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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第61話 旅するリペア工房


村を出て。


一時間。


ガラガラ。


ガラガラ。


修は荷車を押していた。


隣では。


リペが元気よく歩いている。


「ご主人様!」


「なんだ?」


「旅です!」


「そうだな」


「冒険です!」


「そうだな」


「第五の遺産です!」


「そうだな」


リペは。


背中の荷物を叩く。


「そして!」


「第六の遺産です!」


修が振り返る。


リペの荷物から。


木のしゃもじが突き出していた。


「まだ持ってたの?」


「重要物です!」


「普通のしゃもじだよ」


「鑑定しましたか?」


「してないけど」


「では分かりません!」


「……」


修は。


少し考える。


確かに。


古い鍵も。


謎の黒い棒も。


最初は。


ただのガラクタだと思っていた。


「……一応見るか」


「はい!」


リペが。


得意げにしゃもじを差し出す。


修が触れる。


【対象:木製しゃもじ】


【損傷率:2%】


【製作年:約12年前】


【用途:調理】


【特記事項:なし】


「普通のしゃもじ」


「そんな!」


「何を期待してたんだ」


リペが。


しゃもじを見つめる。


「第六の遺産……」


「違う」


「伝説のしゃもじ……」


「違う」


「では」


「お昼に使います!」


「それならいいよ」


用途が。


正しい場所へ戻った。


今回の目的地。


音の森。


ノア修理記録によれば。


第五の遺産。


『記憶樹のオルゴール』


がある。


修たちの村から。


西へ約四十二キロ。


普通なら。


二日ほどの距離。


ただし。


今回は。


荷車がある。


しかも。


中身は。


食料。


工具。


野営道具。


修理済みの中古品。


第五の遺産の鍵。


共鳴軸。


そして。


しゃもじ。


「最後のはいらないよな……」


「何か言いました?」


「いや」


さらに。


今回の旅には。


一つ。


新しい目的がある。


途中の村や町で。


修理済みの物を売る。


壊れた物があれば。


可能な範囲で直す。


言ってしまえば。


移動する。


異世界リペア工房。


ノアが。


かつてやっていたかもしれない。


旅する修理屋。


修は。


少しだけ。


楽しみにしていた。


昼前。


最初の村が見えた。


小さな農村。


人口。


百人ほど。


入口には。


木製の看板。


『ハルネ村』


リペが。


看板を見る。


「ご主人様」


「なんだ?」


「歓迎されてます!」


「どこが?」


「ハルネ!」


「村の名前だよ」


「春ね!」


「そういう意味じゃないと思う」


「春です!」


「今、秋だぞ」


「……」


リペが看板を見る。


「嘘つき村です」


「村に謝れ」


村へ入る。


旅人は。


珍しくないらしい。


農作業中の人たちが。


軽く挨拶をする程度。


修も。


会釈を返す。


広場。


井戸。


小さな宿屋。


雑貨店。


「ここで昼飯にするか」


「はい!」


リペが。


勢いよく荷車を止める。


ガコン。


荷物が揺れる。


「優しく止めて!」


「大丈夫です!」


「第五の遺産の部品入ってるんだぞ!」


「……」


リペが。


急に荷車を撫でる。


「ごめんなさい」


「俺じゃなくて荷物に謝った」


宿屋の前。


修たちは。


パンとスープを注文した。


リペは。


自分の前に。


例のしゃもじを置く。


「使うの?」


「はい!」


スープを。


しゃもじですくう。


ズズッ。


「……」


修が見る。


「どう?」


「飲みにくいです!」


「だろうね」


「伝説にはなれませんでした」


「最初から普通だから」


食事をしていると。


宿屋の主人が。


荷車を見る。


「行商かい?」


修が答える。


「似たようなものです」


「修理屋をやってます」


「修理屋?」


主人の反応が変わる。


「物を直せるのか?」


「見てみないと分かりませんけど」


「ちょっと待っててくれ!」


主人が。


店の奥へ消えた。


しばらくして。


持ってきたのは。


大きな。


木製の看板。


真ん中から。


割れている。


『宿屋 渡り鳥亭』


「昨日」


「風で落ちちまってな」


「新しく作ろうと思ってたんだが」


修が触れる。


【対象:木製看板】


【損傷率:34%】


【中央部亀裂】


【吊り金具変形】


【修理可能】


「直せます」


「本当か?」


「はい」


主人が。


嬉しそうに笑う。


「頼めるか?」


「もちろん」


修は。


工具箱を開いた。


カン。


トントン。


ギュッ。


割れた部分を接合。


裏側から補強。


曲がった金具を直す。


そして。


文字。


長年。


雨風にさらされ。


少し薄くなっている。


主人が尋ねる。


「そこも」


「塗り直せるか?」


「できますけど」


修は看板を見る。


『渡り鳥亭』


文字の周り。


無数の。


細かな傷。


「この傷」


「何です?」


主人が笑う。


「ああ」


「旅人が付けていくんだ」


「旅人が?」


「うちに泊まった奴が」


「また来るって意味で」


「小さく傷を付けていく」


修は。


看板を見る。


よく見ると。


傷は。


一本。


二本ではない。


何十。


何百。


「じゃあ」


「全部塗り直すと」


「ああ」


主人が。


少し困った顔になる。


「それが消えるんだよな」


修は頷く。


「文字だけ」


「直しましょう」


「できるのか?」


「傷を避けて塗れば」


修は。


細い筆を取る。


薄くなった文字だけを。


丁寧になぞる。


傷は。


残す。


旅人たちが。


帰ってくると言った。


その跡。


一時間後。


【修理完了】


【損傷率:0%】


主人が。


看板を持ち上げる。


「……いいな」


文字は。


読める。


でも。


昔の傷も。


全部残っている。


「新品みたいじゃない」


修が言う。


主人が笑う。


「新品じゃ困る」


「こいつは」


「二十七年」


「ここに掛かってるんだから」


修も笑った。


「そうですね」


主人が財布を出す。


「いくらだ?」


修が材料費を計算する。


その時。


リペが。


勢いよく手を挙げた。


「銀貨三枚です!」


「高い!」


主人が固まる。


修も驚く。


「勝手に値段つけない!」


「商売です!」


「ジークに何教わったんだ!」


主人が笑う。


「面白い助手だな」


「すみません」


「いやいや」


結局。


修理代。


銅貨八枚。


そして。


昼食代を。


サービスしてもらった。


リペが。


感動する。


「ご主人様!」


「なんだ?」


「ノアさん方式です!」


修も気づく。


ノア修理記録。


『宿屋の扉』


『修理代:夕食』


「確かに」


修は笑った。


「ちょっと似てきたな」


「商売人失格です!」


「それは似なくていい」


看板を。


再び宿の前へ掛ける。


主人が。


修へ小さな釘を渡した。


「せっかくだ」


「お前も付けていけ」


「え?」


「傷」


看板。


旅人たちが残した。


また来る。


その印。


修は。


少し迷った。


「俺たち」


「今日来たばかりですよ」


「だからだよ」


主人が笑う。


「また来るつもりなら」


「付けていけ」


修は。


釘を受け取る。


看板の端。


小さく。


一本。


傷を付ける。


カリッ。


リペが。


手を挙げる。


「私も!」


「いいぞ」


リペが釘を持つ。


ガリガリガリガリ!


「長い長い!」


「存在感です!」


「他の人の傷消えるだろ!」


主人が腹を抱えて笑った。


出発しようとした時。


主人が言った。


「そうだ」


「修理屋」


「西へ行くんだろ?」


「はい」


「どこまで?」


修は。


少し考える。


第五の遺産のことを。


わざわざ話す必要はない。


「音の森まで」


主人の顔から。


笑みが消えた。


「……音の森?」


修が気づく。


「何か?」


主人は。


少し声を落とした。


「やめた方がいい」


「え?」


「最近」


「あの森」


「おかしいんだ」


リペが。


目を輝かせる。


「魔物ですか!?」


「違う」


「盗賊!」


「違う」


「ドラゴン!」


「違う」


「では何です!?」


主人が。


西を見る。


遠く。


山の麓。


森がある。


「あの森は」


「昔から」


「音の森って呼ばれてる」


「風が吹くと」


「木々が音を鳴らすんだ」


「木が?」


「ああ」


「枝が擦れる音じゃない」


「鐘みたいな」


「笛みたいな」


「不思議な音だ」


修は。


ノア修理記録を思い出す。


第五の遺産。


記憶樹のオルゴール。


「でも」


主人は続ける。


「三日前から」


「音がしない」


「……」


修の表情が変わる。


「森全体が?」


「ああ」


「完全に」


主人が言う。


「風は吹いてる」


「木も揺れてる」


「なのに」


「何も鳴らない」


三日前。


音の森が。


沈黙した。


リペが。


小さな声で言う。


「ご主人様」


「ああ」


修は。


荷車を見る。


そこには。


古い鍵。


そして。


ノアが作った。


共鳴軸。


【対応機構:記憶樹のオルゴール】


修は尋ねる。


「森の中に」


「建物はありますか?」


主人が考える。


「昔は」


「小さな集落があったらしい」


「今は?」


「分からん」


「ほとんど誰も入らない」


「ただ」


主人は。


何かを思い出す。


「森の奥に」


「一本だけ」


「とんでもなく大きな木があるって話は聞いた」


「大きな木?」


「ああ」


「昔の旅人は」


「こう呼んでた」


主人は言う。


「記憶樹」


修とリペが。


顔を見合わせた。


間違いない。


第五の遺産。


すぐそこまで。


来ている。


「今日は」


主人が言う。


「うちに泊まっていけ」


「森に入るなら」


「明るいうちの方がいい」


修は。


空を見る。


まだ。


午後。


進もうと思えば。


進める。


でも。


アルドの言葉が。


頭に浮かぶ。


『急がなくていい。』


『寄り道こそ、旅の宝物だから。』


そして。


第四の遺産で。


学んだこと。


急いで直すことが。


正しいとは限らない。


「そうします」


修は答えた。


「明日の朝」


「出発します」


リペが驚く。


「今日行かないんですか?」


「ああ」


「珍しいです!」


「慎重になったんだよ」


「成長です!」


「お前に言われると微妙だな」


その日の夕方。


修は。


宿の前で。


荷車の商品を広げた。


即席。


移動リペア市。


「修理済み中古品です!」


リペが叫ぶ。


「安いです!」


「使えます!」


「第五の遺産もあります!」


「それは売らない!」


村人が集まってくる。


花瓶。


売れた。


置物。


売れた。


古い眼鏡。


度が合う老人が見つかった。


「見える!」


「よかったです」


そして。


残ったのは。


ほとんど。


第五の遺産関係だけ。


ジークの言った通り。


場所が変われば。


必要な人も変わる。


修は。


少しだけ。


商売の面白さが。


分かった気がした。


夜。


渡り鳥亭。


リペは。


ベッドへ飛び込んだ。


ボフッ。


「柔らかいです!」


「壊すなよ」


「大丈夫です!」


ギシッ。


「今、嫌な音したぞ」


「気のせいです!」


「本当に?」


修は。


窓辺。


ノア修理記録を開く。


地図。


音の森。


記憶樹。


第五の遺産。


ページの端に。


小さな文章がある。


昼間は。


気づかなかった。


『この森では』


『音を聞け。』


『ただし』


『鳴っている音だけを聞くな。』


修は。


眉を寄せる。


次の行。


『鳴らなくなった音にも』


『理由がある。』


「……」


三日前から。


音の森は。


鳴らなくなった。


壊れた?


それとも。


氷時計と同じように。


鳴らないことを。


選んだ?


修は。


手帳を閉じる。


「また」


「簡単には直させてくれなさそうだな」


ベッドから。


リペの声。


「ご主人様」


「起きてたの?」


「はい」


「明日」


「森へ行くんですよね?」


「ああ」


「音がしないんですよね?」


「ああ」


少し沈黙。


そして。


リペが言う。


「私が歌いましょうか?」


修は。


振り返る。


「なんで?」


「静かだと寂しいです!」


「森に頼まれてからにして」


「分かりました!」


数秒。


「ラ~♪」


「もう歌ってる!」


「練習です!」


「寝ろ!」


宿に。


リペの歌声が響く。


音の森は。


静かなまま。


その夜。


修はまだ知らなかった。


第五の遺産。


記憶樹のオルゴールが。


保存していたもの。


それは。


音楽ではない。


人々が。


忘れてしまった。


ある一つの。


「音」だった。

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