第14話 暇すぎる修理屋
「……。」
「…………。」
「………………。」
工房の中は静まり返っていた。
修は椅子に座って本を読んでいる。
リペは窓の外を見ている。
ベルは一度も鳴らない。
チリン。
……鳴らない。
「暇だな。」
修がつぶやく。
リペも頷く。
「暇です。」
また静寂。
五分後。
リペが口を開く。
「ご主人様。」
「うん。」
「暇です。」
「二回言った。」
⸻
さらに一時間。
誰も来ない。
ガインが遊びに来た。
「今日は客いねぇな。」
「そうなんだ。」
ルナも来た。
「珍しいわね。」
町長まで来た。
「今日は静かだねぇ。」
全員そろった。
それでも客は来ない。
リペは真剣な顔になる。
「ご主人様。」
「うん。」
「営業しましょう。」
修は嫌な予感がした。
「どうやって?」
「呼び込みです!」
⸻
十分後。
町の広場。
リペは胸いっぱいに息を吸い込む。
「壊れた物はありませんかーーー!」
町中に声が響く。
「修理しますーーー!」
子どもたちが集まってくる。
「リペだ!」
「今日も元気!」
リペは得意げだ。
「お客様!」
修は苦笑する。
「いや、遊びに来ただけだから。」
⸻
リペはさらに張り切る。
「壊れている物!」
「何でも!」
「直します!」
すると、一人のおじいさんが手を挙げた。
「腰。」
「それは医者だ。」
「歯。」
「歯医者です。」
「肩。」
「整体かな。」
町中が笑い始める。
リペは慌てる。
「えぇ!?」
「物だけですか!?」
修は笑う。
「そう。」
「俺は修理屋だから。」
⸻
ガインがニヤリと笑う。
「俺の腹。」
「それも違う。」
ルナも負けじと手を挙げる。
「私の寝不足。」
「早く寝て。」
町長も便乗する。
「私の肩こり。」
「みんな遊ぶな。」
町中が大笑いだった。
⸻
その時。
パン屋のおばちゃんが声を掛ける。
「リペちゃん。」
「はい!」
「これ。」
焼きたてのパンを差し出した。
「頑張ってたご褒美。」
リペは目を輝かせる。
「ありがとうございます!」
修はパンを受け取る。
「ほら。」
「一緒に食べよう。」
みんなで広場のベンチへ座る。
ガイン。
ルナ。
町長。
パン屋のおばちゃん。
子どもたち。
リペ。
そして修。
誰も依頼人ではない。
ただ集まって、おしゃべりしているだけ。
修は少し笑った。
「こんな日も悪くないな。」
町長も頷く。
「この工房ができてから。」
「町が少し賑やかになった。」
ガインはパンを頬張る。
「俺は毎日でもいいぞ。」
ルナは苦笑する。
「仕事しなさい。」
その時だった。
空から一羽の配達鳥が降りてくる。
「チュン!」
修の肩へ止まる。
足には一本の手紙が結ばれていた。
修は手紙を開く。
そこには一行だけ。
『王都より。至急、修理の依頼あり。』
工房のみんなが顔を見合わせる。
リペが目を輝かせる。
「ご主人様!」
「遠くからのお客様ですね!」
修は手紙を静かに畳む。
「……ああ。」
「今度は町の外か。」
風が吹く。
工房の看板が、小さく揺れた。
異世界リペア工房。
その名前は、少しずつ町を越えて広がり始めていた。




