彩りの世界の迷い子
入学からしばらく経ち、和美はようやく女子グループの片隅に自分の居場所を確保しつつあった。当初の刺すような好奇の視線は和らぎ、クラスの風景の一部として馴染んできたように思える。
だが、馴染んだのはあくまで「見た目」だけだった。
「ねえ、昨日アップされた新作のアイパレット見た?」
「限定色のテラコッタ、もう完売だって!」
飛び交う会話の内容に、和美は相変わらずついていけない。女子たちの勢力図は、出身小学校別のグループから、今や共通の趣味を軸としたものへと再編されていた。
コスメやファッションに命をかけるグループ、特定のアイドルを追いかけるグループ。それらは決して固定されたものではなく、休み時間のたびに波のように形を変えて混ざり合う。和美には、その流動的な力関係を読み解く余裕など到底なかった。
(みんな、どうしてそんなに詳しいんだろう……)
聞き役に徹することで、流行のワードや化粧品の種類が少しずつ記号として頭に入り始めた、そんなある日のこと。
「ねえ和美、これ似合うかな?」
結愛がひょいと顔を近づけ、潤んだ唇を少し尖らせて見せた。至近距離で見つめられ、和美は心臓が跳ね上がるのを感じた。
だが、何と答えるべきか、言葉が詰まる。そもそも何がどう変わったのかさえ、一瞬では判別できなかったのだ。
「ええと……あ、その……」
「あはは、ごめん! リップを変えたんだけど、和美にはちょっと難しかったかな」
結愛は気を悪くした様子もなく笑うと、それを機に「これはティントって言ってね」と、コスメの基礎を教え込んでくれるようになった。
ドラッグストアの新作、コンビニコスメのコスパの良さ、百均で手に入る優秀なアイブロウ。
男子として生きていた頃には、決して耳にすることのなかった単語が日常を彩っていく。
自分がそんな世界の一員として、女子たちと同じ地平に立っている。その事実に、和美は微かな感動と後ろめたさを覚えずにはいられなかった。
しかし、それ以上に「いつか化けの皮が剥がれるのではないか」という戸惑いと緊張が、和美の胸を常に小さく締め付けていた。




