鞘の中の三連鎖、産毛に包まれた窒息
その街の境界、錆びたフェンスが迷路のように入り組み、外部の人間を拒む古い団地の影に、その「オーガニック・デリ」は湿った緑の息を吐いて存在していた。
今回、制服の襟を正しながら、肩を寄せ合って入ってきたのは、同じ職場で働く仲良し三人組の女性、絵里、美香、そして奈緒だった。
彼女たちは、常に一緒だった。
同じカフェに行き、同じブランドのバッグを持ち、SNSには「一生の親友」というタグと共に笑顔の写真を投稿し続ける。しかし、その「絆」の実態は、誰一人として輪から外れることを許さない、相互監視の鎖だった。一人が新しい趣味を見つければ他の二人が冷ややかに笑い、一人が自立しようとすれば、無言の圧力でそれを引き戻す。
「……私たち、ずっとこのままでいたいんです。外の世界は不安定で、汚くて、裏切りばかり。この三人だけの完璧な調和の中に、誰にも邪魔されずに閉じ込められていたい。分かち合えない他者なんて、最初からいらないんです」
リーダー格の絵里がそう言うと、他の二人は鏡合わせのような人形めいた動きで、深く頷いた。
店主の男は、三人の繋がれた手と、互いを縛り付けるような執着の視線をじっと見つめ、カウンターの上に「それ」を置いた。
「同調、ですね。硬い鞘の中で呼吸を合わせ、個という境界を溶かして一つになる……でしたら、これをお試しください。選ばれた者たちだけに許される、緑の寝室です」
店主が差し出したのは、銀色の皿に乗った、一房の巨大な枝豆だった。
それは野菜というよりは、分厚いフェルトで作られた「寝袋」、あるいは何かの幼虫を育む「繭」のようにも見えた。表面は細かく鋭い、白銀の産毛にびっしりと覆われ、そこからは、夏の湿った土と、どこか鉄錆のような匂いが混ざり合って漂っていた。
「『トリニティ・ポッド(三位一体の鞘)』。これを、沸騰した塩水で色が鮮やかになるまで茹で上げてください。そして、三人同時にその鞘を剥き、中の三つの実を同時に飲み込むのです。あなたたちの魂は、二度と引き剥がされることのない『一房』となるでしょう」
三人は、熱狂的な期待と共にその枝豆を持ち帰った。
彼女たちは、絵里の部屋で大きな鍋を囲んだ。塩が投入され、激しく沸騰する水の中で、緑の鞘が踊る。
ボコボコ。
茹で上がるにつれ、部屋中に、噎せ返るような濃厚な「豆」の匂いが充満した。それは、逃げ場のない湿気と、互いの汗が混じり合ったような、親密で息苦しい匂いだった。
彼女たちは、熱い鞘を三人の手で同時に掴み、力を込めて押し開いた。
中から現れたのは、瑞々しく、しかし血管のような筋が浮き出た三つの緑色の実。
「せーの」という合図と共に、彼女たちはそれぞれの実を飲み込んだ。
……重い。
それは胃に落ちた瞬間、互いの意識を磁石のように引き寄せ、強く結合させる衝撃だった。
「ああ……聞こえる。美香の考えていることが。奈緒の鼓動が……」
変化は、まず彼女たちの「皮膚」に現れた。
翌朝、三人が目覚めると、彼女たちの体は一つのベッドの上で、文字通り「癒着」していた。
絵里の右腕と美香の左腕、美香の脚と奈緒の背中。触れ合っていた部分の皮膚が溶け合い、一枚の分厚い、ざらついた緑色の「皮」へと変質していったのだ。
彼女たちの肌からは、あの枝豆と同じ鋭い白銀の産毛が芽吹き、外部からの接触を一切拒むように逆立っていた。
三日目。
彼女たちの境界は完全に失われた。
呼吸のタイミングは一つになり、心拍は一つのリズムで打たれる。
誰かが喉を鳴らせば、三人の喉が同時に潤い、誰かが恐怖を感じれば、三人の肌が一斉に粟立つ。
彼女たちは、自室の床の上で、巨大な、うねるような「緑の肉塊」へと変貌していった。
五日目。
彼女たちの肉体は、外側から「閉鎖」された。
周囲の空気から遮断するように、彼女たちの体を包み込む「鞘」が急速に形成されていったのだ。それは繊維質の、鉄よりも強靭な緑の壁。
その鞘は、三人を完璧に保護し、同時に、永遠に逃げ出すことのできない「三人のための棺」となった。
「……しあわせ……だよね……?」
「……うん……ずっと……いっしょ……」
「……だれも……いらない……」
声はもはや、鞘の内側で反響し、混ざり合い、誰が発したものか判別できない「一つのノイズ」へと変わっていた。
七日目。
彼女たちの肉体は、完全に「枝豆」へと置換された。
部屋の真ん中に横たわる、三メートル近い、三つの膨らみを持つ巨大な鞘。
その表面を覆う産毛は、今や針のように鋭く、不用意に触れれば肉を削ぎ落とすだろう。
鞘の内側では、三人の「顔」だったものが、一つの丸い緑色の球体へと圧縮され、血管のように絡み合った繊維で互いを縛り合っていた。
数週間後。
連絡が途絶えた娘を心配した絵里の両親が、警察と共に部屋へ踏み込んだ。
彼らが見たのは、家具がすべて腐食し、壁に緑色の産毛がびっしりと張り付いた、異様な静寂に包まれた部屋だった。
中央に鎮座する、三つの塊を孕んだ巨大な鞘。
一人が、その不気味な物体を動かそうとバールを差し込んだ。
パキッ!
乾いた、軽やかな音が響き、鞘の端がわずかに欠けた。
すると、その小さな隙間から、ドロドロとした緑色の「腐敗した液」が溢れ出した。それは三人の魂が溶け合い、腐り、発酵した成れの果て。
そして、その隙間からは、三人の声が重なり合った、細い、細い笑い声が漏れ聞こえてきたという。
「……これで……だれも……入って……これないね……」
外部を拒絶し、内側だけで完結した絆は、最後には自らの排泄物と腐敗の中で、誰にも知られず窒息していくしかなかったのだ。
店主は、今日もエプロンの上に付着した、白銀の鋭い産毛を、静かに指で払う。
「閉じられた楽園は、最後には個を喰らい尽くす墓場となります。さて、次は……どれほど美しく色づいても、内側には『苦味』と『空洞』しか残っていない。見かけ倒しのプライドに疲れ、他人に心を開くことを恐れる魂に。艶やかな光沢の裏で、種の叫びを閉じ込めた『ピーマン』などは、いかがでしょうか」




