第17話 新品か、それとも修理か
王都まで、あと半日。
街道沿いには大きな宿場町が広がっていた。
「ご主人様!」
リペが看板を指差す。
「今日はここで泊まれます!」
修も頷く。
「ちょうどお昼だし、休憩しよう。」
宿場町は旅人で賑わっていた。
商人。
冒険者。
職人。
様々な人が行き交っている。
その時だった。
ガシャーン!!
大きな音が広場から響く。
「また壊れたぞ!」
「新品を持ってこい!」
修たちは広場へ向かった。
そこには豪華な噴水。
中央に立つ女神像の腕が折れ、水が止まっていた。
職人たちが困った顔をしている。
「もう修復は無理だ。」
「全部作り直しだ。」
修は像を見上げた。
「そんなに悪いかな。」
一人の青年が振り向く。
白い作業着。
整った身なり。
腰には美しい工具。
「君は?」
修は軽く頭を下げる。
「修理屋です。」
青年は眉をひそめた。
「修理?」
「こんな古い像に価値はない。」
「新しく作ればいい。」
修は静かに女神像へ近付く。
そっと触れる。
「さて。」
「どこが痛い?」
【対象:女神像】
【損傷率:36%】
【修理可能】
景色が流れる。
宿場町がまだ小さかった頃。
子どもたちが水遊びをしている。
旅人が喉を潤す。
老人が毎朝掃除をする。
何十年もの間、人々を見守ってきた。
景色は終わる。
修はゆっくり目を開く。
「……。」
「この像。」
「みんなに愛されてる。」
青年は首を振る。
「思い出では町は守れない。」
「新品の方が丈夫だ。」
修は微笑んだ。
「新品もいい。」
「でも。」
「長く使われた物には、新品にはない価値があります。」
二人の職人。
考え方は真逆だった。
⸻
青年は腕を組む。
「なら見せてみろ。」
「修理屋。」
修は頷く。
「いいですよ。」
「修理。」
柔らかな光が女神像を包む。
折れていた腕がゆっくり戻る。
細かなひびも消える。
しかし。
長年風雨にさらされた石の風合いだけは、そのままだった。
噴水が勢いよく吹き上がる。
ザアァァァッ!
広場から歓声が上がる。
「直った!」
「女神様だ!」
子どもたちが走ってくる。
「水だー!」
嬉しそうにはしゃぎ始めた。
修はその様子を見て笑う。
「やっぱり。」
「ここには、この像が似合う。」
青年は黙って像を見つめていた。
「……。」
しばらくして、小さく笑う。
「負けた。」
修は首をかしげる。
「勝負してた?」
「していたのは、私だけだ。」
青年は右手を差し出した。
「私はレオン。」
「王都一番の石工だ。」
修も握手を返す。
「森谷修です。」
レオンは照れくさそうに笑った。
「修理なんて古い技術だと思っていた。」
「でも。」
「直すことも、新しく作ることと同じくらい尊いんだな。」
修は頷く。
「直す人。」
「作る人。」
「どっちも必要です。」
その時だった。
リペが噴水を見つめて目を輝かせる。
「綺麗です!」
「入ってもいいですか?」
修は嫌な予感しかしない。
「やめた方が――」
ザブーン!!
飛び込んだ。
勢いが良すぎた。
水しぶきが四方八方へ飛び散る。
レオン。
修。
旅人。
全員びしょ濡れ。
静まり返る広場。
リペだけが満面の笑みだった。
「涼しいです!」
レオンは数秒固まった後、大笑いした。
「ははははは!」
「王都一番の噴水へ飛び込んだゴーレムは初めて見た!」
修は額を押さえながら笑う。
「リペ。」
「なんでしょう!」
「まず謝ろう。」
リペは勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません!」
その勢いで首がスポンと外れた。
コロコロ……。
頭だけが噴水をぷかぷか浮かぶ。
子どもたちは大爆笑。
「あははは!」
「首が泳いでる!」
レオンも腹を抱えて笑っている。
修は頭を拾い上げた。
「修理。」
カチッ。
リペは何事もなかったように敬礼した。
「本日も元気です!」
修は苦笑する。
「それが一番だ。」
夕暮れ。
宿場町を後にする二人。
遠くには、王都の大きな城壁が見え始めていた。
修は静かに呟く。
「いよいよだな。」
リペも大きく頷く。
「はい!」
「王都でも、笑顔を修理しましょう!」
その言葉に背中を押されるように。
異世界リペア工房の二人は、王都への最後の一歩を踏み出した。




