プロローグ 修理屋の朝は、いつも笑顔から始まる
「ご主人様ーーー!!」
ドォォォン!!
朝日が差し込む修理工房。
静寂を切り裂く爆発音。
そして、煙の中から一本の腕が飛んできた。
「……。」
主人公は飛んできた腕を受け止める。
「リペ。」
「はい!」
「腕。」
「取れました!」
「見れば分かる。」
主人公はため息をついた。
工房の床には、首だけになった小さなゴーレムが転がっている。
「掃除中に転びました!」
「どうしたら掃除で爆発するんだよ。」
「頑張りました!」
「そこは認める。」
主人公は慣れた手つきでリペの腕をはめ込む。
カチッ。
「修理。」
淡い光が工房を包み込む。
ギギッ。
カチッ。
キュイーン。
「おはようございます!」
「今起きたばっかりだろ。」
「本日も絶好調です!」
「昨日も言って三回壊れたよね。」
「はい!」
「威張るな。」
工房の扉についたベルが鳴る。
チリン。
「おはようございます。」
近所のおばあさんが、ひびの入ったティーカップを抱えて立っていた。
「またお願いできますか?」
主人公は優しく受け取る。
「もちろん。」
「いつもの席でお茶でも飲んで待っていてください。」
「ありがとう。」
主人公はカップを両手で包むように持つ。
目を閉じる。
「さて。」
「どこが痛い?」
その瞬間だった。
主人公の頭の中に、一つの景色が流れ込む。
若い夫婦。
笑い合う二人。
小さな娘。
毎朝このカップで飲む紅茶。
最後に映ったのは、一人になったおばあさんの姿だった。
【対象:ティーカップ】
【損傷:ひび割れ】
【修理可能】
主人公は静かに微笑む。
「長い間、お疲れさま。」
指先から柔らかな光があふれる。
ひびがゆっくりと消えていく。
新品になるわけではない。
長い年月を刻んだ風合いはそのままに、もう一度使える姿へと戻っていく。
「はい。」
「おかえり。」
主人公はカップをおばあさんへ返した。
おばあさんはそっと受け取り、目を潤ませる。
「また主人と一緒に、お茶を飲んでいる気分になれます。」
主人公は照れくさそうに笑った。
「これからも、たくさん思い出を作ってください。」
その横でリペは号泣していた。
「うわぁぁぁぁぁん!」
主人公は驚く。
「お前、泣けるの?」
「感動しましたぁぁぁ!」
鼻をかもうとして、自分の腕を引っ張る。
スポン。
「ご主人様!」
「また取れました!」
「泣くたびに分解するな!」
工房中に笑い声が響く。
この世界には、壊れた物を修理する人はいない。
だから人々は、壊れたら諦めるしかなかった。
でも、一人だけ違った。
「壊れたなら直せばいい。」
それが、この世界でたった一人の修理屋。
そして、世界一忙しくて、世界一笑顔が集まる工房。
――異世界リペア工房。
ここには今日も、誰かの「大切」が運ばれてくる。
⸻
これは少し変わった修理屋と、何度壊れても笑って立ち上がる小さなゴーレムが紡ぐ、笑って、少しだけ泣ける物語。
「壊れたもの、お預かりします。」
「壊れた心も、たぶん一緒に。」




