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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第59話 ガラクタ市、始めました


翌朝。


異世界リペア工房。


修が扉を開ける。


「……」


閉める。


「ご主人様?」


後ろにいたリペが首をかしげた。


「なんで閉めるんです?」


「ちょっと確認」


修はもう一度。


扉を開ける。


「……」


やっぱり。


いる。


工房の前。


村人。


十七人。


そして。


足元には。


大量の荷物。


鍋。


椅子。


皿。


ランタン。


時計。


農具。


玩具。


謎の木箱。


片方だけの靴。


「……」


修は扉を閉めた。


「夢じゃないな」


「大繁盛です!」


「まだ開店してない」


外から声。


「修ー!」


「壊れ物持ってきたぞー!」


「これも見てくれー!」


「うちにもあった!」


「捨てる予定だったんだ!」


リペが胸を張る。


「宣伝の成果です!」


修が振り返る。


「どれくらい宣伝した?」


「村中です!」


「……」


「さらに!」


「まだあるの?」


「隣村から来た人にも!」


「範囲広げたの!?」


「商売です!」


修は頭を抱えた。


「ジークに変なこと教わったな……」


「褒められました!」


「褒めてない」


結局。


工房の前に。


即席の受付を作った。


修が一つずつ確認する。


「これは?」


「壊れた椅子」


【損傷率:22%】


【修理可能】


「預かります」


次。


「これは?」


「古い鍋」


【損傷率:67%】


【底部腐食】


【修理非推奨】


「これは……」


修は首を振る。


「直せなくはないですけど」


「新しい鍋を買った方が安全です」


持ち主が頷く。


「じゃあ捨てるか」


修は鍋を見る。


「待ってください」


「?」


「取っ手は使えます」


【取っ手:損傷率3%】


「部品として」


「預かってもいいですか?」


「そんな物でいいなら」


「ありがとうございます」


リペが横で。


紙に書く。


『鍋 半分くらい』


修が見る。


「記録が雑」


「分かりやすいです!」


「後で絶対分からなくなる」


次。


「これは?」


「うちの子が使ってた木馬」


小さな木馬。


片脚が折れている。


【損傷率:31%】


【修理可能】


「直せます」


「売れるか?」


「たぶん」


「じゃあ頼む」


次。


「これは?」


「知らん」


「え?」


老人が。


黒い金属の棒を置く。


「納屋にあった」


「何に使う物です?」


「知らん」


「誰の?」


「知らん」


「いつから?」


「知らん」


「……」


リペが言う。


「謎です!」


「そこだけは分かる」


修が触れる。


【対象:不明】


「鑑定でも不明!?」


さらに。


【損傷率:0%】


「しかも壊れてない」


老人が言う。


「じゃあ売れるか?」


「何か分からない物を売るのは怖いです」


「じゃあやる」


「いらないです!」


「遠慮するな」


「遠慮じゃないです!」


結局。


謎の棒も置いていかれた。


昼前。


工房。


「……」


修は。


積み上がった壊れ物を見る。


昨日。


籠一つだった。


今日。


工房の壁一面。


リペが嬉しそうに言う。


「宝の山です!」


「ガラクタの山だよ」


「同じです!」


「まあ」


修は苦笑する。


「ここではそうかもな」


そこへ。


ジークがやってきた。


「おお」


工房を見る。


「増えたな」


修が睨む。


「他人事みたいに言わないでください」


「俺じゃない」


二人が。


リペを見る。


「……」


リペが目を逸らす。


「宣伝担当です」


「誰が任命した」


「私です!」


「自薦だった」


ジークは。


壊れた物を一つずつ見る。


「椅子」


「ランタン」


「皿」


「木馬」


「古時計」


「……悪くない」


「本当に売れるんです?」


修が尋ねる。


「全部は無理だ」


「ですよね」


「だが」


ジークは木馬を持ち上げる。


「例えばこれ」


「新品なら銀貨二枚」


「中古なら銀貨一枚」


「壊れた状態ならほぼ無価値」


「修理して」


「銅貨六枚くらいで売る」


「安くないですか?」


「そこがいい」


ジークが言う。


「新品を買えない家でも」


「子どもに玩具を買える」


修は。


少し考える。


「なるほど」


「それに」


ジークは椅子を指す。


「これも」


「新品を作るより」


「直した方が木材が少なくて済む」


「捨てる物も減る」


修が頷く。


「それはいいですね」


「だろ?」


ジークが笑う。


「ようやく商売に興味が出てきたか?」


「商売というより」


修は壊れ物を見る。


「まだ使える物を」


「捨てなくて済むのがいい」


ジークが肩をすくめる。


「それでもいい」


「結果的に金が回れば商売だ」


午後。


修は。


木馬から直すことにした。


「さて」


「どこが痛い?」


【対象:子ども用木馬】


【損傷率:31%】


【右前脚破損】


【表面劣化】


【修理可能】


折れた脚。


補強。


固定。


表面。


軽く磨く。


ただし。


傷は。


全部消さない。


誰かが遊んだ跡。


そこまで。


新品に戻す必要はない。


一時間後。


【修理完了】


【損傷率:0%】


リペが乗る。


ギシッ。


修が止める。


「降りろ」


「耐久試験です!」


「子ども用!」


「私も小さいです!」


「重いんだよ!」


「失礼です!」


ギシギシギシ。


「壊れる!」


リペが降りる。


「合格です!」


「お前のせいで再修理になるところだったよ」


次。


ランタン。


次。


椅子。


次。


小さな置物。


一つずつ。


直す。


夕方。


工房の前に。


小さな台を出した。


その上に。


修理した物を並べる。


木馬。


ランタン。


椅子。


皿。


置物。


紙。


『修理済み中古品』


その下。


値段。


木馬 銅貨六枚。


ランタン 銅貨四枚。


椅子 銅貨五枚。


皿 銅貨一枚。


リペが。


別の紙を持ってくる。


「できました!」


修が見る。


『ガラクタ王国 本日開国!』


「却下したよね?」


「でも作りました!」


「作る前に聞いて」


ジークが笑う。


「いいじゃねえか」


「目立つぞ」


「店名みたいになるので駄目です」


修は紙を裏返す。


そして。


書く。


『リペア市』


「これでいい」


リペが首をかしげる。


「普通です」


「普通でいいんだよ」


「もっと強そうな名前がいいです!」


「市場に強さはいらない」


最初の客は。


子どもだった。


母親と一緒。


女の子が。


木馬を見る。


「お母さん」


「これ……」


母親が値段を見る。


「銅貨六枚か」


少し迷う。


修が声をかける。


「乗ってみる?」


女の子が。


母親を見る。


母親が頷く。


「いいですよ」


女の子が。


木馬へ乗る。


ゆら。


ゆら。


「……!」


笑顔。


「お母さん!」


「これ欲しい!」


母親が。


木馬を見る。


「でも」


「中古なんですよね?」


「はい」


修は答える。


「誰かが使って」


「壊れて」


「直した物です」


「新品じゃありません」


女の子は。


木馬の首を撫でる。


そこには。


小さな傷が残っている。


「この傷は?」


「前の持ち主が」


「いっぱい遊んだ跡かな」


「……」


女の子は。


少し考えて。


笑った。


「じゃあ」


「この子」


「いっぱい遊んだことあるんだ」


「たぶんね」


「じゃあ」


「遊び方知ってるね!」


修は。


一瞬。


言葉に詰まって。


笑った。


「そうかもな」


母親が。


銅貨六枚を出す。


「いただきます」


「ありがとうございます」


女の子が。


木馬を抱える。


「ありがとう!」


「大事にね!」


「うん!」


最初の一個。


売れた。


リペが。


修の隣で震えている。


「ご主人様」


「どうした?」


「売れました」


「ああ」


「お金です」


「ああ」


「利益です!」


「ジーク化してるな」


ジークが胸を張る。


「いい教育だ」


「余計な教育しないでください」


次。


ランタン。


旅人が買った。


「ちょうど予備が欲しかったんだ」


次。


椅子。


村の老人。


「畑の休憩用にする」


次。


皿。


パン屋。


「店で使う」


気づけば。


夕方には。


半分ほど売れていた。


修は。


売上を数える。


「……」


リペが横から覗く。


「いくらです?」


「銀貨二枚と」


「銅貨十一枚」


「おお!」


リペが両手を上げる。


「お金持ちです!」


「そこまでじゃない」


ジークが言う。


「材料費を引いて」


「仕入れ代を引いて」


「修の工賃を計算して」


「残りが利益だ」


リペが固まる。


「減ります!」


「商売だからな」


「聞きたくありませんでした!」


「現実から逃げるな」


修は。


売れ残った物を見る。


小さな置物。


古い眼鏡。


鍵。


そして。


昨日の。


古い鍵。


【対応する錠前:不明】


これは。


まだ直していない。


修が手に取る。


「これも」


「直してみるか」


ジークが言う。


「鍵だけ?」


「ああ」


「売れないだろ」


「それでも」


修は笑う。


「直せるなら」


「直しておこうかなって」


ジークがため息をつく。


「やっぱり商売人には向いてねえな」


「修理屋なので」


修は。


古い鍵を磨く。


錆を落とす。


歪みを直す。


細かな欠け。


補修。


【損傷率:8% → 0%】


【修理完了】


古びてはいるが。


綺麗な形が戻る。


「よし」


リペが覗く。


「何が開くんでしょう?」


「分からない」


「宝箱です!」


「だといいな」


「金貨いっぱいです!」


「期待しすぎ」


修は。


鍵を。


修理済みの箱へ入れようとした。


その時。


カチッ。


「……?」


鍵が。


微かに震えた。


修が止まる。


「今」


「動いた?」


リペが首をかしげる。


「鍵がですか?」


修が。


もう一度持ち上げる。


反応なし。


「気のせいか」


その時。


机の上。


ノア修理記録。


カチッ。


「……」


修とリペが。


同時に見る。


「ご主人様」


「ああ」


ノア修理記録が。


淡く光っている。


修が。


鍵を近づける。


光が。


少し強くなる。


【詳細鑑定】


【対象:古い鍵】


【損傷率:0%】


【製作年代:約70年前】


【製作者――】


文字が揺れる。


【製作者:ノア】


「……え?」


修が固まる。


リペが叫ぶ。


「ノアさんの鍵です!」


ジークも近づく。


「昨日持ち込まれたやつだろ?」


「はい」


「誰が持ってきた?」


「確か……」


修は思い出す。


昨日。


籠いっぱいの壊れ物を。


工房へ持ってきた女性。


「この村の人です」


修は。


鍵を見る。


ノア。


アルドの弟子。


第五の遺産。


記憶樹のオルゴール。


そして。


約七十年前に作られた。


古い鍵。


さらに。


表示が続く。


【対応錠前との距離】


【約42キロメートル】


「距離まで出た……」


修が呟く。


【方角:西】


三人が。


同時に。


ノア修理記録の地図を見る。


王国西部。


音の森。


第五の遺産。


『記憶樹のオルゴール』


リペが。


ゆっくり。


修を見る。


「ご主人様」


「ああ」


「これ」


「たぶん」


修は鍵を握る。


「第五の遺産の鍵だ」


ジークが。


呆れたように笑った。


「お前の工房」


「向こうから遺産が集まってくるな」


「私もそう思い始めました」


リペが胸を張る。


「宣伝のおかげです!」


修が見る。


「……」


「私のおかげです!」


修は。


否定しようとして。


やめた。


もし。


リペが村中に。


壊れ物を集める話を広めなければ。


この鍵は。


どこかで。


捨てられていたかもしれない。


「今回は」


「そうかもな」


リペが固まる。


「……」


「どうした?」


「褒められました!」


「そんなに珍しい?」


「記念日です!」


「大げさだよ」


ジークが笑う。


修も。


笑った。


そして。


鍵を。


ノア修理記録の上へ置く。


第五の遺産。


音の森。


記憶樹のオルゴール。


行く理由が。


また一つ。


増えた。


でも。


修は。


すぐに旅支度を始めなかった。


工房を見る。


まだ。


壊れた物が。


たくさん残っている。


「あと三日」


「え?」


リペが尋ねる。


「三日だけ」


「このリペア市をやろう」


「それから」


修は。


西を指す。


「音の森へ行く」


リペの目が輝く。


「第五の遺産です!」


「ああ」


「冒険です!」


「ああ」


「お弁当です!」


「そこが一番楽しみなんだろ」


「はい!」


「否定しないんだな」


工房の外。


『リペア市』


小さな看板。


その前を。


木馬を抱えた女の子が。


嬉しそうに走っていく。


捨てられるはずだった物が。


直され。


次の誰かの手へ渡る。


修は。


その姿を見ながら。


ふと思った。


物にも。


旅があるのかもしれない。


作られて。


使われて。


壊れて。


捨てられそうになって。


直されて。


また。


誰かのところへ行く。


そして。


七十年前に作られた。


一本の鍵も。


長い長い寄り道の末。


ようやく。


開けるべき場所へ。


帰ろうとしていた。

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