↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者: 森


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/117

第44話 絶対に開けてはいけない樽


ドンドンドン!


工房の床で、巨大な木の樽が跳ねていた。


「……。」


修は樽を見る。


リペも樽を見る。


農夫も樽を見る。


ドン!


樽が十センチほど浮いた。


リペが修の後ろへ隠れる。


「ご主人様。」


「なんだ?」


「帰ってもいいですか?」


「ここがお前の家だ。」


「あっ。」


ドンドンドン!


樽がさらに激しく跳ねる。


「では引っ越します!」


「早いな!」


⸻


農夫の名前はボルク。


町外れで畑を営んでいるらしい。


修はとりあえず樽から三メートル離れて話を聞くことにした。


「それで。」


「これは何ですか?」


ボルクは困った顔をする。


「漬物樽です。」


「……漬物?」


「はい。」


修は樽を見る。


ドン!


「本当に?」


「昨日までは。」


「今日から何になったんです?」


「分かりません。」


「でしょうね。」


⸻


話によると。


ボルクは毎年この季節になると、畑で採れた野菜を塩漬けにする。


この樽も祖父の代から使っている、ごく普通の漬物樽。


昨日の夜。


いつものように野菜を入れ。


塩を入れ。


蓋を閉めた。


そして今朝。


ドン!


「こうなってました。」


修は腕を組む。


「何か変わったもの入れませんでした?」


「入れてません。」


「本当に?」


「たぶん。」


「たぶん?」


ボルクは視線を逸らした。


修の目が細くなる。


「何を入れました?」


「いや……。」


「怒らないので。」


「紫色のキノコを少々。」


「それだろ!」


⸻


リペが樽へ近づく。


「中を見れば分かります!」


「待て。」


修が止める。


「でも。」


「開ければ原因が――」


樽に手を掛ける。


その瞬間。


【警告】


【開封非推奨】


修の目の前に表示が出た。


「リペ。」


「はい?」


「絶対に開けるな。」


「分かりました!」


素直に手を離す。


修は少し安心した。


リペも成長したものだ。


三秒後。


「ちょっとだけなら。」


「なんでだよ!」


⸻


修は樽へ手を触れる。


「さて。」


「どこが痛い?」


【対象:発酵樽】


【損傷率:3%】


「ほぼ壊れてない。」


さらに表示が続く。


【内部圧力:危険】


【原因:異常発酵】


【推奨:刺激しない】


ドン!


樽が跳ねた。


修は手を離す。


「なるほど。」


「何が分かったんですか?」


「修理する必要がない。」


ボルクが驚く。


「では、どうすれば?」


修は樽を見る。


「安全にガスを抜けばいい。」


リペが手を挙げる。


「私に任せてください!」


「何する気?」


「蓋を開けます!」


「話聞いてた?」


⸻


工房の外へ移動した。


万が一に備えて、広場の端。


町長。


ガイン。


ルナ。


なぜか町の子どもたちまで集まってきた。


「何するの?」


「樽が爆発するらしいぞ!」


「爆発はさせない!」


修が訂正する。


町長が尋ねる。


「危なくないのか?」


「少しずつ圧力を抜けば大丈夫です。」


修は樽に細い器具を取り付ける。


小さな穴を開ける。


プシュ――。


ガスが抜け始めた。


「よし。」


リペが感心する。


「さすがご主人様!」


プシュ――。


順調。


プシュ――。


「これなら――」


ポン。


器具が飛んだ。


修の頬をかすめる。


「……。」


全員が黙った。


樽から。


プシュウウウウウウウ!


猛烈な勢いでガスが噴き出した。


「逃げろ!」


広場が大混乱になる。


⸻


樽が動き始めた。


ガスの勢いで。


ズズズズズ。


「動いてます!」


「見れば分かる!」


ズズズズ。


ゴロゴロゴロ!


樽が転がり始める。


「待て!」


修とリペが追いかける。


町長も走る。


ガインも走る。


なぜか子どもたちは大喜び。


「樽レースだ!」


「頑張れー!」


「応援するな!」


⸻


ゴロゴロゴロ!


樽は広場を一周。


パン屋の前を通過。


「何!?」


八百屋の前を通過。


「うちの野菜!」


教会の前を通過。


神父が静かに見送る。


「……神よ。」


そして。


時計台へ一直線。


修の顔色が変わる。


「まずい!」


せっかく59%まで直した時計台へ――


ドン!


……とはならなかった。


直前でリペが飛び込んだ。


「止まりなさーい!」


樽を正面から受け止める。


「リペ!」


ズザザザザザ!


リペの足が地面を削る。


しかし。


止まった。


「おお!」


町の人々から拍手。


リペは得意げに笑う。


「どうです!」


修も笑顔になる。


「よくやった!」


「はい!」


ポロッ。


両腕が外れた。


「腕ーーー!」


樽が再び転がり始める。


「止めろーーー!」


⸻


最終的に。


ガインが巨大な網を投げ。


町長が縄を引き。


修が樽を押さえ。


ルナがなぜか鍋を持って参戦し。


町の人総出で樽を止めた。


そして。


十分後。


プシュ……。


最後のガスが抜ける。


静寂。


修は地面に大の字になった。


「疲れた……。」


リペも隣に転がっている。


腕はまだ外れたまま。


「大仕事でしたね。」


「修理してないけどな。」


⸻


ようやく樽を開ける。


中には。


紫色に染まった野菜。


全員が覗き込む。


「……。」


ボルクが一本取り出した。


「食べられますかね?」


修は即答した。


「やめましょう。」


「ですよね。」


町長も頷いた。


「畑に埋めるか。」


修が止める。


「それも何が起こるか分からないのでやめましょう。」


「ではどうする?」


「専門家に聞きましょう。」


全員が深く頷いた。


異世界でも。


分からないものは専門家へ。


大事なことである。


⸻


翌日。


ボルクが工房へやって来た。


「昨日はありがとうございました。」


「樽は?」


「普通の漬物に戻しました。」


「キノコは?」


「もう入れません。」


「それがいいです。」


ボルクは修理代を置く。


そして。


小さな壺を差し出した。


「お礼です。」


「何です?」


「漬物です。」


修とリペが固まる。


ボルクが慌てる。


「普通のです!」


「本当に?」


「キノコ入ってません!」


修は恐る恐る受け取った。


「ありがとうございます。」


⸻


昼。


二人で漬物を食べる。


ポリッ。


修の目が少し開く。


「……うまい。」


リペも食べる。


「美味しいです!」


ポリポリ。


「これなら普通に売れるのに。」


ポリポリ。


「なんでキノコ入れたんだろうな。」


ポリポリ。


「挑戦する心は大切です!」


「昨日の惨事を綺麗にまとめるな。」


⸻


その日の夕方。


修は工房の壁に、新しい紙を貼った。


『異世界リペア工房からのお願い』


一、壊れた物は歓迎します。


二、大切な物は丁寧に直します。


三、正体不明の魔物はお断りします。


四、異常発酵した物もお断りします。


五、紫色のキノコを入れた場合は、最初に申告してください。


リペが読む。


「完璧ですね。」


修も頷く。


「これで安心だ。」


コンコン。


扉が鳴った。


「どうぞ。」


入ってきたのは一人の老婆。


手には――


紫色のキノコ。


「これを使った魔道具が壊れてしまってねぇ。」


修とリペは顔を見合わせる。


「……。」


「……。」


修は壁の張り紙を見る。


リペも見る。


そして。


修は静かに一行を書き足した。


六、紫色のキノコそのものも、できればご遠慮ください。


老婆が首をかしげる。


「駄目かい?」


修は工具箱を開いた。


「……とりあえず、話だけ聞きます。」


結局。


断れないのである。


異世界リペア工房は今日も、


平和に営業中だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。