第25話 止まった時間、動き始める時間
翌朝。
異世界リペア工房。
修は久しぶりに工房の扉を開けた。
朝日が差し込み、木の床を優しく照らしている。
「やっぱり落ち着きますね。」
リペは大きく伸びをした。
「工房の匂いです!」
修は笑いながら工具箱を作業台へ置く。
「さて。」
「今日からまた、いつもの毎日だ。」
その時だった。
コンコン。
軽やかなノックが響く。
「おはよう。」
扉の向こうに立っていたのは町長だった。
「おかえり。」
「ただいま帰りました。」
町長は修の顔を見ると、安心したように笑った。
「王都での活躍は聞いておるぞ。」
「百年壊れていた秘宝を直したそうじゃな。」
修は照れくさそうに頭をかく。
「噂って早いですね。」
「この町にも届いておる。」
町長はゆっくり頷いた。
「だからこそ、もう一度頼みたいことがある。」
修はすぐに察した。
「時計台ですね。」
⸻
町の広場。
大きな時計台は、相変わらず静かに空を見上げていた。
針は止まったまま。
鐘も鳴らない。
しかし、どこか昨日までとは違って見える。
修は時計台へ歩み寄る。
「久しぶり。」
そっと外壁へ手を添える。
「待たせたね。」
【対象:町の時計台】
【損傷率:82%】
【修理可能】
【修理条件を更新しました】
修は目を細める。
「条件が……変わってる。」
リペが覗き込む。
「何て書いてありますか?」
修は静かに読み上げた。
「『町の想い 42%』」
「『必要値 70%』」
「想い……?」
町長も首をかしげる。
「時計を直すのに、町の想いが必要なのか。」
修は時計台に流れ込む記憶を見つめた。
祭り。
結婚式。
新年。
卒業。
この町の大切な節目には、いつも時計台があった。
だが年月とともに、人々は広場へ集まらなくなった。
時計台は壊れたのではない。
忘れられていた。
⸻
修は静かに振り返る。
「町長。」
「はい。」
「部品だけ直しても、この時計台は動きません。」
町長は真剣な表情で頷く。
「では、どうすればいい?」
修は広場を見渡した。
子どもたちが遊び、大人たちが買い物をしている。
「また、この場所へ人が集まるようにしましょう。」
「昔みたいに。」
「時計台が、町の中心になれるように。」
町長はゆっくり笑った。
「なるほど。」
「修理するのは時計台だけではないんじゃな。」
「はい。」
「町も、一緒にです。」
⸻
その日の午後。
町長は掲示板に一枚の紙を貼った。
『時計台おそうじ大会 開催!』
子どもも。
大人も。
誰でも参加自由。
リペは張り切って大きなほうきを持つ。
「頑張ります!」
修は苦笑する。
「まずは、自分が壊さないようにな。」
「大丈夫です!」
その直後。
勢いよく掃き始めたほうきが風を巻き起こし、積もっていた落ち葉が広場中へ舞い上がる。
「きゃー!」
「落ち葉の嵐だ!」
子どもたちは大喜び。
「すごーい!」
落ち葉の中を走り回る。
町の人たちも思わず笑顔になる。
リペは首をかしげた。
「あれ?」
修は笑いながら肩をすくめる。
「結果オーライかな。」
⸻
夕方。
掃除を終えた時計台は、少しだけ明るく見えた。
修がもう一度手を添える。
【町の想い】
42% → 45%
修は静かに微笑んだ。
「少しだけ進んだ。」
リペも嬉しそうに跳ねる。
「あと二十五%ですね!」
「長い道のりだ。」
「でも。」
修は夕日に照らされた時計台を見上げた。
「急がなくていい。」
「百年止まっていた時計なんだ。」
「ゆっくり、みんなで直していこう。」
時計台は夕日を浴びて静かに輝く。
まるで、その言葉に応えるように。
そして町では、止まっていた時間が少しずつ動き始めていた。




