第18話 王都リーヴェル
「……大きい。」
修は思わず立ち止まった。
目の前には、高くそびえる白い城壁。
巨大な門。
人、人、人。
馬車がひっきりなしに出入りしている。
リペは目を輝かせた。
「ご主人様!」
「町が大きいです!」
「岩見……じゃなくて。」
修は慌てて咳払いをする。
「今まで見た町とは比べものにならないな。」
リペは城壁を見上げた。
「掃除が大変そうです!」
「まずそこなの?」
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門番が二人へ近づいてきた。
「身分証を。」
修はセシリアから受け取った通行証を差し出す。
門番は驚いた。
「近衛騎士団長補佐、セシリア殿の推薦状……。」
「失礼しました。」
「どうぞお通りください。」
リペは小声で聞く。
「ご主人様。」
「偉い人だったんですね。」
「俺も今知った。」
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王都へ入る。
石畳は隅々まで整備されている。
大きな時計塔。
噴水広場。
露店。
職人街。
魔法学院。
リペは見るものすべてが新鮮だった。
「すごいです!」
「全部綺麗です!」
修は周囲を見回す。
「……。」
「でも。」
「どこか寂しいな。」
リペは首をかしげる。
「どうしてですか?」
修は静かに答えた。
「綺麗すぎる。」
「使い込まれた感じがない。」
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その時。
一人の女性が駆け寄ってきた。
「森谷修さんですね!」
栗色の髪。
白衣のようなローブ。
眼鏡を掛けた、知的な雰囲気の女性だった。
「私は王立魔道具研究所の研究員。」
「エミリアと申します。」
修は頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
エミリアは深々と頭を下げた。
「お待ちしていました!」
「王都中の職人が諦めた物があります。」
「どうか。」
「助けてください。」
⸻
研究所。
何重もの鍵。
魔法障壁。
厳重な警備。
最奥の部屋。
そこには、一つの台座があった。
布が掛けられている。
エミリアは深呼吸した。
「こちらです。」
布を外す。
現れたのは――
一本の、黒い杖だった。
杖全体に細かなひび。
魔石は光を失っている。
リペが小さくつぶやく。
「悲しそうです。」
修も杖を見つめた。
「……。」
「長い間。」
「一人で頑張ってきたんだな。」
エミリアは驚く。
「まだ何も説明していないのに……。」
修はゆっくり杖へ手を伸ばす。
「さて。」
「どこが痛い?」
その瞬間だった。
【警告】
頭の中へ、今までにない大きな文字が浮かぶ。
【対象:王国秘宝『星導の杖』】
【損傷率:97%】
【修理可能】
【危険度:S】
【修理失敗時】
【王都全域へ魔力暴走の危険があります】
修の表情が変わる。
「……。」
リペも修の顔を見る。
「ご主人様?」
修は杖を見つめたまま、小さく息を吐く。
「今までで、一番難しい修理だ。」
部屋に静寂が流れる。
エミリアも息をのむ。
「やはり……。」
「無理なのでしょうか。」
修は首を横に振る。
「いや。」
「直せます。」
「ただ。」
「慎重にやりましょう。」
その時だった。
研究所の奥から、低い声が響く。
「待て。」
白衣姿の老人が現れる。
鋭い目。
長い白髭。
胸には王立研究所最高顧問の紋章。
「私は所長のアルバート。」
「君が修理屋か。」
修は静かに頭を下げた。
「はい。」
アルバートは杖を見つめる。
そして修へ視線を戻す。
「一つだけ忠告しておこう。」
「その杖は。」
「百年間、誰一人として直せなかった。」
部屋の空気が張り詰める。
しかし。
修は少しだけ笑った。
「だから。」
「私が来たんでしょう?」
アルバートは目を細めた。
「……面白い。」
そのやり取りを見ていたリペは、緊張した空気に耐えられなくなり、小声で修へ聞いた。
「ご主人様。」
「なんだ?」
「トイレへ行ってもいいですか?」
修は思わず吹き出した。
「今!?」
エミリアも笑いをこらえている。
アルバートは額へ手を当てた。
「……緊張感というものがないのか。」
リペは真顔だった。
「限界です。」
修は苦笑する。
「案内してもらっておいで。」
「はい!」
勢いよく走り出したリペ。
三歩目で絨毯につまずく。
ゴロン。
ゴロン。
ドンッ。
花瓶に頭をぶつける。
花瓶だけが奇跡的に無事だった。
リペは床に寝転んだまま親指を立てる。
「花瓶は守りました!」
修は笑いながら頭を抱えた。
「お前は本当に……。」
張り詰めていた研究室に、初めて笑い声が響いた。
王都へ来ても。
異世界リペア工房は、いつもの異世界リペア工房だった。




