第10話 親子ゲンカも修理できますか?
朝。
工房ではリペが真剣な顔で掃除をしていた。
「今日は慎重に……。」
「慎重に……。」
修は椅子に座って本を読んでいる。
「その調子。」
「慌てなければ壊れないから。」
リペは力強く頷く。
「はい!」
三秒後。
ゴンッ!
柱に頭をぶつけた。
「痛いです!」
「早かったな。」
修は笑って立ち上がる。
「今日は頭だけで済んだか。」
「成長しました!」
「基準がおかしい。」
チリン。
ベルが鳴る。
入ってきたのは、ガインだった。
しかし今日は元気がない。
腕も組まず、下を向いている。
修はすぐに気付いた。
「どうした?」
ガインは黙って一本のハンマーを置いた。
柄が真っ二つに折れている。
「……直せるか。」
修は受け取る。
「もちろん。」
「でも。」
「本当に壊れてるのは、これじゃないよね。」
ガインは目を伏せた。
「昨日。」
「息子と大ゲンカした。」
「職人なんか継ぎたくないってよ。」
工房が静かになる。
修はハンマーを見つめる。
「見てみる。」
「さて。」
「どこが痛い?」
【対象:鍛冶用ハンマー】
【損傷率:47%】
【修理可能】
景色が流れ込む。
まだ幼い男の子。
「父ちゃん!」
ガインが笑っている。
「今日は釘を打ってみるか!」
二人で木箱を作る。
笑い声。
夕日。
『いつか一緒に鍛冶屋になろうな。』
景色が変わる。
少年は成長する。
何度失敗しても、ガインは厳しく叱る。
「違う!」
「まだ甘い!」
少年は悔しそうに拳を握る。
『……もう嫌だ。』
最後に。
怒鳴り合い。
投げられたハンマー。
柄が折れる。
景色は終わった。
修は静かに息を吐いた。
「……ガイン。」
「うるさい親父だったんだな。」
ガインは苦笑した。
「自覚はある。」
修は笑う。
「でも。」
「嫌いじゃなかったんだろ?」
「……。」
ガインは答えない。
修はハンマーに手を置く。
「修理。」
淡い光が柄を包む。
木目まで元通りになった。
修はハンマーを返す。
「はい。」
ガインは受け取る。
「ありがとう。」
でも、その顔は晴れない。
修は工房の奥へ歩いていく。
そして古い木箱を持ってきた。
「これ。」
「え?」
「ガインが子どもの頃に作った木箱。」
「さっき見えた。」
ガインは驚く。
「なんで、それまで。」
修は笑う。
「直してたら。」
「見えちゃった。」
木箱には、不格好な釘が何本も打たれている。
でも、大切に使われていた跡があった。
ガインは木箱を撫でる。
「……こんなの。」
「まだ残ってたのか。」
その時。
工房の扉が勢いよく開いた。
「親父!」
入ってきたのは、一人の少年だった。
ガインの息子だ。
息を切らしている。
「親父!」
「家に忘れてた。」
そう言って差し出したのは、小さな工具袋。
ガインは目を丸くする。
「お前……。」
少年は照れくさそうに笑う。
「別に。」
「鍛冶屋になる気はない。」
「でも。」
「親父が作る剣は好きだ。」
「だから。」
「工具だけは届けに来た。」
ガインは何も言えなかった。
しばらく黙って。
大きな手で息子の頭をポンと叩く。
「悪かった。」
少年も少し笑う。
「俺も。」
二人は照れくさそうに笑い合った。
その横でリペは号泣していた。
「うわぁぁぁぁ!」
修は苦笑する。
「また泣いてる。」
リペは鼻をすすりながら立ち上がる。
「私も親子になりたいです!」
「誰と?」
「ご主人様!」
「急だな!」
リペは勢いよく抱きつこうとしてジャンプ。
勢い余ってガインへ飛び込む。
ドンッ!
ガインはびくともしない。
リペだけが跳ね返される。
ポーン。
クルクル。
ゴチン。
天井に頭をぶつける。
スポン。
頭だけが工具袋へスポッと入った。
「ご主人様ー!」
工具袋の中から声だけ響く。
少年は吹き出した。
「あははは!」
ガインも大笑いする。
「はっはっは!」
修は工具袋からリペの頭を取り出した。
「修理。」
カチッ。
リペは何事もなかったように敬礼する。
「今日も一つ!」
「笑顔が直りました!」
修は笑顔で頷く。
「ああ。」
「今回は、人間関係も一緒にな。」




