第1話 最初のお客さん
「……いてて。」
柔らかい草の上で目を覚ます。
「ここ、どこだ?」
見上げる空には、青い空と二つの月。
青年――**森谷 修**は、思わず苦笑した。
「異世界って、本当にあるんだな。」
パニックにはならなかった。
日本で古物やジャンク品を見ていると、予想外の出来事には慣れている。
「まあ、起きたことは仕方ない。」
「まずは状況確認だ。」
修は周囲を歩き始めた。
しばらくすると、小さな町が見えてきた。
門の前には、人だかり。
「何かあったのかな。」
近付いてみる。
すると、町の門の横には巨大な荷車が止まっていた。
その荷車いっぱいに積まれているのは――
ガラクタだった。
折れた剣。
穴の開いた鎧。
欠けた皿。
壊れたランタン。
動かない時計。
そして、腕のないゴーレム。
修の目が輝く。
「……宝の山じゃん。」
周囲はため息をついていた。
「全部ゴミだ。」
「早く捨てろ。」
「燃やしてしまえ。」
修は思わず聞き返す。
「え?」
「全部直せますよ?」
町中が静まり返る。
「……直す?」
「そうです。」
「壊れたなら修理すれば――」
その瞬間。
町中が大爆笑した。
「修理だって!」
「そんなこと考える奴がいるのか!」
「新品を買えばいいだろ!」
修は頭をかいた。
(文化の違いって、すごいな……。)
その時だった。
頭の中に文字が浮かぶ。
【鑑定】
【対象:旧式作業ゴーレム】
【損傷率:98%】
【修理可能】
修は思わず二度見した。
荷車の隅で、小さなゴーレムがこちらを見ている。
片腕がない。
頭も割れている。
片方の目は消えていた。
「……。」
目が合った。
小さなゴーレムは、かすかに口を動かす。
「……た……すけ……て。」
修は息をのんだ。
誰も気付いていない。
聞こえたのは自分だけだ。
町人が荷車を押そうとする。
「焼却場へ持って行け!」
「待ってください!」
修は思わず飛び出していた。
「そのゴーレム、ください!」
町人は首をかしげる。
「これ?」
「壊れてるぞ?」
「はい。」
「欲しいです。」
「変わった奴だな。」
町人は笑いながら、小さなゴーレムを修へ渡した。
修はそっと抱き上げる。
軽かった。
驚くほど軽かった。
「……もう大丈夫。」
優しくそう言うと、頭の中に光る文字が現れる。
【修理しますか?】
修は迷わない。
「修理。」
柔らかな光が、小さな体を包み込む。
ギギッ。
カチッ。
ギュイーン。
割れていた頭が戻る。
失われた腕が生まれる。
消えていた瞳に光が宿る。
そして、小さなゴーレムはゆっくりと目を開いた。
「……。」
「……。」
修は少し緊張する。
ゴーレムは修を見つめた。
次の瞬間。
満面の笑みで飛びついてきた。
「ご主人様ぁぁぁーーー!!」
ドーーーーン!!
勢い余って、二人そろって地面を転がる。
「痛っ!」
「ご主人様!ご主人様!」
「近い近い!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「分かった分かった!」
修は笑ってしまった。
「元気になったな。」
ゴーレムは胸を張る。
「私は旧式作業ゴーレム、製造番号RP-01です!」
「長いな。」
「では、今日からリペです!」
「自分で決めた!?」
「気に入りました!」
修は思わず吹き出した。
「じゃあ、よろしく。」
「よろしくお願いします!」
その日。
世界でたった一人の修理屋と、
世界で一番壊れやすいゴーレムが出会った。
後に、この二人は世界中から「壊れたもの」が集まる工房を作ることになる。
もちろん、この時の修はまだ知らない。
リペが、この日の夕方にはもう一度壊れることを。




