第5話 修理屋と鍛冶屋
朝。
リペは工房の前をほうきで掃いていた。
「掃除、掃除♪」
ガリッ。
「あ。」
ほうきが石畳に引っ掛かる。
ズシャーーッ!
そのまま顔から地面へ滑っていく。
「ご主人様ぁぁぁ!」
ドンッ!
修は新聞代わりの掲示板を読んでいた。
「……朝の挨拶みたいになってきたな。」
リペの顔を持ち上げる。
「大丈夫?」
「今日も元気です!」
「顔、逆だけど。」
「あっ。」
くるり。
自分で頭を回して元に戻した。
「便利。」
「便利じゃない。」
そんなやり取りをしていると、一人の大男が工房へ入ってきた。
身長は二メートル近い。
腕は丸太のように太い。
腰には巨大なハンマー。
いかにも鍛冶職人という風貌だった。
「ここが修理屋か。」
修は笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ。」
男はカウンターへ一本の剣を置いた。
刃は何度も欠け、柄も割れている。
「……直せるか?」
修は剣を見つめる。
「見てみます。」
両手で包み込む。
「さて、どこが痛い?」
【対象:鉄の剣】
【損傷率:64%】
【修理可能】
景色が流れる。
若い鍛冶屋。
何度も鉄を打つ。
汗を流す。
失敗する。
また打つ。
ようやく完成した一本の剣。
『親父……できたよ。』
景色はそこで終わった。
修は顔を上げる。
「あなたが初めて作った剣ですね。」
鍛冶屋の表情が変わる。
「……なぜ分かる。」
「この剣が教えてくれました。」
鍛冶屋は黙る。
「腕が未熟だった。」
「売り物にもならん。」
「だから捨てようと思った。」
修は首を横に振る。
「捨てるのは、もったいない。」
「この剣。」
「すごく頑張っています。」
鍛冶屋は苦笑する。
「剣が頑張るか。」
「ええ。」
「作った人も。」
修は静かにスキルを発動した。
「修理。」
光が剣を包む。
欠けた刃が戻る。
割れた柄も繋がる。
最後に、刃へ美しい波紋が浮かび上がった。
【品質向上】
【鉄の剣 → 熟練工の剣】
修は思わず笑う。
「また品質が上がった。」
鍛冶屋は剣を抜く。
シュッ。
「……軽い。」
「バランスが違う。」
何度か振る。
目を閉じる。
「まるで。」
「俺が理想としていた剣だ。」
修は少し照れくさそうに笑った。
「この剣は、あなたが頑張った証です。」
「だから、もっと長く使われてほしい。」
鍛冶屋は剣を見つめたまま、小さく笑う。
「修理屋。」
「名前は?」
「森谷修です。」
「俺はガイン。」
「鍛冶屋をやっている。」
二人は握手を交わした。
その瞬間だった。
リペが勢いよく飛び込んでくる。
「ご主人様!」
「大変です!」
「どうした?」
「煙が出ています!」
「どこから?」
「私です!」
「なんで!?」
リペの体からモクモクと白煙が上がる。
「掃除を頑張りすぎました!」
「頑張ると煙出るの!?」
ガインは大笑いした。
「はっはっはっ!」
「面白いゴーレムだ!」
リペは胸を張る。
「ありがとうございます!」
「褒めてないと思うぞ。」
その直後。
プスン。
リペの両足が外れた。
「ご主人様。」
「動けません。」
「今日は足か。」
修は慣れた手つきで工具を取り出す。
「修理。」
カチッ。
ギギッ。
キュイーン。
リペは勢いよく立ち上がる。
「完全復活です!」
すると、頭の中に表示が浮かんだ。
【リペが経験を学習しました】
【新スキル取得】
【自己転倒回避 Lv1】
修は思わず吹き出した。
「今まで無かったのかよ!」
リペは誇らしげに敬礼する。
「次からは転びません!」
一歩踏み出す。
ツルッ。
ズデーン!
「…………。」
「…………。」
修とガインは顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
「Lv1じゃ、まだまだだな。」
工房に、また一つ笑い声が増えた。
そしてガインは帰り際、小さくつぶやく。
「……また来る。」
「今度は客じゃない。」
「友としてな。」
修は笑顔で手を振った。
「いつでもどうぞ。」
リペも元気よく手を振る。
「次までには転ばないようにします!」
その言葉を聞いたガインは、少しだけ空を見上げて笑った。
「……それは期待しないでおく。」




