第32話 帰ってきた風
「ただいまー!」
リペの元気な声が町へ響いた。
工房の煙突が見えた瞬間から、リペは走りっぱなしだった。
「こら、転ぶぞ!」
修が笑いながら後を追う。
案の定。
ズルッ。
「きゃっ!」
荷物を抱えたまま転んでしまう。
しかし今回は違った。
後ろから町の子どもたちが駆け寄る。
「リペさん、大丈夫!」
「荷物持つよ!」
「ありがとう!」
リペは照れくさそうに笑った。
修はその光景を見て、小さく微笑む。
「……帰ってきたな。」
⸻
工房の前では、町長、ガイン、ルナが待っていた。
「おかえり!」
「風車村はどうだった?」
ガインが大きな荷物を受け取る。
ルナは目を輝かせた。
「アルドさんの手帳は見つかりましたか?」
修はリュックから革表紙の本を取り出した。
『アルド修理手帳 第二巻』
町長は感慨深そうに頷く。
「また一歩近づいたのう。」
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その夜。
工房ではささやかな食事会が開かれた。
ガイン特製のシチュー。
ルナの焼きたてパン。
リペはおかわり三杯目。
「育ち盛りです!」
「ゴーレムにも育ち盛りがあるのか?」
「たぶんあります!」
みんなが笑う。
旅の疲れが、温かな時間の中でほどけていった。
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翌朝。
修は一人、時計台へ向かった。
「おはよう。」
いつものように石壁へ手を添える。
【対象:町の時計台】
【町の想い 45%】
【第二の遺産達成】
【修復率更新】
数字がゆっくりと変わる。
45% → 52%
修は思わず目を見開いた。
「上がった……。」
風車村で得た経験。
アルドの手帳。
町の人々との絆。
そのすべてが時計台へ届いていた。
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リペが息を切らして駆け上がってくる。
「ご主人様!」
「見てください!」
広場には子どもたちが集まっていた。
「時計台ごっこしよう!」
「ぼく鐘を鳴らす人!」
「私は修理屋さん!」
木の枝を工具に見立てて遊んでいる。
修は思わず笑った。
「時計台が遊び場になってる。」
町長も嬉しそうに頷く。
「昔もこうじゃった。」
「時計台の周りには、いつも子どもたちがおった。」
修は静かに時計台を見上げる。
「少しずつ。」
「戻ってきてる。」
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その時だった。
コンコン。
工房へ戻ると、一人の旅人が立っていた。
紺色のローブ。
潮風に焼けた顔。
背中には古びた羅針盤を背負っている。
「失礼します。」
「異世界リペア工房で間違いありませんか?」
「はい。」
旅人は深く頭を下げた。
「私は港町ベルマーレの航海士、エリオットと申します。」
その名を聞いた瞬間。
修とリペは顔を見合わせる。
「ベルマーレ……。」
アルドの手帳に記されていた町。
旅人は布に包まれた品物を机へ置いた。
ゆっくり布を外す。
現れたのは、美しい真鍮製の羅針盤だった。
しかし針は折れ、ガラスは割れている。
修はそっと手を触れる。
【対象:潮風の羅針盤】
【損傷率:58%】
【アルドの遺産との関連を確認】
その瞬間。
修の頭の中へ、懐かしい声が響いた。
「海は、急ぐ者には道を教えない。」
修は静かに目を閉じる。
「……アルドさん。」
エリオットが驚いた表情を浮かべる。
「その名前を知っているのですか?」
修は穏やかに微笑んだ。
「少しずつ。」
「旅をしながら教えてもらっています。」
エリオットは安心したように息をつく。
「それなら、ぜひ港町へ来てください。」
「私たちの町には……。」
「百年以上、一度も鳴っていない灯台の鐘があります。」
工房に静かな風が吹き抜ける。
リペは嬉しそうに修を見る。
「ご主人様。」
「次の旅ですね!」
修は頷く。
「ああ。」
「でも、その前に。」
羅針盤を優しく持ち上げる。
「まずは、この子の話を聞こう。」
工房の窓から、夏の風が吹き込む。
その風は、風車村を通り、時計台をかすめ、新たな旅への道を静かに示しているようだった。




