第16話 止まった馬車と女騎士
王都へ続く街道。
馬車が何台も行き交う、王国一の幹線道路。
修とリペはのんびり歩いていた。
「ご主人様。」
「うん?」
「あと何日ですか?」
「三日くらいかな。」
「歩きですか?」
「歩きだね。」
リペは少し考え込んだ。
「……。」
「壊れたら乗り物になりますか?」
「お前は乗り物じゃない。」
そんな会話をしていると――
ガタンッ!
前方から大きな音が響いた。
一台の豪華な馬車が道の真ん中で止まっている。
御者が慌てて荷台を覗き込んでいた。
「くそっ!」
「車輪の軸が折れた!」
修は足を止める。
「故障か。」
リペは目を輝かせる。
「お仕事ですね!」
「まだ依頼されてないよ。」
⸻
馬車の横には、銀色の鎧を身に着けた女性が立っていた。
長い金髪を後ろで束ねた、美しい騎士。
腰には細身の剣。
表情は凛としている。
「どうなった?」
騎士が御者へ尋ねる。
「申し訳ありません!」
「予備の部品では直せません!」
騎士は静かにため息をついた。
「近くの町まで歩くしかないか。」
修は一歩前へ出る。
「あの。」
騎士が振り向く。
「……誰だ?」
「修理屋です。」
「修理?」
騎士は首をかしげる。
「修理屋?」
「はい。」
「見せてもらえますか?」
騎士は怪訝そうな顔をする。
「鍛冶師でも車大工でもないのに?」
修は笑う。
「一応。」
「何でも屋です。」
リペが胸を張る。
「世界一の修理屋です!」
修は小声で言う。
「まだ町一番にもなってないけどね。」
⸻
修は馬車へ手を置いた。
「さて。」
「どこが痛い?」
【対象:王都連絡馬車】
【損傷率:29%】
【修理可能】
景色が流れる。
職人たちが丁寧に馬車を組み立てる。
王都と地方を結ぶ大切な馬車。
毎日何百人もの人を運んできた。
昨日。
大きな石へ乗り上げる。
車軸へ亀裂。
そして今日。
限界を迎えた。
修は目を開く。
「頑張ったんだな。」
騎士は不思議そうに見つめている。
「馬車に話しかけているのか?」
「ええ。」
「聞こえないだけで、ちゃんと教えてくれます。」
騎士は苦笑した。
「変わった男だ。」
修は車輪へ手を当てる。
「修理。」
優しい光が車軸を包む。
ギシッ。
ミシッ。
カチッ。
折れた軸が元に戻る。
さらに木目まで美しく整っていく。
【品質向上】
【耐久性が上昇しました】
御者が恐る恐る車輪を回す。
「回る!」
「動くぞ!」
馬も嬉しそうに鳴いた。
騎士は目を見開く。
「……本当に。」
「直したのか。」
修は笑った。
「まだまだ走れます。」
御者は何度も頭を下げる。
「助かりました!」
騎士も静かに頭を下げる。
「礼を言う。」
「私は王都近衛騎士団所属。」
「セシリアという。」
修も軽く頭を下げた。
「森谷修です。」
「こちらは相棒のリペ。」
リペは元気いっぱいに敬礼した。
「よろしくお願いします!」
敬礼の勢いが強すぎて、
鎧の腕がスポンと抜けた。
「ご主人様!」
「腕だけ敬礼しました!」
セシリアは一瞬ぽかんとした。
そして――
「……ふっ。」
小さく笑った。
「こんな旅は初めてだ。」
修は腕を拾いながら笑う。
「よく言われます。」
「修理。」
カチッ。
リペは再び敬礼する。
「二回目です!」
「一回でいい。」
⸻
出発前。
セシリアは修へ一枚の通行証を渡した。
「これがあれば王都の門は自由に通れる。」
修は驚く。
「いいんですか?」
「君は恩人だ。」
「それに。」
セシリアは少しだけ微笑んだ。
「王都には、君の力を必要としている者がいる。」
修は通行証を大切にしまう。
「ありがとうございます。」
馬車はゆっくり走り出した。
リペは大きく手を振る。
「お気をつけて!」
馬車の窓から、セシリアも静かに手を振り返す。
「また会おう。」
修も笑って頷く。
「ああ。」
その背中を見送りながらリペがぽつりと言う。
「ご主人様。」
「なんだ?」
「友達が増えましたね。」
修は空を見上げた。
「そうだな。」
「修理って、不思議だ。」
「物を直しているのに、人との縁までつながっていく。」
風が街道を吹き抜ける。
二人は再び王都への道を歩き始めた。
その先には、まだ見ぬ出会いと、新しい物語が待っていた。




