第13話 飛べない小さな配達屋
朝。
工房の屋根に、一羽の小鳥が止まっていた。
「……チュン。」
リペが見上げる。
「ご主人様。」
「うん?」
「お客様です。」
「鳥だけど?」
「鳥です!」
その時だった。
バサッ。
小鳥が飛び立とうとした瞬間、ふらりと体勢を崩した。
そのまま工房の前へ落ちてくる。
ポスッ。
修は慌てて両手で受け止めた。
「大丈夫か?」
小鳥は弱々しく鳴く。
右の羽が不自然に曲がっていた。
「怪我か……。」
修は優しく手のひらへ乗せる。
「さて。」
「どこが痛い?」
【対象:配達鳥】
【損傷率:38%】
【修理可能】
景色が流れ込む。
青い空。
毎日、町中を飛び回る小鳥。
手紙を届ける。
花を届ける。
誕生日プレゼントを届ける。
町のみんなが笑顔になる。
そして昨日。
強風。
屋根へ激突。
羽を痛めた。
景色が終わる。
修は小さく笑う。
「働き者だったんだな。」
リペは目を丸くする。
「鳥さんも働くんですね。」
「みんな誰かの役に立ってるんだよ。」
修はそっと羽へ触れた。
「修理。」
柔らかな光が小鳥を包む。
折れていた羽が元通りになる。
小鳥は何度か羽ばたいた。
パタパタ。
嬉しそうに修の肩へ乗る。
「チュン!」
リペは感動していた。
「ご主人様!」
「懐かれました!」
「そうみたいだ。」
すると工房の外から慌てた声が聞こえる。
「いた!」
若い配達員の青年が走ってくる。
「ポポ!」
小鳥は青年の肩へ飛び移った。
「チュン!」
青年は安心したように笑う。
「よかった……。」
「この子、町中の配達を手伝ってくれる相棒なんです。」
修は微笑んだ。
「もう大丈夫ですよ。」
青年は何度も頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「お礼を……。」
修は首を横に振る。
「今度、手紙を届ける時。」
「困ってる人がいたら、少しだけ笑顔も届けてください。」
青年は笑った。
「はい!」
二人と一羽は元気よく飛び立っていった。
⸻
リペは窓から空を見上げている。
「いいですねぇ。」
「飛ぶの。」
修は苦笑する。
「飛びたいの?」
「はい!」
ガインが工房へ入ってくる。
「飛べばいいじゃねぇか。」
修は嫌な予感しかしなかった。
「待て。」
ルナもニヤニヤしている。
「試してみよう。」
「みんな乗り気なの!?」
ガインは板を持ってくる。
ルナは布を縫う。
町長まで通りがかる。
「何をしてるんだい?」
「リペを飛ばします。」
「楽しそうだね。」
修だけが頭を抱えていた。
一時間後。
リペの背中には、大きな手作りの羽が付いていた。
リペは胸を張る。
「飛びます!」
修は最後まで反対する。
「絶対やめた方が――」
「いきます!」
ダッ!
ジャンプ!
フワッ……
「飛びましたーー!」
三秒だけ。
「ご主人様!」
「景色が綺麗です!」
四秒目。
バサッ。
羽が折れた。
「落ちます!」
ドサーーッ!
畑へ真っ逆さま。
土煙が舞う。
静まり返る町。
修はゆっくり畑へ歩いていく。
土の中からリペの手だけが出ていた。
「……。」
「生きてる?」
「はい。」
「空は高かったです。」
修は笑って手を引っ張り上げる。
「飛ぶ前に。」
「歩く練習からだな。」
リペは泥だらけの顔で笑った。
「はい!」
その時。
肩の上を、さっきの小鳥が気持ちよさそうに飛んでいった。
「チュン!」
リペは空へ向かって大きく手を振る。
「また来てください!」
小鳥も一度だけ旋回し、工房の上をくるりと回って飛び去っていく。
夕日に照らされた異世界リペア工房。
今日もまた、一つ。
小さな命が笑顔を取り戻した。




