セーラー服と嘘
春の陽光が降り注ぐ中、和美は念願のセーラー服に身を包んでいた。一歩踏み出すたびに、真新しい紺色のプリーツスカートが軽やかに翻る。その感触に胸を躍らせながら、和美は母親と並んで中学校の校門をくぐった。
しかし、華やかな高揚感は長くは続かなかった。
体育館の入り口で保護者と別れ、新入生だけの列に並んだ瞬間、和美を猛烈な不安が襲った。校長先生の祝辞も、吹奏楽部の演奏も、どこか遠くの出来事のようにしか感じられない。
式を終え、各教室に分かれると、教室内はすぐにかまびすしい空気に包まれた。
「ねえ、同じクラスじゃん!」
「部活どうする?」
あちこちで、出身小学校ごとのグループができあがり、再会を喜ぶ声が響く。だが、和美はその輪のどこにも入れずにいた。
……無理もない。
この教室にいる同じ小学校の卒業生たちは、和美のことを「男の子の和巳」としてしか知らないのだから。
やがて担任の先生が教室に現れ、騒がしかった生徒たちが席に着かされた。
「それじゃあ、一人ずつ自己紹介をしてもらおうか。名前と出身小学校、一言よろしく」
順番が近づくにつれ、和美の心臓は早鐘を打った。みんなは当たり前のように地元の小学校の名前を挙げている。自分はどう言えばいいのか。何度も喉元まで出かかった言葉を飲み込み、ついに自分の番が回ってきた。
「……面影和美です」
震える声を絞り出す。
「双子の兄は、この近くの小学校でしたが……私は、少し遠くの学校に通っていました」
その瞬間、教室の空気がわずかに変わった。同じ小学校出身の男子たちが、怪訝そうな顔で身を乗り出す。
「遠くってどこだよ?」
「面影……? おい、それって和巳の妹か? あいつに妹なんていたか?」
休み時間になると、案の定、和美の席の周りには人だかりができた。好奇心の視線が、針のように突き刺さる。
「なあ、和巳はどうしたんだよ? 今日来てねえだろ」
「和美ちゃんは、本当はどこの小学校だったの?」
母親と事前に打ち合わせをしてきた「設定」はある。けれど、いざ同級生たちを前にすると、それがひどく空虚で、脆いものに感じられた。
追い詰められた和美は、俯きながら、必死に言葉を繋いだ。
「和巳お兄ちゃんは……面影家の方針で、イギリスの学校に進学することになって。今は、別の場所にある英語の学校に通っています」
「私は、その……体が弱かったから、小学校は地元の学校じゃなかったんです」
クラス全員に嘘をついている。その強烈な後ろめたさに、和美の声は次第に小さく、消え入りそうになっていった。
翻るスカートの軽やかさとは裏腹に、和美の心は鉛のように重く沈んでいた。




