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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第65話 森に新しい音を


翌朝。


ハルネ村。


渡り鳥亭の前。


修は。


少し困っていた。


「……多くない?」


目の前。


人。


人。


人。


子ども。


大人。


老人。


合わせて。


二十七人。


リペが。


元気よく手を挙げる。


「大盛況です!」


「なんで?」


「宣伝しました!」


「やっぱり」


修が。


額へ手を当てる。


昨日。


村へ戻った修は。


宿の主人へ。


こう頼んだ。


『音の森へ行きたい人がいたら』


『数人だけ』


『声をかけてください』


数人。


のはずだった。


なのに。


二十七人。


しかも。


荷物が多い。


籠。


鍋。


パン。


果物。


楽器。


毛布。


酒樽。


「なんで酒樽まであるんです?」


宿の主人が答える。


「森へ行くなら」


「昼飯くらい」


「ちゃんとした方がいいだろ?」


「これは昼飯の規模じゃないですよ」


村の女性が。


大鍋を持っている。


「スープ作るよ!」


「ありがとうございます」


別の男。


木箱。


「燻製肉もあるぞ!」


「ありがとうございます」


老人。


酒樽。


「酒もある!」


「朝です」


子どもたちは。


走り回っている。


「森!」


「歌う木!」


「見たい!」


リペが。


胸を張る。


「人気観光地です!」


「まだ観光地じゃない」


「今日からです!」


「勝手に開業するな」


その時。


宿の主人が。


修の肩を叩く。


「怖いんだよ」


「え?」


「みんな」


「音の森の話は」


「知ってる」


「でも」


「ずっと」


「近づいちゃいけない場所みたいに」


「なってた」


主人は。


集まった村人を見る。


「本当は」


「気になってたんだ」


「どんな場所なのか」


「昔」


「誰が住んでたのか」


修は。


少し納得した。


誰も。


忘れていたわけではない。


知らなかった。


知る機会が。


なかっただけ。


「じゃあ」


修は言う。


「一つだけ」


「約束してください」


村人たちが。


修を見る。


「勝手に」


「記憶樹の機械へ触らないこと」


「森の物を」


「持ち帰らないこと」


「それと」


少し考える。


「昔の村を」


「面白半分で扱わないこと」


宿の主人が。


頷く。


「分かった」


ほかの人たちも。


頷く。


リペが。


手を挙げる。


「私は?」


「お前が一番守って」


「はい!」


一行は。


音の森へ向かった。


子どもたち。


元気。


大人たち。


荷物。


老人。


酒樽。


そして。


先頭。


リペ。


「こちらです!」


「なんでお前が案内してるの」


「森の専門家です!」


「昨日来たばっかりだろ」


「経験者です!」


「一日でも経験者なのは確かだけど」


森の入口。


風。


木々。


静けさ。


子どもたちが。


急に。


声を小さくする。


「……静か」


「ほんとだ」


「鳥いないね」


修も。


耳を澄ます。


昨日より。


少しだけ。


違う。


ポォン……。


遠く。


一度だけ。


木が鳴った。


村人たちが。


立ち止まる。


「今」


「鳴った?」


修が頷く。


「はい」


「森の木です」


子どもの一人が。


目を輝かせる。


「もう一回!」


「森に頼んで」


「森ー!」


「鳴ってー!」


「素直だな」


リペも。


一緒になって叫ぶ。


「森ー!」


「鳴ってくださーい!」


修が。


二人を見る。


「大声で頼むものなのかな」


ポォン。


「鳴った!」


子どもたちが。


一斉に笑う。


そして。


また。


ポォン。


別の木。


「返事した!」


「こっちも!」


森の中へ。


少しずつ。


音が。


戻っている。


廃村跡。


ミュゼ村。


石壁。


井戸。


古い道。


村人たちが。


足を止める。


騒いでいた子どもたちも。


静かになる。


「ここに」


「人が住んでたんだな」


誰かが言った。


宿の主人が。


古い家の跡を見る。


「ハルネ村と」


「そんなに離れてないのにな」


「何も知らなかった」


その時。


杖の音。


コツ。


コツ。


エルドが。


記憶樹の方から。


歩いてくる。


村人たちが。


少し緊張する。


エルドも。


二十七人を見て。


固まった。


「……」


修が。


小さく頭を下げる。


「すみません」


「数人の予定だったんですが」


エルドが。


リペを見る。


「こいつか」


「はい!」


「なぜ誇る」


宿の主人が。


前へ出る。


「勝手に来て悪かった」


「俺は」


「ハルネ村で宿屋をやってる」


「昔から」


「この森の話は聞いてた」


「でも」


「入ったことはなかった」


エルドは。


黙って聞く。


「今日は」


「見せてもらいたい」


「ここに」


「何があったのか」


しばらく。


沈黙。


エルドは。


村人たちを。


一人ずつ見る。


子ども。


大人。


老人。


そして。


荷物。


「……酒樽まであるのか」


老人が。


胸を張る。


「必要だろ!」


「何にだ」


「交流!」


エルドが。


修を見る。


修も。


首を横に振る。


「俺に聞かないでください」


エルドは。


小さくため息をつく。


そして。


言った。


「好きに見ろ」


村人たちが。


少し驚く。


「ただし」


「壊すな」


「持ち帰るな」


「騒ぎすぎるな」


リペが。


手を挙げる。


「歌は?」


エルドが。


少し考える。


「……小さめなら」


「許可されました!」


「だから大声出すな」


村人たちは。


廃村を歩いた。


古い井戸。


鍛冶場跡。


学校跡。


広場。


「ここ」


「学校だったんですか?」


子どもが尋ねる。


エルドが答える。


「ああ」


「小さい学校だった」


「子どもは?」


「昔は」


「三十人くらいいた」


「多い!」


「お前たちくらい」


子どもたちは。


石の上へ座る。


「何勉強してたの?」


「文字」


「計算」


「森の歩き方」


「森の?」


「ああ」


「どの木が鳴るか」


「どの音が」


「天気を知らせるか」


修が。


振り返る。


「天気?」


エルドが頷く。


「音響樹は」


「風や湿気でも」


「音が変わった」


「村の者は」


「音で」


「明日の天気を読んでいた」


「そんな使い方も……」


記憶樹。


ただの。


思い出の箱ではなかった。


森と。


暮らすための道具。


その一面も。


あった。


次。


鍛冶場跡。


一人の鍛冶屋が。


錆びた炉を見る。


「この形」


「古いけど」


「よくできてるな」


エルドが答える。


「村の鍛冶屋は」


「頑固だった」


「毎朝」


「夜明け前から」


「カンカンうるさかった」


鍛冶屋が笑う。


「うちと同じだ」


そして。


何気なく。


持っていた小さな金槌で。


古い金床を。


軽く叩く。


カン。


その瞬間。


ポォン。


近くの木が。


鳴った。


鍛冶屋が。


驚く。


「俺が?」


修が。


記憶樹の方向を見る。


「たぶん」


もう一度。


カン。


ポォン。


カン。


ポォン。


まるで。


森が。


真似をするように。


音を返す。


子どもたちが。


喜ぶ。


「やって!」


「もう一回!」


鍛冶屋が。


少し照れながら。


カン。


カン。


カン。


ポォン。


ポォン。


ポォン。


エルドが。


その音を聞く。


遠い。


昔。


同じ場所で。


別の金槌が。


鳴っていた。


でも。


今。


聞こえているのは。


昔の鍛冶屋ではない。


ハルネ村の。


今の鍛冶屋。


「……違う音だ」


エルドが。


呟く。


修が尋ねる。


「嫌ですか?」


エルドは。


しばらく。


音を聞く。


「いや」


そして。


小さく笑う。


「こいつの方が」


「下手だ」


鍛冶屋が。


振り返る。


「聞こえてるぞ!」


「本当のことだ!」


笑い声。


その瞬間。


ポォォン……。


今までより。


大きな音。


森の奥まで。


響いていった。


昼。


記憶樹の前。


毛布。


鍋。


パン。


果物。


燻製肉。


そして。


酒樽。


「結局」


「宴会になってない?」


修が呟く。


リペが。


口いっぱいにパンを入れたまま。


頷く。


「宴会です!」


「飲み込んでから喋って」


子どもたちは。


走る。


大人たちは。


食べる。


老人たちは。


昔話。


エルドは。


少し離れた場所。


木の根元へ座っていた。


修が。


スープを持っていく。


「どうぞ」


「……ありがとう」


修も。


隣へ座る。


二人。


しばらく。


人々を見る。


「うるさいな」


エルドが言う。


修が苦笑する。


「帰らせます?」


「いや」


エルドは。


スープを飲む。


「懐かしい」


修は。


何も言わない。


エルドが。


続ける。


「でも」


「同じじゃない」


「昔とは?」


「ああ」


「昔の祭りは」


「もっと音が多かった」


「歌も」


「楽器も」


「もっと上手かった」


「料理も」


「こっちの方が美味い」


「そこは勝ったんですね」


「ああ」


エルドが笑う。


「違うんだな」


「何が?」


「今日の音は」


エルドは。


子どもたちを見る。


「昔の代わりじゃない」


修は。


頷いた。


「はい」


「別の音です」


「……そうか」


エルドが。


長い息を吐く。


「別で」


「いいのか」


修は答える。


「同じにする必要」


「あります?」


「……」


「新しいものが」


「昔と違うのは」


「普通だと思います」


エルドは。


記憶樹を見る。


「昔は」


「違うことが」


「怖かった」


「だから」


「昔の音ばかり」


「鳴らした」


修は。


静かに聞く。


「昔の方が」


「正しいと思った」


「昔の方が」


「楽しかったと思った」


「でも」


エルドは。


今日の人々を見る。


「こいつらは」


「俺の知らない歌を歌って」


「俺の知らない料理を食って」


「俺の知らない話で笑ってる」


「……」


「それでも」


少し。


声が震える。


「楽しそうだ」


修は。


小さく笑った。


「楽しそうですね」


その時。


リペが。


立ち上がった。


「では!」


嫌な予感。


修が。


顔を上げる。


「何する気?」


「歌います!」


「来た」


子どもたちが。


集まる。


「歌う!」


「私も!」


「僕も!」


エルドが。


修を見る。


「止めないのか?」


「一人より」


「被害が分散するかもしれません」


「被害前提なのか」


リペが。


木の根へ立つ。


「それでは!」


「森の歌です!」


修が驚く。


「そんな歌あるの?」


「今作ります!」


「即興!?」


リペが。


歌い始める。


「もーりー♪」


「もーりー♪」


「おーおきなーもーりー♪」


修が。


額を押さえる。


「語彙が少ない」


子どもたちも。


続く。


「きーがー♪」


「いーっぱーい♪」


「それ見たまま!」


さらに。


「パンがおいしいー♪」


「森関係なくなった!」


「スープもおいしいー♪」


「昼飯の歌になってる!」


大人たちが。


笑う。


誰かが。


笛を吹く。


別の誰かが。


手拍子。


パン。


パン。


パン。


鍛冶屋が。


木箱を叩く。


コン。


コン。


酒樽の老人が。


樽を叩く。


ドン。


ドン。


「それ開けるなよ!」


「まだ叩いてるだけだ!」


音。


声。


笑い。


森。


ポォン。


ポォォン。


カラン。


リーン。


木々が。


次々に。


鳴り始める。


修が。


立ち上がる。


森全体。


昨日まで。


沈黙していた。


木々が。


人々の音へ。


返事をしている。


記憶樹。


幹の奥。


ゴ……


小さな。


機械音。


「……!」


修が。


駆け寄る。


手を置く。


【外部音響入力を検知】


【生活音:十分】


【感情反応:十分】


【継続時間:蓄積中】


【新規記憶生成条件:73%】


「七十三……」


リペが。


歌いながら叫ぶ。


「もっと歌えばいいですか!?」


「たぶん量じゃない!」


エルドも。


記憶樹の前へ来る。


「どうなってる?」


「新しい記憶が」


「作られ始めてます」


エルドの顔が。


揺れる。


「今日が」


「記憶になるのか」


「たぶん」


「でも」


修は。


表示を見る。


まだ。


足りない。


【73%】


何が。


必要なのか。


その時。


一人の少女が。


エルドのところへ来た。


小さな。


木の笛。


「おじいちゃん」


エルドが。


ぎこちなく答える。


「……なんだ」


「それ」


少女が指差す。


エルドの胸。


古い木製の笛。


昨日。


ノアの手紙を読む時にも。


机へ置いた。


ずっと。


身につけている笛。


「吹ける?」


エルドが。


固まる。


「……昔はな」


「今は?」


「吹かん」


「なんで?」


子どもの。


真っ直ぐな質問。


エルドは。


答えられない。


少女は言う。


「聞きたい」


「……」


修も。


エルドを見る。


何も言わない。


勧めもしない。


止めもしない。


エルド自身が。


決めること。


長い。


沈黙。


やがて。


エルドは。


胸から笛を外した。


埃を。


服で拭く。


「下手だぞ」


少女が笑う。


「いいよ」


エルドが。


笛を口へ当てる。


息。


最初。


音が出ない。


「……」


もう一度。


フッ。


かすれた音。


少女が。


待っている。


エルドは。


目を閉じた。


そして。


三度目。


♪――


細い。


少し震えた音。


でも。


確かに。


森へ響いた。


エルドの指が。


ゆっくり動く。


古い。


短い旋律。


修は知らない。


ハルネ村の人たちも。


知らない。


でも。


記憶樹だけは。


知っているようだった。


ポォン。


最初の木。


ポォン。


次。


カラン。


リーン。


森全体が。


エルドの笛へ。


応える。


少女が。


小さく笑う。


「きれい」


エルドの指が。


一瞬。


止まりそうになる。


でも。


吹き続けた。


昔。


ミュゼ村で。


吹いていた歌。


ただし。


今日の演奏。


何十年も吹かなかった。


今の。


エルドの音。


演奏が。


終わる。


静寂。


そして。


ゴォォォン……。


記憶樹の奥。


大きな。


低い音。


修が。


幹へ触れる。


【新規記憶生成条件:100%】


【記憶生成開始】


「……!」


内部から。


カチ。


カチ。


歯車。


回転。


しかし。


共鳴軸は。


まだ付いていない。


だから。


森全体の。


本格演奏は始まらない。


代わりに。


記憶樹の内部。


一枚の。


銀色の板が。


ゆっくり形成される。


修。


エルド。


リペ。


村人たち。


全員が。


それを見る。


数分後。


カチッ。


一枚。


新しい。


記憶音板。


表面に。


文字が浮かぶ。


『音の森』


『新しい一日』


エルドの。


目から。


涙が落ちた。


「ミュゼ村じゃ」


「ないんだな」


修が。


音板を見る。


「ああ」


『ミュゼ村』ではない。


ただ。


『音の森』


昔の村を。


復活させたわけではない。


新しい。


今日の記憶。


リペが言う。


「良い名前です!」


「お前が決めたわけじゃないけどな」


「森と気が合います!」


「そうかもな」


そして。


修の前に。


新しい表示。


【記憶樹のオルゴール】


【保存記憶数:1】


ゼロだった。


記憶が。


一つ。


生まれた。


さらに。


【第五の遺産】


【継承条件・第一段階達成】


【新しい記憶を一つ生成する】


【達成】


【次の条件】


文字が。


浮かぶ。


【記憶を保存するだけでは】


【継承とは呼べません】


【一つの記憶を】


【未来へ渡してください】


「未来へ……」


修が。


呟く。


リペが。


新しい記憶音板を見る。


「誰かに」


「聞かせる?」


「たぶん」


でも。


誰に。


どうやって。


その時。


エルドが。


新しい音板を見ながら。


言った。


「修」


「はい」


「共鳴軸」


修が。


エルドを見る。


「あれを」


「戻してくれ」


「……いいんですか?」


「ああ」


エルドは。


古い記憶音板の箱を見る。


「昔の音を」


「全部戻す必要はない」


「最後の日の音も」


「鳴らさなくていい」


そして。


新しい。


銀色の一枚を見る。


「でも」


「今日の音なら」


「森に」


「鳴らしてやりたい」


修は。


少し笑った。


「分かりました」


記憶樹の内部。


共鳴軸。


ノアが作った部品。


修は。


差し込み口へ。


ゆっくり。


入れる。


カチッ。


ぴったり。


【共鳴軸:装着完了】


【森内音響同期:再接続】


【接続数:462/462】


【再生記憶を選択してください】


古い記憶。


箱の中。


数え切れない。


でも。


修が選ぶのは。


一つ。


『音の森』


『新しい一日』


「これで」


「いいですか?」


修が。


エルドを見る。


エルドは。


頷いた。


「ああ」


修が。


機構を動かす。


カチッ。


一瞬。


森が。


静かになる。


そして。


最初に。


聞こえた。


子どもの声。


『もーりー♪』


修が。


顔を覆う。


「そこから!?」


リペが。


大喜び。


「私の歌です!」


続いて。


笑い声。


鍛冶屋の金槌。


カン。


鍋。


子どもの足音。


手拍子。


パン。


パン。


パン。


誰かの。


「スープうまいぞ!」


「そこも保存されたの!?」


そして。


エルドの。


笛。


♪――


その音が。


記憶樹から。


森全体へ。


広がる。


ポォン。


カラン。


リーン。


音響樹が。


それぞれの音で。


今日の記憶を。


遠くへ。


遠くへ。


運んでいく。


音の森。


何十年ぶりかに。


森全体が。


歌っていた。


でも。


それは。


昔の歌ではなかった。


今。


ここにいる。


人たちの歌。


修は。


その音を聞きながら。


思った。


記憶とは。


過去へ戻るために。


あるのではない。


今日。


確かに。


ここにいたことを。


明日へ。


渡すために。


あるのかもしれない。


その時。


記憶樹の奥。


小さな。


隠し扉。


カチッ。


修が。


振り返る。


【第五の遺産】


【継承条件・第二段階】


【開始】


そして。


新しい文章。


【記憶を未来へ渡す者を】


【一人選んでください】


修は。


表示を見つめた。


「一人……?」


第五の遺産。


最後の修理は。


森を鳴らすことでは。


終わらなかった。


次に必要なのは。


この音を。


未来へ持っていく。


誰かだった。

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