」


「来ない」


「それでいい」


ミナが笑う。


「じゃあ大丈夫」


修も。


笑った。


「分かった」


【登録】


カチッ。


記憶樹の内部。


歯車が。


ゆっくり回り始める。


銀色の記憶音板。


『音の森』


『新しい一日』


その表面から。


細い。


光の糸。


一筋。


ミナの前へ。


伸びる。


「わっ」


ミナが。


両手を出す。


光は。


手のひらへ。


落ちる。


そして。


小さな。


銀色の種。


になった。


「種?」


修が。


鑑定する。


【対象:記憶樹の種子】


【第五の遺産・継承媒体】


【記録内容:音の森・新しい一日】


【発芽条件:新しい記憶を一つ与える】


「……」


修が。


読み上げる。


エルドが。


目を細める。


「種だったのか」


ミナが。


手のひらの種を見る。


「これ」


「植えるの?」


修は。


表示を見る。


【現在植樹非推奨】


【継承者が新しい記憶を得た後】


【任意の場所へ植樹可能】


【発芽後、その土地の音を記録します】


修の目が。


大きくなる。


「そういうことか……」


宿屋の主人が。


聞く。


「何だ?」


修は。


種を見る。


「この森を」


「増やすための物じゃない」


「じゃあ?」


「別の場所に」


「新しい記憶を残すための種です」


エルドが。


息を呑む。


昔の音を。


運び続けるのではない。


今の記憶を。


一つ持って。


別の場所へ行く。


そこで。


また。


新しい音を受け取る。


そして。


育つ。


記憶は。


コピーされるのではない。


つながっていく。


「アルド……」


エルドが。


呟いた。


「最初から」


「過去を閉じ込めるために」


「作ったんじゃなかったのか」


修は。


記憶樹を見る。


「たぶん」


「旅をさせるためだったんです」


「記憶を?」


「はい」


ノア。


旅する商人。


壊れた物を直し。


人と人をつないだ男。


第五の遺産を。


預かった理由。


少しだけ。


分かった気がした。


同じ場所に。


留まり続ける記憶。


それが。


人を縛り始めた時。


ノアは。


きっと。


気づいたのだ。


記憶にも。


旅が必要だと。


ミナが。


種を握る。


「じゃあ」


「これ」


「どこに植えればいいの?」


「それは」


修は答える。


「ミナが決めていい」


「私が?」


「ああ」


「明日でも」


「一年後でも」


「もっと先でも」


「新しく」


「残したい音ができた場所に」


「植えればいい」


ミナは。


考える。


「じゃあ」


「今は持ってる」


「うん」


「なくすなよ」


エルドが言う。


ミナは。


少し困った顔。


「なくすかも」


「おい!」


「子どもだから」


「胸張るな!」


修が笑う。


「袋を作りましょう」


「首から下げられるやつ」


「それがいい!」


リペが。


手を挙げる。


「私が作ります!」


修が。


すぐ止める。


「俺が作る」


「なぜです!?」


「第五の遺産を落としたくないから」


「信用してください!」


「普段の積み重ねって大事だよ」


修は。


工具袋から。


革の端切れを出した。


小さく切る。


折る。


縫う。


紐を付ける。


小さな。


種袋。


修理ではない。


でも。


修理屋の手仕事。


ミナの首へ。


かける。


「これなら」


「なくしにくい」


「ありがとう!」


ミナが。


袋を握る。


その瞬間。


記憶樹。


ポォォォン――。


長い。


澄んだ音。


そして。


表示。


【第五の遺産】


【継承条件・第二段階達成】


【記憶を未来へ渡す】


【達成】


続いて。


【第五の遺産】


【継承完了】


「……!」


リペが。


修を見る。


「終わりました?」


「たぶん」


修が。


記憶樹へ触れる。


【第五の遺産】


【記憶樹のオルゴール】


【継承完了】


【保存記憶数:1】


【未来継承数:1】


その下。


新しい文字。


『音は』


『残すためにあるのではない。』


修が。


読む。


『誰かへ』


『渡すためにある。』


さらに。


『記憶も同じだ。』


エルドが。


静かに。


目を閉じる。


その時。


記憶樹の。


奥。


カチッ。


昨日。


途中まで開いた。


小さな隠し扉が。


完全に開く。


中。


一冊。


古い手帳。


修が。


息を呑む。


表紙。


見慣れた。


歯車の印。


「まさか……」


手に取る。


【対象:アルド修理手帳・第五巻】


リペが。


飛び上がる。


「五冊目です!」


「ああ」


修は。


ゆっくり。


開く。


最初のページ。


アルドの文字。


『第五の遺産』


『記憶樹のオルゴール』


そして。


『人は』


『忘れる。』


『それでいい。』


修の手が。


止まる。


エルドも。


隣から読む。


『忘れるから』


『新しいものを』


『覚えられる。』


次。


『だから私は』


『記憶を永遠に残す装置を』


『作りたかったのではない。』


『記憶を』


『次の誰かへ渡す装置を』


『作りたかった。』


修は。


ミナを見る。


少女は。


首から下げた。


小さな種袋を。


大事そうに持っている。


次のページ。


短い。


一文。


『昔を大切にすることと』


『昔に戻ることは』


『同じではない。』


エルドの目から。


一筋。


涙が落ちた。


「……遅い」


小さな声。


「もっと早く」


「読ませろ」


修が。


少し笑う。


「アルドさん」


「説明不足なんですよね」


「本当にな」


初めて。


エルドが。


アルドへ文句を言った。


手帳。


最後。


時計台の。


新しい設計図。


今までの巻とは。


違う部分。


巨大な。


一本の軸。


その周囲。


七つの記号。


修は。


目を細める。


「これ……」


第一。


第二。


第三。


第四。


第五。


五つの記号。


すでに。


少しずつ。


埋まっている。


そして。


第五の位置。


オルゴールのような印。


その横。


文章。


『五つ目の音は』


『未来へ渡された時』


『初めて音になる。』


修は。


呟く。


「五つ目の音……」


その瞬間。


遠く。


記憶樹。


そして。


森中の。


四百六十二本の音響樹が。


一斉に。


鳴った。


ポォォォォン――。


今までとは。


違う。


一つに重なる。


巨大な音。


修の鞄。


時計台修復ノートが。


光る。


開く。


【七つの音】


【第一:――】


【第二:――】


【第三:帰港の鐘】


【第四:――】


そして。


【第五:継承の音】


【獲得】


「……」


修は。


息を呑む。


ついに。


はっきり。


一つ。


七つの音として。


記録された。


リペが。


覗き込む。


「あと六つです!」


「違う」


「え?」


「五つ目だから」


「少なくとも他にも手がかりはある」


「では!」


リペが。


指を折る。


一。


二。


三。


途中。


分からなくなる。


「いっぱいです!」


「計算を諦めるな」


昼過ぎ。


ハルネ村の人々は。


帰り支度を始めた。


でも。


昨日までとは。


少し違う。


子どもたちは。


「また来る!」


と言った。


鍛冶屋は。


「今度はちゃんとした金槌持ってくる」


と言った。


宿屋の主人は。


「森へ来る旅人がいたら」


「エルドに聞いてから案内する」


と言った。


エルドも。


もう。


帰れとは。


言わなかった。


ただ。


「ゴミは持ち帰れ」


と。


何度も言った。


最後。


ミナが。


エルドへ。


手を振る。


「おじいちゃん!」


「次も笛吹いてね!」


「……気が向いたらな」


「約束!」


「してない!」


「じゃあ約束ね!」


「話を聞け!」


ミナは。


笑いながら。


走っていく。


エルドは。


その背中を。


ずっと。


見ていた。


修が。


隣へ立つ。


「寂しいですか?」


「うるさかったから」


「静かになってせいせいする」


ポォン。


森が。


一度。


鳴った。


修が。


笑う。


「森は違うみたいですけど」


エルドが。


木を睨む。


「余計なことを」


ポォン。


「返事してますね」


「黙れ」


でも。


エルドは。


笑っていた。


修は。


記憶樹を見る。


壊れていなかった。


第五の遺産。


だから。


直したのは。


機械ではない。


過去と。


今と。


未来。


その間に。


止まっていた。


流れ。


昔を捨てるのでもなく。


昔へ戻るのでもなく。


受け取って。


そして。


渡す。


それも。


きっと。


修理なのだ。


その夜。


エルドの小屋。


夕食。


リペが。


例のしゃもじで。


スープを飲んでいる。


エルドが尋ねる。


「まだそれ使ってるのか」


「第六の遺産です!」


「普通のしゃもじだ」


「ご主人様と同じこと言いました!」


「誰が見てもそうだ!」


修は。


アルド修理手帳。


第五巻を。


開いていた。


次の目的地。


まだ。


書かれていない。


代わりに。


最後のページ。


小さな地図。


王国の中央。


そこに。


一つ。


見覚えのある印。


修の手が止まる。


「……これ」


リペが。


覗く。


「どこです?」


修は。


地図を見る。


それは。


知らない町ではない。


旅先でもない。


森でも。


山でも。


ない。


自分たちが。


何度も。


帰ってきた場所。


「俺たちの村だ」


「え?」


印は。


村の。


時計台。


その真下。


アルドの文字。


『六つ目を探す前に』


『一度』


『帰れ。』


そして。


その下。


『時計台の地下を』


『開ける時が来た。』


修とリペが。


顔を見合わせる。


第五の遺産を終え。


次に向かうのは。


新しい土地ではなかった。


帰る場所。


異世界リペア工房。


そして。


ずっと。


直し続けてきた。


あの時計台。


旅は。


再び。


故郷へと。


つながった。

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