↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/62

第48話 修理屋がいらなくなる日


翌朝。


修が時計管理局へ入ると。


「……なんだこれ」


昨日まで広々としていた会議室が、人でいっぱいになっていた。


大工。


鍛冶職人。


配管職人。


農家。


商人。


宿屋。


パン屋。


さらには子どもまでいる。


そして黒板には――



『フロストベル大修理会議』



大きな文字。


その下に。



『責任者 修』



「聞いてないんですけど」


セラが笑顔で答える。


「今朝、決まりました」


「誰が決めたんです?」


「皆さんです」


「本人不在で?」


「満場一致でした」


「民主的なのに理不尽だな……」



リペが勢いよく手を挙げる。


「はい!」


「何?」


「私は副責任者ですか?」


「違います」


「では責任者代理!」


「違います」


「名誉責任者!」


「責任者から離れて」


町長が笑った。


「まあまあ」


「肩書きはともかく」


「今日は皆から案があるそうじゃ」


「案?」


修が部屋を見る。


大工の男が最初に立ち上がった。


「昨日、あんたが家の隙間を塞いだだろ?」


「はい」


「それを見て思ったんだ」


一枚の板を机へ置く。


「窓を二重にしたら、もっと暖かいんじゃないか?」


修は目を丸くした。


「……なるほど」


外側に一枚。


内側にもう一枚。


間に空間を作る。


前世でいう二重窓に近い。


「試しました?」


「ああ」


大工が胸を張る。


「昨日、自分の家で」


「どうでした?」


「暑くて夜中に暖炉を消した」


「大成功じゃないですか」



次に配管職人。


「俺たちも考えた」


机に小さな木箱を置く。


中には水道管の模型。


その周囲を藁と布。


さらに木の板で覆っている。


「昨日は管に直接巻いただろ?」


「はい」


「だったら」


「その外側まで囲えば、もっと冷えにくい」


修は模型を見る。


「やってみましょう」



農家も手を挙げる。


「こっちもだ」


「倉庫の畑」


「もう作り始めたぞ」


「早いですね!」


「ただ問題がある」


「何です?」


「日が足りん」


修は考える。


建物の中。


当然、日照時間が短い。


すると。


部屋の後ろから声。


「それなんだけど」


魔道具屋の女性が立ち上がった。


「照明用の魔石を使えない?」


修が振り返る。


「植物に?」


「太陽ほどじゃないけど」


「光は出せる」


農家と魔道具屋が顔を見合わせる。


「試すか?」


「やってみよう」



修は黙ってその光景を見る。


昨日は。


修が一つずつ方法を考えていた。


今日は違う。


町の人たちが。


自分たちで考えている。



リペが小声で尋ねる。


「ご主人様」


「なんだ?」


「暇になりました?」


修は笑った。


「かもしれない」



その日の午後。


町全体が動き始めた。


大工たちは家々の窓を二重にする。


配管職人は水道管を覆う箱を作る。


農家と魔道具屋は倉庫へ。


商人たちは薪の在庫を調べる。


宿屋は一階の大部屋を開放した。


「暖炉を一つにまとめれば、薪が節約できる!」


老人たちが集まり始める。


子どもたちも集まる。


いつの間にか。


大部屋ではお茶会が始まっていた。



修はその様子を見ながら呟く。


「……俺」


「ほとんど何もしてないな」


セラが隣で笑った。


「十分していますよ」


「そうですか?」


「きっかけを作りました」


修は少し考える。


「きっかけ」


「はい」


セラは町を見る。


「私たちは二百年以上」


「寒くなったら氷時計が何とかしてくれると思っていました」


「水が凍ることも」


「畑が凍ることも」


「家が寒いことも」


「考える必要がなかったんです」


修は時計塔を見る。


止まった針。


十一時五十七分。


「便利すぎたんですね」


「はい」


セラは少し寂しそうに笑う。


「便利すぎて」


「私たちは寒い土地で暮らす方法を忘れてしまったのかもしれません」



その時。


「修さーん!」


農家が走ってきた。


「来てくれ!」


「何かありました?」


「芽が出た!」


「え?」


二人は倉庫へ向かった。



室内。


木箱が何十個も並んでいる。


土。


水。


暖炉。


そして天井には照明用の魔石。


農家が一つの箱を指差す。


「ここだ!」


土の中央。


ほんの小さな。


緑色。


「……芽」


昨日植えた種。


たった一つだけ。


小さな芽が出ていた。


リペがしゃがみ込む。


「かわいいです!」


農家は目を潤ませている。


「冬でも」


「育つのか……」


魔道具屋が笑う。


「まだ分からないよ」


「芽が出ただけ」


「それでも」


農家は笑った。


「昨日より一歩進んだ」



修はその言葉を聞いて。


少し嬉しくなった。


「そうですね」


時計台と同じ。


一気に直す必要なんてない。


一つずつ。


昨日より一歩。



夕方。


修は氷時計へ向かった。


手を触れる。



【第四の遺産】


【氷時計の役目】


【代替率:7%】



数字が動く。



【7% → 24%】



「おお」


予想以上だった。


さらに。



【水道保護:進行中】


【住居保温:進行中】


【食料生産:試験開始】


【燃料効率:改善】


【住民自立度:上昇】



そして。



【継承条件:進行中】



修は時計塔を見上げる。


「ちゃんと見てるんだな」


カチッ。


内部から小さな音。


返事のようだった。



しかし。


次の瞬間。



【警告】



表示が変わった。



【外気温低下速度:上昇】



修の表情が変わる。



【現在外気温:-28度】


【明朝予測:-34度】



「……まずいな」



翌朝。


予報は当たった。


いや。


予報より悪かった。



修が宿の扉を開けようとする。



「……ん?」



押す。


開かない。


「リペ」


「はい?」


「扉が開かない」


「鍵ですか?」


「いや」


二人で押す。


「せーの!」


「はい!」


グググググ。


動かない。


窓を見る。


外側が完全に凍りついている。


「まさか」


修は嫌な予感がした。



ドンドンドン!



外から声。



「修さん!」


セラだった。


「大変です!」


「町中の扉が凍っています!」


修は扉越しに叫ぶ。


「そっちから開けられます!?」


「無理です!」


「どうやってここまで来たんですか!?」


「二階の窓から出ました!」


「なるほど!」



リペが元気よく手を挙げる。


「ご主人様!」


「何?」


「私に任せてください!」


「嫌な予感がする」


リペは扉の前に立つ。


「壊せば開きます!」


「それは修理屋の解決方法じゃない!」



しかし。


外からセラの声。


「修さん!」


「もっと大変なことがあります!」


修の表情が変わる。


「何です!?」


「町の北側!」


「暖房用の魔力炉が止まりました!」



修とリペが顔を見合わせる。


「……」


「……」


修は工具箱を背負った。


「リペ」


「はい」


「扉」


リペが拳を構える。


「壊しますか?」


修は三秒考えた。



「最小限で」


「はい!」



ドゴン!



扉が吹き飛んだ。



「最小限って言っただろ!」



雪の中へ飛んでいく扉。


リペは胸を張る。


「開きました!」


「帰ったら最初の修理品はうちの扉だからな!」


「はい!」



外へ出る。


そこには。


昨日までとは違う世界が広がっていた。


凍りついた道。


凍った窓。


動かない馬車。


屋根から伸びる巨大な氷柱。



そして。


町の北側から。


黒い煙が上がっている。



修の表情から笑いが消えた。


「行こう」


「はい」



二人は走り出す。



氷時計なしで暮らせる町を作る。



その挑戦は。


まだ始まったばかりだった。



そして修は。


まだ知らなかった。



氷時計が止まった本当の理由が。



単なる寿命だけではなかったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。