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『異世界リペア工房 ~ハズレスキル「鑑定・修理」でガラクタも人生も直します~』  作者:


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第42話 帰る場所


ベルマーレを出発して三日目。


見慣れた丘を越えると――


「あっ!」


リペが指を差した。


遠くに、小さな町が見える。


そして。


町の中央には、あの時計台。


針はまだ止まっている。


鐘も鳴らない。


それでも修には、不思議と以前より立派に見えた。


「帰ってきたな。」


リペは大きく手を振った。


「ただいまー!」


まだ町までかなり距離がある。


修は笑った。


「ここからじゃ聞こえないよ。」


「気持ちです!」


「なるほど。」


二人は歩き出した。


自分たちの帰る場所へ。



町の入口。


最初に二人を見つけたのは子どもたちだった。


「あ!」


「修理屋さんだ!」


「リペさんもいる!」


子どもたちが一斉に走ってくる。


「おかえり!」


「どこ行ってたの?」


「海見た?」


「魚いた?」


質問攻めだった。


リペは胸を張る。


「海底まで見てきました!」


「すげー!」


「泳いだの!?」


「沈みました!」


「すげー!」


修は苦笑した。


「そこは尊敬しなくていい。」



工房の前。


町長。


ガイン。


ルナ。


三人が待っていた。


町長が笑う。


「おかえり。」


修は少しだけ足を止めた。


ベルマーレで何度も聞いた言葉。


けれど。


自分に向けられると、こんなにも温かい。


修は笑顔で答えた。


「ただいま。」


リペも両手を上げる。


「ただいまです!」


ガインが修の荷物を受け取った。


「長かったな。」


ルナはリペを抱きしめる。


「無事でよかった。」


「はい!」


ぎゅっ。


ポロッ。


リペの頭が落ちた。


ルナの腕の中には胴体だけが残る。


「きゃあああ!」


地面からリペの声。


「大丈夫です!」


修は頭を拾い上げた。


「帰ってきて早々これか。」


「安心しました?」


「ある意味な。」



異世界リペア工房。


ギィ……。


久しぶりに扉を開ける。


作業台。


工具棚。


依頼品を置く棚。


窓際の椅子。


何も変わっていない。


リペは工房の真ん中へ走る。


「我が家です!」


修もゆっくり中へ入った。


木の匂い。


鉄の匂い。


油の匂い。


「やっぱり。」


「ここが一番落ち着くな。」



しかし。


作業台を見る。


そこには――


修理依頼の品が山積みになっていた。


「……。」


修は固まった。


壊れた椅子。


鍋。


ランタン。


おもちゃ。


農具。


謎の木箱。


なぜか片方だけの靴。


リペも固まる。


「……人気店ですね。」


ガインが笑う。


「留守の間に預かっといた。」


「全部?」


「全部。」


修は山を見る。


「何件ある?」


ルナが紙を見る。


「二十七件です。」


「二十七……。」


リペが拳を握る。


「頑張りましょう!」


「そうだな。」


「明日から。」


「今日は休むんですね。」


「休む。」


旅を終えた日に二十七件修理するほど、修は働き者ではなかった。



その夜。


みんなで食卓を囲んだ。


ベルマーレの話。


帰港の鐘。


ルカ。


マリア。


シーラ。


リペが海底へ沈んだ話。


「本当に沈んだのか?」


ガインが大笑いする。


「綺麗に沈みました!」


「自慢するな。」


町長はアルド修理手帳第三巻を興味深そうに見ていた。


「また見つけたんじゃな。」


「はい。」


修は手帳を開く。


「そして。」


時計台の設計図を広げた。


町長の表情が変わる。


「これは……。」


「時計台の内部です。」


修は振り子の部分を指差す。


「ベルマーレの鐘から見つかった設計図と、この手帳。」


「二つを合わせて分かったことがあります。」


全員が身を乗り出す。


「時計台は。」


修は静かに言った。


「鐘の音を使って、時間を調整する仕組みになっています。」


ガインが首をかしげる。


「鐘で時計を?」


「普通の鐘じゃない。」


「アルドさんが作った鐘です。」


時計台。


風時計。


帰港の鐘。


それぞれ別の場所に残された遺産。


しかし。


すべてが少しずつ、時計台につながっている。


ルナが呟く。


「じゃあ。」


「七つの遺産を全部調べれば……。」


修は頷いた。


「時計台の仕組みが全部分かるかもしれない。」



翌朝。


修たちは時計台へ向かった。


内部へ入り、巨大な振り子の前へ立つ。


修はベルマーレで見つけた設計図を壁へ広げる。


「やっぱり。」


図面と振り子。


完全に一致している。


しかし。


振り子の中央には、大きな空洞があった。


「ここに何か入る。」


リペが覗き込む。


「部品ですか?」


「たぶん。」


修はアルドの手帳を見る。


そこには一行。


『鐘の音は、時を動かす。』


そして、その下。


今まで気づかなかった薄い文字。


『七つの音が揃う時、時計は再び時を刻む。』


修は息をのんだ。


「七つの音……。」


町長が尋ねる。


「七つの遺産か?」


「おそらく。」


風車。


鐘。


氷時計。


まだ見ぬ遺産たち。


すべてに「音」があるのかもしれない。



修は時計台へ手を添えた。


【対象:町の時計台】


【修復率:52%】


【第二の遺産:確認済】


【第三の遺産:確認済】


【設計情報更新】


数字が動く。


52% → 59%


「上がった!」


リペが飛び跳ねる。


町長も笑顔になる。


「あと四十一%じゃな。」


修は時計台を見上げた。


「まだまだです。」


「でも。」


時計台の奥。


修復した歯車が――


カチッ。


ほんの一度だけ動いた。


全員が黙る。


リペが小さな声で言った。


「ご主人様。」


「動きましたね。」


「ああ。」


百年以上止まっている時計台。


その時間が。


ほんの一秒だけ。


未来へ進んだ。



工房へ戻る。


修は新しいページを開いた。


時計台修復ノート


修復率:59%


第二の遺産――風時計 修復


第三の遺産――帰港の鐘 修復


確認された情報――七つの音


そして最後に。


修は一行を書き加えた。


『急がない。直せるものから、一つずつ。』


ノートを閉じる。


すると。


コンコン。


工房の扉が叩かれた。


修とリペは顔を見合わせる。


「はい。」


扉を開ける。


そこには、一人の少女が立っていた。


両手で何かを大切そうに抱えている。


「修理屋さん。」


少女は不安そうに修を見上げた。


「これ……。」


「直せますか?」


差し出されたのは――


片方の耳が取れた、


古びたぬいぐるみだった。


修はしゃがみ込む。


そして、いつものように笑った。


「見せてごらん。」


長い旅から帰ってきても。


伝説の遺産を見つけても。


修の仕事は変わらない。


目の前にある、


誰かの大切なものを直すこと。


異世界リペア工房は今日も――


いつも通り、営業中だった。

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