第29話 風が止んだ村
「行ってきます!」
工房の前でリペが大きく手を振る。
「気を付けてな。」
町長が笑顔で送り出す。
「時計台は任せておけ。」
ガインは修の肩を軽く叩く。
「土産話、楽しみにしてるぞ。」
ルナは小さな袋を差し出した。
「保存食です。」
「途中でお腹が空いたら食べてください。」
「ありがとう。」
修は仲間たちへ深く頭を下げた。
「それじゃ、行ってきます。」
⸻
四日後。
丘を越えた先に、小さな村が見えてきた。
「あれが風車村です。」
ノエルが指差す。
村の中央には、大きな風車。
しかし、その羽根はぴくりとも動いていない。
周囲の畑もどこか元気がなく、風に揺れるはずの小麦も静かだった。
リペは首をかしげる。
「風が吹いていませんね。」
修は空を見上げた。
雲は流れている。
草も揺れている。
「風は吹いている。」
「でも……。」
「風車だけが止まっている。」
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村へ入ると、人々が集まってきた。
「修理屋さんだ!」
「本当に来てくれた!」
子どもたちは興味津々でリペの後ろを歩く。
「お姉ちゃん!」
「そのネジ、何?」
リペは胸を張る。
「これは私の大事なネジです!」
「なくすと頭が外れます!」
「すごーい!」
修は思わず笑った。
「そこ、感心するとこかな。」
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村長の家へ案内される。
白髪の老人が静かに頭を下げた。
「遠いところ、ありがとうございます。」
修も礼を返す。
「まずは風車を見せてください。」
「もちろんです。」
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巨大な風車の前。
近くで見ると、その大きさに圧倒される。
羽根は修理された跡がある。
軸も新しい。
歯車も交換済み。
ノエルの言う通りだった。
「全部直してあります。」
「それでも回らないんです。」
修はそっと風車へ手を当てた。
「さて。」
「どこが痛い?」
【対象:風時計】
【損傷率:31%】
【修理可能】
【警告】
【機械に異常なし】
修は目を見開いた。
「異常なし……?」
リペが覗き込む。
「壊れてないんですか?」
「そうみたいだ。」
それなら、なぜ回らないのか。
修は記憶を読み取る。
⸻
昔の風車村。
大きな風車が勢いよく回っている。
子どもたちが笑いながら走り回る。
パンを焼く香り。
粉ひき小屋の音。
そこへ、一人の旅人が現れた。
工具箱を背負った、穏やかな笑顔の男。
アルドだった。
『いい風ですね。』
『この村は、風を大切にしている。』
村人たちは笑う。
『風じゃなくて、人のおかげさ。』
『みんなで回してるようなものだからな。』
アルドは嬉しそうに頷いた。
『それなら安心です。』
『この風車は、きっと長生きします。』
景色が変わる。
時は流れ、少しずつ村から人が減っていく。
若者は町へ出た。
粉ひき小屋も閉まる。
風車の周りに集まる人はいなくなった。
最後に風車が、ゆっくり止まる。
その瞬間だけが、静かに映し出された。
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修は目を開けた。
「やっぱり……。」
ノエルが身を乗り出す。
「原因が分かったんですか?」
修は風車を見上げる。
「壊れていません。」
「ただ。」
「役目を失ってしまったんです。」
村人たちは顔を見合わせる。
「役目……?」
「昔、この風車は村のみんなのために回っていました。」
「でも今は。」
「誰も、この風車を必要としていない。」
その言葉に、村長は静かに目を閉じた。
「確かに……。」
「製粉所も閉じてしまった。」
「子どもたちも少なくなった。」
「祭りもなくなった。」
ノエルは拳を握る。
「じゃあ……。」
「どうすればいいんですか?」
修は優しく笑った。
「風車を直す前に。」
「風車が必要な村に戻しましょう。」
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その時だった。
リペが風車の下を歩いていると、一枚の古い木札を見つけた。
「ご主人様!」
「何かあります!」
修が受け取る。
そこには、アルドの文字でこう刻まれていた。
『風は、人が笑う場所へ吹く。』
修は静かに微笑む。
「アルドさんらしいな。」
リペも嬉しそうに頷いた。
「時計台と同じですね!」
「うん。」
「きっと全部、つながってる。」
夕日に照らされた風車は、まだ回らない。
けれど。
その前には、少しずつ人が集まり始めていた。
それは、止まっていた風が再び吹き始める、小さな始まりだった。




