第4話 時計は止まっても、約束は止まらない
「ご主人様!」
朝一番。
リペが元気よく工房の扉を開ける。
「本日も異常ありません!」
「異常しかない。」
修は机の上に置かれたネジを見つめた。
「そのネジ、どこから出てきた?」
「分かりません!」
「怖いこと言うな!」
修はため息をつきながらネジを引き出しへしまった。
「後で困るやつじゃないことを祈ろう……。」
チリン。
工房のベルが鳴る。
入ってきたのは、白いひげを生やした老人だった。
胸には古びた懐中時計を抱えている。
時計の針は、十二時で止まっていた。
「ここが……修理屋か。」
修は立ち上がる。
「いらっしゃいませ。」
老人は時計をそっと差し出した。
「もう五十年、動かん。」
「修理できますか?」
修は時計を受け取る。
冷たくて、小さな時計だった。
「見てみます。」
両手で包み込む。
「さて……どこが痛い?」
【対象:懐中時計】
【損傷率:91%】
【修理可能】
その瞬間。
景色が流れ込んできた。
若い兵士がいた。
出征の日。
親友が笑いながら時計を渡す。
『また一緒に酒を飲もう。』
『約束だ。』
兵士は時計を握りしめる。
戦争。
別れ。
帰らなかった親友。
時計だけが残った。
景色はそこで終わる。
修は静かに目を開いた。
「……大切な約束だったんですね。」
老人は驚いたように目を見開く。
「どうして、それを……。」
修は微笑むだけだった。
「直しましょう。」
光が時計を包む。
カチ……
カチ……
カチ……
五十年間止まっていた秒針が、小さく動き始める。
老人は震える手で時計を受け取った。
耳を近づける。
「……動いてる。」
その一言だけで十分だった。
目から涙が一筋こぼれる。
「ありがとう。」
「これで、またあいつとの約束を持ち歩ける。」
修は照れくさそうに頭をかく。
「これからも大事にしてください。」
老人は何度も頭を下げ、工房を後にした。
静かな空気が流れる。
リペは目を真っ赤にしていた。
「ご主人様……。」
「うん?」
「私も懐中時計になりたいです。」
「なんで?」
「大切にしていただけるので!」
「いや、お前はそのままで十分大切だから。」
リペは数秒固まる。
「…………。」
「…………。」
突然、顔が真っ赤になった。
「ご、ご主人様に大切と言われました!」
「言ったけど?」
「処理能力を超えました!」
プシューーーッ!!
頭から白い蒸気が噴き出す。
「熱暴走です!」
「そんな機能あったの!?」
リペはその場でクルクルと回り始める。
「うれしいです! うれしいです!」
グルグル。
グルグル。
ゴンッ!!
勢い余って壁に激突。
スポン。
今度は頭だけが転がった。
「ご主人様ー!」
「はいはい。」
修は笑いながら頭を拾い上げる。
「今日三回目。」
「新記録です!」
「更新しなくていい。」
カチッ。
「修理。」
リペの目に再び光が戻る。
「ありがとうございます!」
修は苦笑した。
「そのうち、壊れない方法も覚えような。」
リペは元気よく敬礼する。
「努力します!」
「たぶん!」
「最後が信用できないんだよ。」
工房には、今日も笑い声が響いていた。
そしてその頃。
町では一つの噂が広がり始めていた。
「町外れに、不思議な修理屋がある。」
「壊れた物だけじゃない。」
「思い出まで直してくれるらしい。」




