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救世主と学級委員

「可愛いセーラー服を着たい」

 ただそれだけの、純粋で無邪気な憧れが動機だった。けれど、いざ蓋を開けてみれば、三年間という月日を「本来とは違う性」として生き続ける決断がどれほど重いものか、和美は早くも痛感していた。


 小学生の頃、たまに服を入れ替えて遊んでいたのとは訳が違う。これから三年間、和美は一瞬たりとも「和巳」に戻ることは許されない。その固定された日々に、背筋が寒くなるような後悔がこみ上げる。


 だが、同時にそれは「もう後戻りはできない」という覚悟に変わっていった。


 女子の世界は、男子だった頃には想像もつかなかった独自のルールで動いていた。その最たるものが「連れション」――トイレに一人で行かないという文化だ。

(そこから悩まなきゃいけないなんて……)

 教室の隅で途方に暮れる和美に、救いの手を差し伸べる者が現れた。


「和美ちゃん、小学校のお友達と離れちゃって寂しいでしょ? 私で良ければ、友達になってくれないかな」


 そう言って屈託のない笑顔を向けたのは、宮本結愛ゆあだった。

「トイレ、一緒に行こうよ!」

 その何気ない誘いは、和美にとってどれほど心強い救済だっただろう。結愛は和美を女子の輪へと自然に引き入れてくれた。


 そしてもう一人、和美を支える存在がいた。学級委員に選ばれた、しっかり者の高橋美咲みさきだ。

 美咲は常にクラス全体を俯瞰しており、和美が孤立しないよう、さりげなく女子たちの空気を差配してくれた。


 その真価が発揮されたのは、初めての体育の授業だった。

 女子更衣室という、和美にとって最もハードルの高い空間。周囲が迷いなく制服を脱ぎ始める中、和美は動悸を抑えられず、ただ立ち尽くしていた。


「和美、何してるの? さっさと着替えないと授業に遅れるよ」


 背後から美咲が声をかける。その声に急かされるようにして、和美はようやく手を動かすことができた。

 気後れして一歩引いてしまう時、いつも美咲が背中を押し、前へと出してくれる。


 救世主のような結愛と、頼れる美咲。

 二人の存在に守られながら、和美の危うい「()()中学生生活」は何とかその一歩を踏み出した。だが、胸の奥にある「嘘」の疼きが消えることはなかった。


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