第28話 風車村からの依頼
朝日が工房の窓から差し込む。
カン、カン、カン。
修は作業台で古びたランタンを磨いていた。
「これでよし。」
最後に布で優しく拭き上げる。
ランタンは新品のようではなく、長年使われた温もりを残したまま、美しく輝いていた。
リペは受付の机を拭きながら満足そうに頷く。
「今日も工房はピカピカです!」
その瞬間。
雑巾を振り回しすぎて、自分の頭に巻き付いた。
「た、助けてください~!」
修は笑いながら雑巾をほどく。
「朝から元気だな。」
「はい!」
「元気だけが取り柄です!」
「それは十分立派な取り柄だ。」
リペは照れくさそうに笑った。
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コンコン。
工房の扉が静かに叩かれる。
「どうぞ。」
入ってきたのは、一人の青年だった。
日に焼けた肌。
作業着姿。
背中には工具箱を背負っている。
「初めまして。」
「風車村から来ました。」
修は椅子を勧める。
「遠いところを。」
青年は深く頭を下げた。
「僕はノエルといいます。」
「村のみんなに頼まれて来ました。」
そう言って、机の上へ一枚の羊皮紙を広げる。
そこには、美しい風車が描かれていた。
しかし羽根は止まり、周囲には草が生い茂っている。
「この風車を直してほしいんです。」
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修は絵を見つめる。
「風車ですか。」
ノエルは静かに頷く。
「昔は村の誇りでした。」
「風車が回ると、小麦を挽く音が村中に響いて……。」
「子どもたちも、その音を聞くと家へ帰ってきたんです。」
リペは目を輝かせる。
「素敵です!」
ノエルの表情は曇る。
「でも。」
「三年前から、一度も回っていません。」
「職人さんにも見てもらいました。」
「羽根も歯車も直しました。」
「それでも……動かないんです。」
修はその言葉に、小さく反応した。
「直したのに、動かない……。」
どこか聞き覚えのある話だった。
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ノエルはもう一枚の紙を差し出す。
「実は。」
「風車を掃除していたら、こんなものが見つかりました。」
修が受け取る。
そこには見覚えのある紋章が刻まれていた。
歯車を組み合わせた印。
修とリペは顔を見合わせる。
「アルド……。」
ノエルは驚く。
「ご存じなんですか?」
修は静かに頷いた。
「旅の時計職人です。」
「その人の足跡を、私たちは探しています。」
ノエルは目を丸くした。
「村に伝わる昔話があります。」
『風車を作った旅の職人は、時計も作る不思議な人だった。』
「まさか、本当にいたなんて……。」
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修は工房の壁に掛けられた「時計台修復ノート」を見つめる。
一ページ目。
町の想い 45%
その下に、新しく一行を書き加えた。
第二の遺産の手掛かりを発見。
風車村へ向かう。
リペは嬉しそうに拍手した。
「旅ですね!」
修は笑う。
「ああ。」
「でも、その前に。」
修はランタンを依頼人へ返す。
「工房の仕事を終わらせよう。」
「待っている人がいるから。」
ノエルはその姿を見て微笑んだ。
「噂どおりですね。」
「え?」
「修さんは。」
「壊れた物じゃなくて、人を待たせるのが嫌なんですね。」
修は少し照れくさそうに頭をかいた。
「その方が落ち着くんです。」
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夕方。
町長、ガイン、ルナも工房へ集まっていた。
「風車村か。」
ガインが腕を組む。
「昔、一度だけ行ったことがある。」
ルナは地図を広げる。
「ここから馬車で四日くらいですね。」
町長は静かに頷いた。
「留守の間、時計台はわしらが掃除しておく。」
修は深く頭を下げた。
「お願いします。」
リペは大きなリュックを背負っていた。
「お弁当!」
「着替え!」
「工具!」
「おやつ!」
「おやつ多くないか?」
「旅ですから!」
工房のみんなが笑う。
その時だった。
リペは勢いよくリュックを持ち上げる。
重すぎた。
そのまま後ろへ倒れる。
ゴロン。
「うごけません……。」
修は苦笑しながらリュックを半分にした。
「おやつを減らそう。」
「それだけは勘弁してください!」
工房は今日も笑い声に包まれる。
そして翌朝――。
修とリペは、新たな旅へ出発する。
時計職人アルドが残した、第二の遺産を探すために。




