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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第47話 町を直すということ


翌朝。


修が宿の扉を開けると。


「……」


目の前に巨大な雪だるまが立っていた。


高さ、およそ三メートル。


丸い胴体。


丸い頭。


木の枝の腕。


石の目。


そして、なぜか立派なヒゲまで付いている。


「……何これ」


雪だるまの後ろから、リペが顔を出した。


「おはようございます!」


「おはよう」


「完成しました!」


「何が?」


「アルドさんです!」


修は雪だるまを見る。


「……アルドさん?」


「はい!」


「会ったことないだろ」


「想像です!」


「だいぶ立派なヒゲだな」


「伝説の職人なので!」


「伝説の職人はヒゲが生えてる決まりなの?」


「たぶん!」


朝から元気だった。



そこへ。


セラがやって来た。


「おはようござい――」


雪だるまを見る。


「……」


修を見る。


「これは?」


「アルドさんらしいです」


「似ていますね」


「似てるの!?」


修が驚いた。


リペは飛び跳ねる。


「やりました!」


「奇跡だろ……」



三人は時計管理局へ向かった。


会議室には、町長をはじめ、十人ほどの人々が集まっていた。


大工。


鍛冶職人。


商人。


農家。


そして時計職人。


修は全員の顔を見る。


「昨日、氷時計を調べました」


室内が静かになる。


「結論から言います」


修は一度息を吸った。


「氷時計は直しません」


ざわっ。


一斉に声が上がる。


「どういうことだ!」


「時計が止まったから寒くなっているんだぞ!」


「このままでは町に住めなくなる!」


町長が手を上げる。


「静かに」


声が止まった。


町長は修を見る。


「理由を聞かせてもらえますかな」


修は頷く。


「氷時計は壊れていません」


「自分で止まりました」


「自分で?」


修は設計図を広げる。


「二百十七年間、氷時計は町の冷気を吸収し続けていました」


「でも、その力を蓄える永久氷晶炉が限界に来ています」


「歯車を戻せば再び動きます」


人々の顔が明るくなる。


しかし。


「四十七日だけです」


空気が変わった。


「その後、氷晶炉が崩壊します」


「最悪の場合」


修は町長を見る。


「町ごと消えます」


誰も言葉を発しなかった。



しばらくして。


一人の男が尋ねた。


「では、どうしろと?」


修は答える。


「氷時計なしでも暮らせる町にします」


「そんなことができるのか?」


「分かりません」


即答だった。


男は目を丸くする。


「分からない?」


「はい」


修は続ける。


「私は町づくりの専門家じゃありません」


「寒冷地の専門家でもない」


「魔力炉の専門家でもない」


リペが隣で頷く。


「ご主人様は修理屋さんです!」


「そういうこと」


修は笑った。


「だから」


「みんなで考えたいんです」



修は黒板へ文字を書く。



『寒い』



「まず」


「何が困っているのか教えてください」


最初に手を挙げたのは農家だった。


「畑だ」


「土が凍り始めてる」


修は書く。



『畑が凍る』



商人が言う。


「水道もだ」


「朝になると水が出ない家が増えてる」


『水が凍る』


大工。


「家の中が寒すぎる」


『家が寒い』


宿屋。


「薪の消費が倍になった」


『燃料不足』


母親。


「子どもが外で遊べない」


修は少し笑った。


『子どもが遊べない』


リペが手を挙げる。


「はい!」


「何?」


「雪だるまは作れます!」


「困ってることを聞いてるんだよ」


「ではありません!」


「座ってて」



黒板いっぱいに問題が並んだ。


修はそれを見る。


巨大な氷時計一つで解決していた問題。


それが今。


全部、町へ戻ってきた。


「なるほど」


町長が尋ねる。


「何か分かったかね?」


「はい」


修は黒板を指差す。


「氷時計がすごすぎたんです」


「……?」


「一台で全部やってた」


気温。


水。


農業。


暖房。


暮らし。


二百年以上。


氷時計が全部面倒を見てくれた。


「だから」


修は言う。


「今度は仕事を分けましょう」



まず。


水道。


修は町の配管職人たちと地下へ潜った。


「ここですね」


水道管が凍っている。


修は触れる。


【対象:水道管】


【損傷率:8%】


【凍結】


「壊れてはいない」


「温めれば戻ります」


しかし。


ただ温めるだけでは、また凍る。


修は配管職人へ尋ねる。


「この町に余っている布ってあります?」


「布?」


「あと藁」


「あるが」


「巻きましょう」


「水道管に?」


「はい」


保温材。


前世では当たり前だった。


しかし。


氷時計が町全体を暖めていたフロストベルには必要なかった。


配管へ藁を巻き。


その上から布。


さらに防水処理。


「これで?」


「完全じゃありません」


修は笑う。


「でも昨日よりはマシです」



次。


家。


大工と一緒に一軒の家へ入る。


「寒いですね」


窓から冷たい風が入っている。


修は手をかざす。


「ここ」


隙間。


「こっちも」


隙間。


リペが床を見る。


「ここも!」


穴。


修が覗く。


「これはネズミの穴だな」


穴からネズミが顔を出した。


リペも顔を近づける。


「こんにちは」


ネズミが逃げる。


「あっ」


リペが追いかける。


「友達になりましょう!」


「仕事して」



窓の隙間を埋める。


扉の隙間も塞ぐ。


厚いカーテン。


床には敷物。


たったそれだけ。


でも。


「……暖かい」


家主が驚いた。


「暖炉の火は同じなのに」


修は頷く。


「暖めるだけじゃなくて」


「暖かさを逃がさないようにしたんです」


大工が腕を組む。


「なるほど」


「これなら他の家でもできる」


「お願いします」



次。


畑。


これは難しかった。


一面。


カチカチ。


修は土へ触れる。


【対象:農地】


【損傷なし】


「ですよね」


リペが尋ねる。


「直せませんか?」


「壊れてないからな」


農家が肩を落とす。


「もう作物は無理か……」


修は考える。


その時。


視界の端に、小さな建物が見えた。


「これは?」


「倉庫だ」


中へ入る。


広い。


窓もある。


修は天井を見る。


そして。


「ここで育てたら?」


農家が首をかしげる。


「倉庫で?」


「全部は無理です」


「でも」


「寒さに弱い作物だけでも」


修は地面に簡単な図を描く。


箱。


土。


水。


そして暖炉。


「小さな畑を建物の中に作る」


農家はしばらく図を見る。


「そんな方法……」


「やったことありません?」


「ない」


「じゃあ」


修は笑った。


「試してみましょう」



夕方。


管理局へ戻る。


黒板を見る。


『水が凍る』


横に小さく。



『保温する』



『家が寒い』


『隙間を塞ぐ』



『畑が凍る』


『屋内で育ててみる』



まだまだ問題は残っている。


でも。


一つずつ。


対策が書き込まれ始めていた。


町長が黒板を見る。


「不思議じゃな」


「何がです?」


「氷時計を直すより」


「ずっと面倒なことをしている」


修は笑った。


「修理って」


「だいたい面倒なんですよ」


リペも胸を張る。


「私も毎回大変です!」


「お前はもう少し壊れない努力をしてくれ」


「努力します!」


その瞬間。


ポロッ。


右手が落ちた。


「……」


リペが右手を見る。


修も見る。


町長も見る。


「明日から努力します!」


「今日からやって」



夜。


修は一人で氷時計へ向かった。


巨大な時計塔。


針は十一時五十七分で止まっている。


「今日は」


修が氷時計へ話しかける。


「水道を直したよ」


返事はない。


「家も少し暖かくなった」


静かなまま。


「畑は……」


修は苦笑する。


「正直、まだ分からない」


冷たい風が吹く。


「君が二百十七年やってきたこと」


「一日や二日じゃ代われないな」


時計塔へ手を当てる。


「でも」


「少しずつやるよ」


その時。



カチッ。



内部から音がした。


修は顔を上げる。


時計の針は動いていない。


しかし。


目の前に表示が現れた。



【第四の遺産】


【継承条件を確認中】



「継承?」


初めて見る言葉だった。


続いて。



【氷時計の役目】


【代替率:7%】



修は目を見開いた。


「……なるほど」


氷時計が担っていた仕事を。


町の人々が自分たちで担えるようになる。


それが――


今回の修復条件。



【目標代替率:80%】



「八十……」


修は苦笑した。


「先は長いな」


すると。



【現在:7%】



「分かってるよ」


なぜか急かされた気がした。



翌朝。


修が宿から出る。


昨日作った巨大なアルド雪だるま。


その隣に。


もう一体増えていた。


小さな雪だるま。


さらに。


その隣にも。


さらに。


さらに。


広場を見る。


「……」


雪だるま。


雪だるま。


雪だるま。


ざっと三十体。


町の子どもたちが集まっている。


中央にはリペ。


「ご主人様!」


「見てください!」


「増えました!」


「何があった?」


「町のみんなで作りました!」


子どもが叫ぶ。


「修理屋さんも作ろう!」


別の子も雪玉を持ってくる。


「こっち!」


修は昨日の黒板を思い出す。



『子どもが遊べない』



思わず笑った。


「……これも」


「一個直ったのかな」


リペが首をかしげる。


「何がですか?」


「こっちの話」


修は手袋をはめ直した。


「よし」


雪玉を持つ。


「一個作るか」


「はい!」


その日。


フロストベルの広場には。


三十一体目の雪だるまが加わった。



氷時計は動かない。



けれど。


時計が止まってから初めて。



町の時間は――



少しだけ。



前へ進み始めていた。

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