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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第45話 夏の日に届いた氷


「……とりあえず、話だけ聞きます。」


修は工具箱を開いた。


目の前には、昨日の騒動の原因となったものとよく似た紫色のキノコ。


そして、それを持ってきた老婆。


リペは修の後ろから、警戒するようにキノコを見つめている。


「ご主人様。」


「なんだ?」


「昨日の敵です。」


「キノコに罪はない。」


「でも樽が走りました。」


「走ったのは樽だ。」


「では樽が敵です。」


「敵を作らなくていい。」



老婆はケラケラ笑った。


「面白い助手さんだねぇ。」


「リペです!」


「そうかい、そうかい。」


老婆は持っていた籠を作業台へ置いた。


その中には紫色のキノコと、小さな金属製の箱が入っている。


「壊れたのはキノコじゃないよ。」


「こっちさ。」


修は箱を手に取った。


手のひらほどの大きさ。


側面には小さな穴。


上部には蓋。


そして、中には細かな網が張られている。


「これは?」


「乾燥器。」


老婆は答えた。


「薬草やキノコを乾かす魔道具さ。」


修は納得した。


「なるほど。」


リペも納得したように頷く。


「では昨日のキノコも乾かせば安全だったんですね!」


老婆は首を振る。


「いや。」


「あれは乾かすと爆発するよ。」


「危なっ!」


修とリペが同時に叫んだ。



修は紫色のキノコを指差す。


「これ、何なんですか?」


「爆ぜ茸。」


「名前からして駄目じゃないですか!」


「発酵するとガスを出して、乾燥すると破裂する。」


「何に使うんです?」


「薬。」


「薬!?」


「量を間違えなければね。」


老婆は平然としている。


修は昨日の樽を思い出した。


「……ボルクさん。」


「大量に入れてたな。」


「生きててよかったですね。」


「本当にな。」



気を取り直す。


修は乾燥器へ手を添えた。


「さて。」


「どこが痛い?」


【対象:薬草乾燥器】


【損傷率:37%】


【魔力循環部に異常】


【修理可能】


「これなら普通に直せる。」


リペが胸を撫で下ろす。


「良かったです。」


「ただし。」


修は老婆を見る。


「修理中、爆ぜ茸は外へ置いてください。」


「分かったよ。」


「できれば遠くへ。」


「はいはい。」


「もっと遠く。」


「心配性だねぇ。」


「昨日、樽を追いかけ回したので。」



修理自体は一時間ほどで終わった。


魔力を通す細い金属線が一本切れていただけだった。


修は線をつなぎ直し、魔力石の位置を調整する。


「これで。」


スイッチを入れる。


ブォン。


温かい風が箱の中を循環する。


老婆は満足そうに頷いた。


「助かったよ。」


「まだまだ使えます。」


「ありがとね。」


老婆は代金を置いて帰っていった。


もちろん。


爆ぜ茸も持って。


修とリペは扉の前で見送る。


「……。」


「……。」


老婆が角を曲がる。


修は呟いた。


「もう戻ってこないでほしいな。」


リペが驚く。


「ご主人様が依頼を拒否しました!」


「キノコだけな。」



昼。


久しぶりに静かな工房。


修は椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「平和だ。」


リペも隣でお菓子を食べる。


「平和ですね。」


「こういう日もいい。」


「はい。」


コンコン。


二人が扉を見る。


「……。」


修が立ち上がる。


「どうぞ。」


入ってきたのは郵便配達の青年だった。


「修さん宛てです。」


「荷物?」


「はい。」


青年が外を指差す。


「ただ……。」


「ちょっと変わった荷物でして。」



工房の前。


大きな木箱が置かれていた。


そして。


箱の周囲だけ――


白い霜が降りている。


「冷たいです!」


リペが触ろうとする。


修が止める。


「待った。」


昨日の経験がある。


まず確認。


「送り主は?」


配達員が伝票を見る。


「フロストベル。」


修の表情が変わった。


「……フロストベル?」


リペも目を丸くする。


「雪だるまの町!」


「まだ雪だるまの町とは決まってない。」


「かまくらの町!」


「それも決まってない。」



修は伝票を受け取る。


送り主。


フロストベル時計管理局


荷物の種類。


修理依頼品


そして備考欄。


『決して温めないでください』


修は箱を見る。


「……嫌な予感がする。」


リペも頷く。


「昨日も似たようなこと言いましたね。」


「最近、普通の椅子とか来ないな。」



工房へ運び込む。


箱を慎重に開ける。


冷気が溢れ出した。


「寒っ!」


リペが震える。


中には布に包まれた何か。


修がゆっくり布を外す。


現れたのは――


透明な歯車だった。


「氷……?」


しかし溶けない。


触れてみる。


冷たい。


けれど普通の氷とは違う。


中心には、小さな歯車の紋章。


修には見覚えがあった。


「アルド。」


リペが息をのむ。


「第四の遺産ですか?」


「たぶん。」



箱の底に手紙が入っていた。


修は封を開ける。


『異世界リペア工房 修様』


『突然の依頼をお許しください。』


『我々の町には、二百年以上動き続けてきた氷時計があります。』


『しかし三日前、時計の針が止まりました。』


修の表情が真剣になる。


続きを読む。


『同時に、町の気温が下がり始めています。』


『原因は分かりません。』


『時計職人たちも修理を試みましたが、内部へ入ることすらできませんでした。』


そして最後。


『この歯車が、突然時計から外れました。』


『その表面に、一つの名前が浮かび上がったのです。』


修は透明な歯車を見る。


冷気の中。


表面に文字が浮かんでくる。


『修』


「……俺?」


リペも驚いている。


「ご主人様の名前です!」


修は歯車へ手を添えた。


その瞬間。


【対象:永久氷晶歯車】


【第四の遺産との接続を確認】


【製作者:アルド】


そして。


今までにない表示。


【伝言を受信】


修は息をのむ。


文字がゆっくり現れる。


『これを読んでいる職人へ。』


『氷時計を直してはいけない。』


「……え?」


リペも表示を覗き込む。


「直してはいけない?」


さらに文字が続く。


『もし氷時計が止まったのなら――』


一瞬。


歯車が強く輝いた。


『それは、止まるべき時が来たということだ。』


表示が消えた。


工房に静寂が訪れる。


修は透明な歯車を見つめた。


「止まるべき時……。」


これまでとは違う。


時計台。


風時計。


帰港の鐘。


どれも「もう一度動かす」ための修理だった。


しかし今回は。


アルド本人が――


直すな


と言っている。


リペが不安そうに尋ねる。


「ご主人様。」


「どうしますか?」


修はしばらく考えた。


そして。


工具箱を閉じた。


「行こう。」


「フロストベルへ。」


「でも、直したら駄目なんですよね?」


「ああ。」


修は透明な歯車を箱へ戻す。


「だから。」


「何を直すべきなのか。」


「それを見つけに行く。」


リペは笑顔になる。


「はい!」


そしてすぐに走り出した。


「防寒着!」


「手袋!」


「帽子!」


「おやつ!」


修が止める。


「待て。」


リペが振り返る。


「はい?」


「まだ今日出発しない。」


「え?」


「準備してから。」


「では明日!」


「早い。」


「雪だるまが待っています!」


「遺産だろ。」



その夜。


修は工房の窓から時計台を見上げた。


止まった時計。


そして。


遠い北の町にも、止まった時計がある。


修はアルド修理手帳を開く。


第二巻。


『急がなくていい。寄り道こそ、旅の宝物だから。』


第三巻。


『私は、帰る場所を直す職人でありたい。』


修は静かに呟いた。


「アルドさん。」


「修理屋なのに。」


「どうして直すなって言ったんですか?」


答えはない。


ただ。


机の上に置かれた氷の歯車が、月明かりを受けて静かに輝いていた。


翌朝。


異世界リペア工房の扉には、一枚の札が掛けられた。


『しばらく出張します』


その下。


リペが勝手に一行追加していた。


『雪だるまを作ってきます』


修は無言でそれを見る。


「……。」


消そうとして。


少し考える。


そのままにした。


「まあ。」


「一個くらい作るか。」


こうして二人は――


第四の遺産。


『氷時計』


その謎を解くため。


白銀の町フロストベルへ向かうことになった。

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