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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第49話 壊れた暖房炉


町の北側。


黒い煙が、白い空へ立ち上っていた。


「急ぎましょう!」


「分かってる!」


修とリペは雪道を走る。


――正確には。


修は走っていた。


リペは途中から滑っていた。


「ご主人様ー!」


「なんでそうなる!」


「雪の方が速いです!」


「止まれるのか!?」


「考えてませんでした!」


「考えてから滑れ!」


リペは凍った坂道を猛烈な勢いで滑っていく。


その先には――


「危ない!」


大きな雪山。


ズボッ!


リペが頭から突っ込んだ。


両足だけが雪の外へ出ている。


「……」


修は一瞬止まった。


「リペ?」


雪の中から声がする。


「先に行ってください!」


「いや、回収するよ」


修は両足をつかんだ。


「せーの!」


スポンッ!


リペが抜ける。


同時に。


ポロッ。


左足が外れた。


「……」


修の手には左足だけが残った。


リペが雪の上に座り込む。


「ご主人様」


「なんだ?」


「私、雪国と相性が悪いかもしれません」


「今さら気づいたか」


修はその場で左足を取り付けた。


暖房用魔力炉。


そこには既に大勢の人が集まっていた。


「修さん!」


セラが駆け寄ってくる。


「状況は?」


「完全停止です」


建物の中へ入る。


巨大な円筒形の炉。


町の北側、およそ三分の一の区域へ温水を送るための設備だった。


しかし。


今は完全に沈黙している。


配管職人が説明する。


「朝までは動いていた」


「突然、魔力が流れなくなったんだ」


修は炉へ近づく。


表面には霜。


配管の一部は完全に凍結している。


「まず原因を見ます」


手袋を外す。


そして炉へ触れた。


「さて」


「どこが痛い?」


【対象:北区暖房用魔力炉】


【損傷率:61%】


【魔力循環停止】


【内部配管凍結】


【安全装置作動中】


【修理可能】


「壊れてる」


セラが尋ねる。


「直せますか?」


「はい」


人々の表情が明るくなる。


しかし修は続けた。


「ただ」


「直すだけじゃ駄目です」


「え?」


修は炉の設計図を見る。


「この炉」


「寒さに弱すぎます」


配管職人が困惑する。


「暖房炉なのに?」


「暖房炉なのに」


妙な話だった。


しかし理由は簡単。


これまで町の外気温は、氷時計によって一定に保たれていた。


この炉は。


極端な寒さの中で使うことを想定していなかったのだ。


リペが首をかしげる。


「つまり」


「暖房さんが寒くて動けなくなったんですか?」


「そういうこと」


リペは炉へ近づく。


そして優しく撫でる。


「寒かったですね」


「たぶん機械だから気持ちはないと思う」


「氷時計とは話してました!」


「……確かに」


最近。


機械と人間の境界が分からなくなってきた修だった。


「修さん」


配管職人が尋ねる。


「どうする?」


修は考える。


凍結部分を溶かす。


壊れた魔力回路を直す。


それだけなら簡単。


でも。


明日また気温が下がれば。


同じことが起こる。


「この建物」


修が尋ねる。


「余っている部屋はありますか?」


「倉庫が二つある」


「見せてください」


倉庫。


薪。


古い工具。


使われていない魔道具。


そして。


大量の木箱。


修は中を見回した。


「使えそうだな」


セラが首をかしげる。


「何をするんです?」


「炉そのものを暖めます」


「暖房炉を?」


「はい」


リペが笑う。


「暖房の暖房ですね!」


「ややこしいな」


作業開始。


まず炉の周囲へ壁を作る。


大工たちが木材を運ぶ。


配管には藁と布。


さらに断熱用の板。


そして倉庫にあった小型魔力炉を設置する。


「これは?」


「昔使っていた湯沸かし用だ」


「動きます?」


「十年以上使ってないぞ」


修が触れる。


【対象:小型魔力炉】


【損傷率:72%】


「……直せます」


工具箱を開く。


リペが笑う。


「修理屋さんらしくなってきました!」


「最初から修理屋だよ」


一時間後。


小型炉。


修理完了。


さらに二時間。


配管の解凍。


魔力回路の修復。


安全装置の確認。


最後に。


修は巨大な炉へ手を置いた。


「よし」


「起きてくれ」


魔力を流す。


ブォォォォン……。


低い音。


人々が息をのむ。


一つ。


また一つ。


炉の側面にある魔力灯が点灯していく。


そして。


ゴォォォォ……。


配管へ温水が流れ始めた。


「動いた!」


歓声が上がる。


セラが笑顔になる。


「これで北区の暖房が戻ります!」


しかし。


修は炉を見ていた。


「まだです」


「え?」


「ここからが大事」


修は配管職人を見る。


「今度は」


「私がいなくても直せるようにしましょう」


その日の午後。


修は暖房炉を直さなかった。


いや。


正確には。


もう直し終わっている。


代わりに。


配管職人たちへ説明していた。


「この音」


コンコン。


配管を叩く。


「正常です」


別の場所。


コンコン。


「こっちは?」


職人が耳を当てる。


「少し鈍い?」


「正解」


「中に氷が残っています」


職人が驚く。


「音で分かるのか」


「慣れれば」


修は笑う。


「機械って結構しゃべりますよ」


次。


魔力回路。


「ここが青なら正常」


「黄色になったら?」


「魔力不足」


「赤なら?」


リペが勢いよく手を挙げる。


「爆発!」


全員が固まる。


修が訂正する。


「停止してください」


「爆発じゃないんですか?」


「なんで嬉しそうなんだよ」


さらに。


簡単な点検表を作る。


毎朝。


配管温度。


魔力量。


異音。


水圧。


外気温。


「全部確認するんですか?」


「全部」


「面倒だな」


「修理はだいたい面倒です」


昨日と同じ言葉。


でも。


今日は意味が少し違った。


夕方。


北区。


家々の煙突から煙が上がる。


暖房が戻った。


窓には明かり。


子どもたちの声。


修はその景色を見ていた。


隣にはセラ。


「ありがとうございます」


「みんなで直したんですよ」


「それでも」


セラは言う。


「あなたが来なければ」


「私たちは氷時計を動かすことしか考えなかった」


修は少し黙る。


「私も」


「最初はそうだったかもしれません」


「修理屋だから」


「止まってるなら動かす」


「壊れてるなら直す」


それが正しいと思っていた。


でも。


氷時計は。


壊れていなかった。


止まることで。


町を守った。


「修理って」


修が呟く。


「元に戻すことじゃないのかもしれないですね」


セラが修を見る。


「では?」


「次に壊れないようにすること」


少し考える。


「それも修理なのかなって」


その夜。


修は再び氷時計へ向かった。


手を触れる。


【第四の遺産】


【氷時計の役目】


【代替率:24%】


数字が変わる。


【24% → 38%】


「十四%」


昨日より伸びが小さい。


でも。


確実に進んでいる。


【暖房設備:改善】


【保守体制:構築開始】


【住民自立度:上昇】


さらに。


【新規評価項目】


修は表示を見る。


【技術継承率:6%】


「技術継承……」


修は今日の配管職人たちを思い出す。


自分が直すだけではない。


直し方を伝える。


次に壊れた時。


自分がいなくても直せるようにする。


「なるほど」


アルドも。


そうだったのかもしれない。


遺産を残した。


手帳を残した。


そして。


修へ何かを伝えようとしている。


修は時計塔を見上げる。


「アルドさん」


「あなたも」


「誰かに続きを任せたかったんですか?」


カチッ。


氷時計の内部から。


小さな音。


その瞬間。


【記録断片を検出】


「……?」


初めて見る表示。


【第四の遺産内部】


【アルド修理手帳・第四巻】


【アクセス条件未達成】


修の目が見開かれる。


「あるんだ」


第四巻。


この時計の中に。


しかし。


【必要条件】


【代替率:80%】


【技術継承率:50%】


修は苦笑した。


「まだまだだな」


翌朝。


工房――ではなく。


フロストベル臨時修理所。


修が目を覚ますと。


外が騒がしい。


「修さん!」


「修さん!」


扉が叩かれる。


修が開ける。


昨日の配管職人だった。


「どうしました?」


男は興奮している。


「南区の暖房炉が止まった!」


修の顔が強張る。


「また?」


しかし。


男は笑った。


「もう直した!」


「……え?」


「昨日教えてもらった方法で!」


「凍結を見つけて」


「魔力回路も確認して」


「俺たちだけで直した!」


修はしばらく何も言えなかった。


「それを」


「報告しに?」


「ああ!」


男は胸を張る。


「次は呼ばなくていいぞ!」


そう言って走っていった。


修はその背中を見送る。


「……」


後ろからリペが顔を出す。


「ご主人様」


「なんだ?」


「仕事を取られましたね」


修は笑った。


「ああ」


「最高だな」


その瞬間。


遠くの氷時計から。


カチッ。


聞こえるはずのない音が。


なぜか修には聞こえた気がした。


【技術継承率】


【6% → 18%】


修は止まった時計を見上げる。


修理屋がいなくても。


直せる人がいる。


それは。


修理屋にとって――


少し寂しくて。


とても嬉しいことだった。

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