第11話 時計台修復プロジェクト
翌朝。
リペは工房の棚を丁寧に拭いていた。
掃除が終わると、小さな木箱を取り出す。
箱には可愛らしい字で書かれていた。
『おきゅうりょう』
中には銀貨が三枚。
リペは嬉しそうに眺める。
「今月も一枚も使いません。」
「いつか工房の役に立つ日まで。」
そう言って、大事そうにしまい込んだ。
修はその様子を知らない。
⸻
チリン。
工房のベルが鳴る。
「おはようございます。」
町長だった。
その後ろにはガイン。
さらにルナまでいる。
修は少し驚く。
「今日はみんな一緒なんですね。」
町長は笑った。
「今日は依頼ではなく、相談だ。」
「時計台の件だよ。」
修は頷く。
「見に行きましょう。」
⸻
町の中心。
大きな時計台。
百年以上、町を見守ってきた塔。
修はゆっくりと壁へ触れる。
「さて。」
「どこが痛い?」
その瞬間。
頭の中へ大量の情報が流れ込む。
【対象:時計台】
【損傷率:99%】
【修理可能】
【修理推定期間:長期】
【必要人数:複数】
【現在の工房レベルでは修理できません】
修は思わず苦笑した。
「なるほど。」
「初めて断られた。」
リペが首をかしげる。
「ご主人様でも?」
「一人じゃ無理みたい。」
ガインが腕を組む。
「なら。」
「俺が鉄を打とう。」
ルナも一歩前へ出る。
「魔力回路は私が担当する。」
町長は微笑んだ。
「町のみんなにも声を掛けよう。」
修は少し驚く。
「みんなで?」
町長は時計台を見上げる。
「この時計台は百年前。」
「町のみんなで建てた。」
「なら。」
「直す時も、みんな一緒だ。」
修は笑った。
「……いいですね。」
その時だった。
リペが元気よく手を挙げる。
「では私は!」
全員が嫌な予感を覚える。
「掃除します!」
「それなら安心……」
シュババババ!!
ものすごい勢いで塔を掃除し始めた。
ホコリが舞う。
さらに舞う。
町中が真っ白になった。
「ゴホッ!」
「前が見えん!」
「リペーー!」
修のツッコミが響く。
リペは咳き込みながら敬礼した。
「綺麗になりました!」
町長は笑いが止まらない。
「はっはっは!」
「百年分のホコリを一日で撒いたな!」
ガインも腹を抱えている。
ルナは涙を流して笑っていた。
修は額を押さえる。
「掃除って、普通はホコリを集めるんだけどな。」
リペは首をかしげる。
「そうなんですか?」
「そこから教えるのか……。」
笑いが落ち着いた頃。
修はもう一度時計台を見上げた。
夕日に照らされる古い塔。
町の人たちも足を止めて見上げている。
その時。
頭の中に表示が浮かんだ。
【大型修復依頼を受注しました】
【工房レベル:1】
【目標】
工房レベル5で時計台を完全修復できます。
修は少し笑う。
「なるほど。」
「急ぐ必要はない。」
「一つずつ直していこう。」
町長は大きく頷いた。
「それでいい。」
「町も、工房も、一緒に育てよう。」
リペは時計台へ向かって敬礼した。
「待っていてください!」
「必ず直します!」
その勢いで敬礼した腕が――
ポロッ。
落ちた。
「…………。」
「…………。」
修は笑いながら腕を拾う。
「時計台より先に、お前を修理だ。」
「はい!」
夕焼けの町に、みんなの笑い声が響いた。
こうして、異世界リペア工房の
時計台修復プロジェクトが静かに始まった。




