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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第63話 最後の住人


「そのオルゴールを」


「直さないでくれ」


森の奥。


巨大な記憶樹の前。


白髪の老人は。


そう言った。


修は。


記憶樹を見る。


【対象:記憶樹のオルゴール】


【第五の遺産】


【損傷率:0%】


【演奏機能:正常】


【記憶保存機能:正常】


【森内音響同期機能:正常】


【保存記憶数:0】


そもそも。


壊れていない。


だから。


修は静かに答えた。


「直しません」


老人が。


目を細める。


「……何?」


「壊れてないので」


「直せません」


「……」


老人は。


しばらく修を見つめる。


リペが横から。


元気よく手を挙げた。


「ご主人様は修理屋です!」


「見れば分かる」


「でも最近!」


「直さないことが多いです!」


「余計な説明しなくていい」


老人の眉が。


少し動く。


「変な修理屋だな」


「最近よく言われます」


修は苦笑した。


「俺は修です」


「こっちはリペ」


「リペです!」


リペが頭を下げる。


ポロッ。


頭が落ちた。


「……」


老人が。


杖を構える。


「魔物か!?」


「違います!」


地面から。


リペの声。


修は頭を拾う。


「すみません」


「たまに外れるんです」


「たまに!?」


「大丈夫です!」


修が。


リペの頭を戻す。


カチッ。


「直りました!」


老人が。


何とも言えない顔をする。


「……本当に変な修理屋だ」


「そこは否定できません」


修は尋ねた。


「あなたの名前を」


「聞いてもいいですか?」


老人は。


少し迷ってから答えた。


「エルド」


「エルドさん」


修は。


周囲の廃村を見る。


「さっき」


「ミュゼ村の最後の住人だと」


「ああ」


エルドは。


記憶樹を見上げた。


「正確には」


「最後まで残った住人だ」


「今もここに住んでいるんですか?」


「森の外れにな」


「小さな小屋がある」


「ここには」


「時々来るだけだ」


エルドの胸。


古い木製の笛。


修は気になったが。


まだ聞かなかった。


「どうして」


「このオルゴールを鳴らしてほしくないんです?」


エルドの顔から。


わずかな柔らかさが消える。


「……帰れ」


「え?」


「森から出ろ」


エルドは背を向ける。


「話すことはない」


「待ってください」


「帰れ」


「でも」


「帰れ!」


鋭い声。


森の中に響いた。


その瞬間。


サァァァ……。


銀色の葉が。


揺れた。


修が顔を上げる。


今。


ほんの少し。


音がした。


普通の。


葉擦れの音。


でも。


すぐに。


消えた。


エルドも。


気づいたようだった。


「……」


何も言わず。


歩き出す。


修は。


追わなかった。


リペが。


小さな声で尋ねる。


「追わないんですか?」


「今はな」


「どうしてです?」


修は。


遠ざかるエルドを見る。


「話したくない人に」


「無理に聞いても」


「たぶん」


「聞きたいことは聞けない」


リペは考える。


「では」


「待ち伏せします?」


「悪化した」


「捕まえます?」


「もっと悪化した」


「お菓子で釣ります!」


「人を動物みたいに言わない」


リペが。


しょんぼりする。


「難しいです」


「普通に話せばいいんだよ」


「普通が一番難しいです!」


「それはちょっと分かるけど」


修は。


もう一度。


記憶樹へ向き直る。


「まず」


「こっちを調べよう」


「はい!」


巨大な幹。


中央の扉。


その前へ立つ。


扉には。


鍵穴がある。


修は。


鞄から。


古い鍵を取り出した。


村で。


捨てられようとしていた鍵。


【製作者:ノア】


【対応錠前との距離:約0メートル】


「間違いないな」


鍵穴へ。


差し込む。


ピッタリ。


「回します!」


「なんでお前が?」


「雰囲気です!」


「俺が持ってるんだけど」


「心で回します!」


「好きにして」


修が。


ゆっくり。


鍵を回す。


カチッ。


扉の奥で。


歯車が動く。


ゴ……


ゴゴゴ……。


巨大な木製扉が。


ゆっくり開いた。


中は。


空洞。


だが。


自然にできた空洞ではない。


記憶樹の内部に。


巨大な機械が。


組み込まれている。


歯車。


弦。


金属管。


木製の円盤。


そして。


中心には。


大きな筒状の装置。


リペが。


目を輝かせる。


「すごいです!」


「ああ」


修も。


思わず見入る。


時計。


オルゴール。


楽器。


その全部を。


一つにしたような構造。


修は。


ゆっくり中へ入った。


「触るなよ」


「はい!」


三秒後。


リペの手が。


歯車へ伸びる。


「触るなって」


「見るだけです!」


「手で見るな」


「危なかったです」


「お前がな」


中央。


一本だけ。


空いている場所。


修は。


鞄から。


黒い金属棒を取り出す。


【対象:音響機構用共鳴軸】


【製作者:ノア】


【対応機構:記憶樹のオルゴール】


「ここか」


差し込み口。


形が一致する。


だが。


修は。


入れなかった。


リペが尋ねる。


「付けないんですか?」


「ああ」


「どうして?」


「これを付けたら」


「何が起きるか分からない」


「壊れてないのに」


「部品が外されてる」


修は。


共鳴軸を見る。


「誰かが」


「わざと外した可能性がある」


「エルドさん?」


「かもしれない」


リペは。


少し考える。


「ご主人様」


「はい」


「成長しましたね」


「またそれ?」


「昔なら」


「すぐ差していた気がします!」


修は。


苦笑する。


「否定できないな」


第四の遺産。


氷時計。


あの経験がなければ。


修は。


迷わず。


共鳴軸を戻していたかもしれない。


部品が外れている。


なら。


戻す。


それが。


修理だと思っていた。


でも。


今は違う。


「外れてるのと」


「外したのは」


「意味が違うからな」


リペが頷く。


「なるほど」


そして。


自分の腕を外した。


ポロッ。


「これは外しました!」


「戻して」


「はい」


カチッ。


修は。


内部を調べる。


壁。


小さな棚。


その奥。


古い。


木製の箱。


「これは……」


開ける。


中には。


無数の。


細い金属板。


一枚一枚。


文字が刻まれている。


『ミュゼ村 春祭り』


『ミュゼ村 収穫祭』


『ミュゼ村 第一学校』


『ミュゼ村 鍛冶場』


『ミュゼ村 結婚式』


『ミュゼ村 子守歌』


『ミュゼ村 朝市』


リペが。


目を丸くする。


「いっぱいあります」


「ああ」


修は。


一枚を手に取る。


【対象:記憶音板】


【損傷率:0%】


【保存内容:ミュゼ村・春祭り】


「記憶……」


保存記憶数。


ゼロ。


なのに。


記憶音板は。


ここにある。


「どういうことだ?」


さらに調べる。


【記憶音板:正常】


【再生可能】


「消えてない?」


リペが言う。


「じゃあ」


「さっきのゼロは何です?」


修は。


オルゴール本体へ触れる。


【保存記憶数:0】


変わらない。


「本体の中には」


「記憶がない」


修は。


箱を見る。


「全部」


「取り出されてるんだ」


誰かが。


オルゴールから。


記憶を消したのではない。


保存された記憶を。


一つずつ。


外へ出した。


だから。


ゼロ。


リペが。


箱を覗く。


「誰が?」


修は答えない。


だが。


思い浮かぶ人物は。


一人しかいなかった。


さらに。


箱の底。


一枚だけ。


他と違う。


黒い。


記憶音板。


文字。


『ミュゼ村 最後の日』


「……」


修の手が止まる。


リペも。


黙る。


【対象:記憶音板】


【損傷率:0%】


【保存内容:ミュゼ村・最後の日】


【再生時間:17分42秒】


修は。


音板を見る。


これを。


再生すれば。


何があったか。


分かるかもしれない。


村が。


なくなった理由。


エルドが。


オルゴールを鳴らしたくない理由。


「ご主人様」


「ああ」


「聞きます?」


修は。


しばらく考えた。


そして。


首を横に振る。


「やめておこう」


「え?」


「これは」


修は。


黒い音板を。


元の場所へ戻す。


「俺たちの記憶じゃない」


「勝手に聞くのは」


「違う気がする」


リペが。


少し考えて。


頷いた。


「はい」


修は箱を閉じる。


「エルドさんに聞こう」


「話してくれますか?」


「分からない」


「でも」


修は言う。


「聞くなら」


「本人から聞きたい」


その時。


リペが。


棚の奥を指差した。


「ご主人様」


「ここ」


小さな。


紙。


いや。


手紙。


古く。


黄ばんでいる。


宛名。


『エルドへ』


差出人。


『ノア』


「……」


修が。


息を止める。


エルド。


ノア。


二人は。


知り合いだった。


手紙は。


封がされたまま。


開かれていない。


修は。


触れる。


【対象:未開封書簡】


【損傷率:6%】


【宛先:エルド】


【差出人:ノア】


【未開封】


リペが尋ねる。


「読みます?」


修は。


即答した。


「読まない」


「ですよね」


「本人に渡そう」


修は。


手紙を大切に。


鞄へ入れる。


外へ出る。


記憶樹の扉を閉じる。


鍵をかける。


共鳴軸は。


まだ戻さない。


記憶音板も。


そのまま。


「まず」


「エルドさんを探そう」


「はい!」


森の外れ。


エルドが言っていた。


小さな小屋。


探すのに。


それほど時間はかからなかった。


煙突。


薪。


小さな畑。


一人で暮らしている。


修が。


扉を叩く。


コンコン。


返事なし。


もう一度。


コンコン。


「エルドさん」


「修です」


「……」


中から。


声。


「帰れと言ったはずだ」


「はい」


「じゃあ帰れ」


「その前に」


修は。


鞄から。


手紙を取り出す。


「渡したい物があります」


沈黙。


「ノアという人から」


ガタン!


中で。


何かが倒れる音。


扉が。


勢いよく開く。


エルドが。


修を見る。


「今」


「何と言った」


修は。


手紙を見せる。


「ノアから」


「あなた宛てです」


エルドの顔から。


血の気が引いた。


「……」


震える手。


手紙へ伸びる。


しかし。


触れる寸前で。


止まる。


「どこにあった」


「記憶樹の中です」


「……入ったのか」


「鍵がありました」


「共鳴軸も」


エルドが。


修を見る。


「付けたのか!?」


「いいえ」


即答。


「付けてません」


エルドの肩から。


少しだけ。


力が抜ける。


「……そうか」


「記憶音板も見つけました」


エルドの表情が。


再び固まる。


「最後の日の音板も」


「聞いたのか」


「いいえ」


「……」


「あなたの記憶だから」


修は言う。


「勝手に聞くのは」


「違うと思いました」


エルドは。


修を見る。


長い。


沈黙。


やがて。


手紙を受け取った。


封。


指で。


何度もなぞる。


「ノア……」


声が。


震えていた。


「知っていたんですね」


「……ああ」


「友人だった」


エルドは。


小さく答えた。


「いや」


少し考える。


「友人というには」


「あいつには」


「世話になりすぎた」


エルドは。


手紙を見る。


「行商人だった」


「春になると」


「この村へ来た」


修は。


マーサの話を思い出す。


また春に。


「物を売って」


「壊れた物を直して」


「余計なことばかりして」


エルドの口元が。


ほんの少し。


緩む。


「金にならない仕事ばかりしていた」


修も。


少し笑う。


「ノア修理記録にも」


「そんなことばかり書いてありました」


エルドが。


驚く。


「持っているのか?」


「はい」


「娘さんから預かりました」


「……娘?」


「マーサさんです」


エルドの目が。


大きくなる。


「マーサ……」


「知ってます?」


「一度だけ」


エルドは言う。


「ノアが」


「小さな娘の話をした」


「六歳になったと」


「……」


修は。


胸が詰まる。


それは。


ノアが帰らなかった年。


「そうか」


エルドは。


目を閉じる。


「娘は」


「生きているのか」


「はい」


「七十四歳です」


「……そうか」


小さな。


笑み。


「あいつより」


「ずっと長生きしたな」


風が吹く。


木々は。


まだ。


鳴らない。


エルドは。


手紙を見る。


「これは」


「いつから」


「そこにあった?」


「分かりません」


「でも」


「未開封でした」


「……」


エルドは。


封を開けようとして。


止まった。


「怖いんですか?」


修が尋ねる。


「……ああ」


正直な答え。


「ノアが死んで」


「何十年だ」


「今さら」


「何を書かれていたのか」


「知るのが怖い」


リペが。


静かに言う。


「読まなくても」


「いいんじゃないですか?」


エルドが。


リペを見る。


「手紙は」


リペは続ける。


「壊れてません」


「だから」


「直さなくていいです」


修が。


少し驚いて。


リペを見る。


リペも。


少し得意そうに。


修を見る。


「成長しました!」


「自分で言うんだ」


エルドが。


ふっ。


と笑った。


初めて。


ちゃんと。


笑った。


「変なゴーレムだ」


「よく言われます!」


「そこ誇るんだ」


エルドは。


しばらく。


手紙を見つめた。


そして。


「……いや」


封を切った。


「読む」


紙を。


ゆっくり開く。


文字を追う。


最初は。


無表情。


だが。


途中。


手が。


震え始める。


最後まで。


読み終える。


エルドは。


何も言わなかった。


ただ。


椅子へ座った。


そして。


長い間。


手紙を見つめる。


修も。


リペも。


待った。


やがて。


エルドが言った。


「修」


「はい」


「お前は」


「第五の遺産を」


「探しているんだったな」


「はい」


「なら」


エルドは。


胸の木製の笛を外した。


机へ置く。


「話してやる」


「ミュゼ村に」


「何があったのか」


修は。


黙って。


椅子へ座る。


リペも。


隣へ座った。


エルドは。


窓の外を見る。


音のない森。


「昔」


「あの森は」


「うるさいくらいだった」


その声には。


ほんの少し。


懐かしさがあった。


「朝になれば」


「木が鳴った」


「昼になれば」


「森全体が歌った」


「祭りの日なんか」


「夜まで眠れなかった」


リペが。


小さく笑う。


「楽しそうです」


「ああ」


エルドも。


笑った。


「楽しかった」


しかし。


すぐに。


笑みが消える。


「だから」


「俺たちは」


「残そうとした」


「何を?」


修が尋ねる。


エルドは答えた。


「全部だ」


「……」


「祭りの音」


「子どもの笑い声」


「鍛冶場の音」


「結婚式」


「子守歌」


「喧嘩」


「泣き声」


「別れ」


「何もかも」


記憶樹のオルゴール。


音を。


記憶として。


保存する遺産。


「最初は」


「それでよかった」


エルドは言う。


「亡くなった人の声を」


「もう一度聞けた」


「昔の祭りを」


「また楽しめた」


「村を出た家族の声も」


「聞けた」


「でも」


エルドの手が。


握られる。


「いつからか」


「みんな」


「今より」


「昔を聞くようになった」


修は。


黙って聞く。


「新しい祭りをやっても」


『昔の方がよかった』


「子どもが新しい歌を歌っても」


『昔の歌の方がいい』


「誰かが村を出ようとすると」


『昔は誰も出なかった』


「記憶が」


エルドは。


苦しそうに言った。


「村を」


「縛り始めた」


修は。


記憶樹を思い出す。


記憶を残す。


一見。


素晴らしいこと。


でも。


残りすぎた記憶は。


今を。


比べるための物になった。


「若い奴から」


「村を出た」


「子どもも減った」


「新しいことを始めようとする奴も」


「いなくなった」


「それでも」


「俺たちは」


「昔の音を鳴らし続けた」


エルドは。


目を閉じる。


「気づいた時には」


「村は」


「記憶しかない場所になっていた」


風。


静かな森。


「最後の日」


「残った住人は」


「十二人だった」


「俺たちは」


「村を捨てることにした」


リペが尋ねる。


「その時の音が」


「黒い板?」


「ああ」


エルドは頷く。


「最後に」


「記憶樹が」


「俺たちの声を記録した」


「みんな」


「別れを言った」


「泣いた」


「笑った」


「また会おうと言った」


そして。


「俺は」


エルドは。


自分の胸を見る。


笛を置いた場所。


「全部の記憶音板を」


「オルゴールから抜いた」


「共鳴軸も外した」


やはり。


意図的だった。


「森を」


「止めたんですね」


「ああ」


「これ以上」


「昔の音が」


「誰かを縛らないように」


エルドは。


修を見る。


「だから」


「鳴らしてほしくない」


「村は」


「もう終わった」


「昔の声まで」


「無理に生かし続ける必要はない」


修は。


第四の遺産を思い出した。


氷時計。


役目を終えたものを。


無理に動かさない。


同じなのか。


でも。


何かが。


違う。


修は尋ねる。


「じゃあ」


「どうして」


「エルドさんは」


「ここに残ったんです?」


エルドが。


止まる。


「……」


「村を終わらせたなら」


「あなたも」


「別の場所へ行けたはずです」


長い沈黙。


エルドは。


窓の外を見る。


「……見張るためだ」


「記憶樹を?」


「ああ」


「誰かが」


「また鳴らさないように」


修は。


エルドを見る。


「本当に?」


「……」


返事はない。


修は。


それ以上。


追及しなかった。


でも。


分かった。


記憶に縛られた村を。


終わらせた。


その本人が。


何十年も。


村のそばから。


離れられていない。


記憶樹は。


止まった。


村人も。


出ていった。


でも。


一人だけ。


時間が。


止まったまま。


修は。


静かに。


ノアの言葉を思い出す。


『壊れたのは』


『オルゴールではない。』


『この森を知る人が』


『いなくなったのだ。』


違う。


一人だけ。


まだいる。


森を。


知る人が。


修は。


エルドを見る。


第五の遺産。


今回。


直すべきものが。


少しだけ。


見えてきた気がした。


オルゴールではない。


森でもない。


過去でもない。


「エルドさん」


「なんだ」


「明日」


修は言った。


「もう一度」


「記憶樹へ行きませんか?」


エルドの顔が。


険しくなる。


「鳴らすつもりか」


「分かりません」


「何?」


「まだ」


「決めてません」


修は正直に答えた。


「でも」


「一つだけ」


「確かめたいことがあります」


「何を」


修は。


机の上。


エルドの木製の笛を見る。


「昔の音じゃなくて」


「今の森に」


「音が残っているのか」


エルドは。


何も答えない。


その時。


リペが。


腰のしゃもじを抜いた。


「私も音を出せます!」


カン!


机を叩いた。


「痛い!」


リペが手を押さえる。


修が呆れる。


「なんで自分が痛がるの」


「机が硬いです!」


「当たり前だよ」


エルドが。


また。


小さく笑った。


音のない森。


その端にある。


小さな小屋。


そこに。


何十年ぶりかの。


笑い声が響いた。


修は。


その音を聞いた。


そして。


思った。


記憶樹が。


本当に残すべきものは。


昔の音だけなのだろうか。


過去を。


鳴らし続けるためではなく。


今を。


未来へ渡すために。


記憶することも。


できるのではないか。


第五の遺産。


記憶樹のオルゴール。


その本当の役目は。


まだ。


終わっていない。

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