第24話 ただいま、異世界リペア工房
王都での最後の朝。
修は窓を開け、大きく息を吸い込んだ。
「今日で帰るんですね。」
リペが荷物を抱えながら聞く。
「ああ。」
修は微笑む。
「工房が恋しくなってきた。」
「私もです!」
「ベッドが恋しいです!」
「そこ?」
「はい!」
二人は顔を見合わせて笑った。
⸻
王立魔道具研究所では、アルバート所長たちが見送りに来ていた。
「本当に帰ってしまうのか。」
アルバートは少し寂しそうに言う。
修は頷いた。
「工房には、まだ待っている依頼がありますから。」
エミリアも笑顔を向ける。
「また困ったら呼んでもいいですか?」
「もちろんです。」
「修理屋は逃げません。」
リペは胸を張る。
「出張も受け付けます!」
「営業するな。」
修がすかさずツッコミを入れる。
研究所には笑い声が響いた。
⸻
王城では、王女アリアが二人を待っていた。
「これを受け取ってください。」
差し出されたのは、小さな銀色のバッジだった。
歯車と四つ葉のクローバーが刻まれている。
「王国公認修理師章です。」
修は驚く。
「そんな立派なものを……。」
アリアは優しく微笑んだ。
「困った人がいたら、この徽章を見せてください。」
「王国中の町が、きっと力になってくれます。」
修は両手で受け取った。
「大切にします。」
リペは目を輝かせる。
「ご主人様、すごいです!」
「みんなのおかげだよ。」
⸻
王都の門。
セシリアが馬車の準備を終えていた。
「ここから先は、お二人だけでも大丈夫でしょう。」
修は頭を下げる。
「ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
セシリアは少し笑う。
「また護衛が必要になったら、いつでも呼んでください。」
「その時はお願いします。」
リペは勢いよく敬礼した。
今度は何も外れない。
「今日は外れませんでした!」
セシリアは思わず吹き出した。
「それを報告するんですね。」
⸻
帰り道。
街道には、来た時と同じ風景が広がっていた。
宿場町では、以前修理した女神像の噴水で子どもたちが遊んでいる。
「修理屋さん!」
「また来てね!」
子どもたちが大きく手を振る。
修も笑顔で手を振り返した。
「また来るよ。」
レオンも工房の前から顔を出す。
「次は腕比べだ!」
「今度はゆっくり話しましょう。」
「もちろんだ!」
短い再会だったが、お互いに笑顔だった。
⸻
夕暮れ。
見慣れた景色が近づいてくる。
丘の向こう。
煙突から白い煙が立ち上っていた。
リペが目を丸くする。
「あっ!」
「見えました!」
修も思わず足を止める。
「帰ってきたな。」
そこには、小さな工房。
少し傾いた看板。
見慣れた庭。
そして――。
「修さーん!」
ルナが真っ先に飛び出してきた。
「おかえりなさい!」
続いてガイン。
町長。
近所の子どもたち。
みんなが笑顔で迎えてくれる。
「おかえり!」
「待ってたぞ!」
「王都はどうだった?」
リペは嬉しそうに飛び跳ねた。
「ただいまですー!」
勢い余って転ぶ。
ガインが笑う。
「帰ってきても変わらんな。」
「はい!」
「通常運転です!」
工房は一瞬で笑い声に包まれた。
⸻
その夜。
修は工房の扉をゆっくり開けた。
木の香り。
使い慣れた工具。
作業台。
壁には、旅立つ前に途中まで修理していた古時計が置かれている。
修は工具箱をそっと置いた。
「やっぱり。」
「ここが一番落ち着くな。」
リペも大きく頷く。
「私のおうちです!」
修は静かに工房を見渡す。
旅に出る前と何も変わっていない。
けれど、自分たちは少しだけ成長して帰ってきた。
王都で出会った仲間。
新しい技術。
そして、人とのつながり。
そのすべてを、この工房へ持ち帰ってきた。
その時――。
コンコン。
夜にもかかわらず、扉がノックされた。
修が扉を開ける。
そこには、一人の旅人が立っていた。
背中には、大きな荷物。
腕の中には、壊れたランタンが抱えられている。
「すみません。」
「ここが……異世界リペア工房でしょうか?」
修は優しく微笑んだ。
帰ってきたばかりなのに、もう新しい依頼人が来ている。
リペも満面の笑みで駆け寄った。
「いらっしゃいませ!」
修は旅人からランタンを受け取り、いつものように静かに語りかける。
「さて。」
「どこが痛い?」
ランタンがかすかに光る。
新しい物語は、もう始まっていた。
――王都出張編・完――




